第44話 色々あったお茶会
セシリアとエリーナは、それぞれの馬車に揺られながら今日の出来事を振り返っていた。
クラリスとのお茶会を楽しむつもりだったのに、まさか見えないはずの精霊ヒカリの存在を知ることになるとは……。
けれど、不思議な出来事が重なりながらも、クラリスとの親睦を深められたことは、二人にとって大きな収穫だった。
◆◇◆
帰りの馬車(セシリア & ルーファ)
「……今日のお茶会、予想以上に驚くことばかりでしたね。」
馬車の窓から外を眺めながら、セシリアは静かに呟いた。
隣に座る風精霊のルーファも、同じく驚きを隠せない様子だった。
「まさかクラリス様が光精霊と特別な関係を持っているなんて……。それに、ヒカリは他の精霊とは違うように感じたわ。」
セシリアは小さく頷く。
「私たちがクラリス様の話を信じたことで、ヒカリ様の姿が見えるようになった……。」
「契約を結んでいないのに、クラリス様と強い絆を持っている。そんな精霊、今まで聞いたことがありません。」
ルーファの声には、驚きと戸惑いが入り混じっていた。
セシリアは考え込むように、馬車の揺れに身を任せる。
「……けれど、クラリス様はヒカリ様のことをとても大切に思っているようでした。」
「ええ。まるで……家族のようだったわ。」
「家族、ですか。」
セシリアはルーファの言葉を反芻する。
確かに、クラリスとヒカリの関係は、ただの精霊と人間のものではない。
もっと深く、お互いを信じ合い、支え合っているように感じた。
「……私たちも、主との関係を考え直す時期なのかもしれませわね。」
ルーファの言葉に、セシリアはハッとした。
「それは……どういう意味ですか?」
「ヒカリを見ていると、精霊は契約者を支えるだけの存在ではないのではと思えてきたの。」
「……確かに。契約者を守るだけでなく、共に成長していく関係。」
セシリアは静かに目を閉じる。
「クラリス様とヒカリ様のように……私たちも、エリーナ様ともっと深く繋がることができるのではないかしら。」
◆◇◆
帰りの馬車(エリーナ & エル)
一方、もう一つの馬車では、エリーナと水精霊エルが話し込んでいた。
「エル、今日のお茶会……すごく不思議なことばかりだったわね。」
「はい……特に、ヒカリの存在には驚いたよ。」
エルは小さく頷いた。
「でも、ヒカリ様の言葉を聞いて、少しだけ納得できた部分もあります。」
エリーナは興味深そうにエルを見つめる。
「な、納得?」
「はい。ヒカリ様は、『俺を信じるから見えるわけじゃなくて、クラリス様を信じるから見える』と言いました。」
「……確かに、そんなことを言っていたよね。」
エルは静かに続けた。
「クラリス様が持つ何かが、ヒカリ様の存在を形作っているのではないか……そんな気がします。」
「クラリスが持つ何か……。」
エリーナは窓の外を見つめながら考え込む。
クラリスは確かに、他の人とは違う何かを持っている。
それは単なる才能や強さではなく、もっと別の特別な力なのかもしれない。
「そ、それにしても、ヒカリの魔法……。」
「そうね。攻撃ではなく、癒しの力を持つなんて……。」
エリーナは腕を組みながら続ける。
「普通の精霊は、契約者の属性に影響を受けるものだけど……ヒカリは違う。彼自身が独自の魔法を持っている。」
「クラリスとの絆が、それを可能にしているんだと思う」
エルの言葉に、エリーナはハッとした。
「……クラリスとヒカリの絆。」
それが、ヒカリの特別な存在理由なのかもしれない。
「このまま見守るだけではなく、私たちもクラリスやヒカリ様から学ぶべきことがありそうね。」
「う、うん。ぼくももっと主と向き合っていきたい。」
エルの言葉に、エリーナは満足そうに微笑んだ。
◆◇◆
クラリスの部屋
一方、クラリスは屋敷に戻り、カインとヒカリと共に紅茶を飲みながら、今日の出来事を振り返っていた。
「ふぅ……色々あったけど、無事に終わってよかったわ。」
「うむ。俺はいつも通りだったが、お前は大変だったな。」
カインが腕を組みながら言う。
「うん……でも、セシリア様とエリーナ様とも仲良くなれたし、よかったと思うわ。」
「うん! 二人ともいい人だし、きっと今後も助け合えるよ!」
ヒカリは嬉しそうに笑った。
「……しかし、ヒカリ。」
カインが少し真剣な表情になった。
「お前の存在が徐々に広がりつつあることを、自覚しておけよ。」
「え?」
「セシリアとエリーナが見えるようになったってことは、これからもっと多くの人に影響を与えるかもしれない。」
ヒカリは少し考え込み、やがて小さく頷いた。
「……うん。クラリスと一緒にいる以上、俺もちゃんと考えなきゃね。」
「ええ。私も、あなたを守るために動くわ。」
クラリスの強い言葉に、ヒカリは嬉しそうに笑った。
こうして、ヒカリという特別な精霊を巡る物語は、また新たな展開を迎えようとしていた——。




