第41話 ヒカリが特別な理由
ルーファとエルが魔力操作の修行を続ける中で、ヒカリとカインもまた、自身の魔力を自在に操る訓練をしていた。
ヒカリの手のひらには光の槍が、カインの手のひらには焔の槍が形成されていた。
二人とも魔力操作に長けており、まるで息をするかのように自然に魔力を形に変えていた。
ルーファはその光景を目にし、驚きの声を上げる。
「えっ!? 魔力を槍の形に変化させたの?」
カインは当たり前のように頷いた。
「うむ。魔力を槍の形に変え、それを対象に放てば攻撃が可能になる。物理的な槍とは違い、魔力の塊だから防御を貫くこともできるぞ。」
「そ、そんなことまで……」
ルーファは唖然とした。
精霊がここまで魔力を自在に操るなど、通常では考えられない。
しかし、ヒカリの槍にはどこか違和感があった。
それを見たエルが疑問を口にする。
「あ、あの……ヒカリの槍も攻撃できるの?」
ヒカリは笑いながら答えた。
「えっ? 俺の槍は攻撃できないよ?」
「……え?」
エルとルーファは揃って驚いた顔をした。
「この槍を対象に当てると、逆に傷が治っちゃうんだよね。」
「は?」
ルーファはさらに困惑する。
「俺が魔力を変換できるのは盾と回復の二種類だからさ。ただし、闇属性の相手には回復の魔法が攻撃魔法みたいに働いちゃうんだけどね。」
「ど、どういうこと?」
エルが不思議そうに首をかしげる。
「要するに、俺の癒しの魔法は闇を浄化しちゃうってこと。例えば呪いを受けた人とか、闇属性のモンスターに使うと、ダメージを与えちゃうんだよね。」
「……癒やしも対象によっては毒になる、ってこと?」
ルーファが呆れたように言うと、ヒカリは「そんな感じ!」と笑顔で答えた。
「ヒカリ……やっぱりお前は特別な精霊だな……」
カインが腕を組みながら呟く。
◆◇◆
次にヒカリは魔力を対象に流す方法を見せることにした。
「魔力操作のやり方って、他にも色々あるんだよ。精霊って普通、契約者が魔法を使おうとすると勝手に魔力が流れるでしょ? でも、それを自分の意思で流すこともできるんだよね。」
「自分の意思で……?」
エルが驚いた顔をする。
「やってみるね。カイン、手伝って。」
「わかった。」
カインは頷くと、クラリスの方を向いた。
「クラリス、今から俺とヒカリの魔力をお前に流すぞ。」
クラリスは少し考えた後、頷く。
「わかった。でも、少しだけにしてね?」
「ヒカリ、クラリスから『魔力を流すのは少しだけにしてくれ』とのことだ。」
「了解! 細く流すね!」
ヒカリは楽しそうに答えた。
カインはクラリスに再確認を取り、合図を出す。
「ヒカリ、いいぞ。」
その瞬間——
ヒカリとカインの魔力が同時にクラリスへと流れ込んだ。
◆◇◆
クラリスは目を閉じ、ゆっくりと魔力の流れを感じ取る。
(……すごい)
カインからの魔力は熱く、まるで炎のように力強い。
それに対してヒカリの魔力は柔らかく、暖かい光に包まれるような感覚だった。
しかし、違和感があった。
(ヒカリの魔力……まるで、生命の息吹みたい……)
カインの魔力は明確に「火の力」だった。
しかし、ヒカリの魔力は「光」でありながら、どこか根本的に違う。
それを感じ取ったクラリスは、そっと目を開けた。
そして心の中でヒカリに話かけた。
「ヒカリ……あなたの魔力、ちょっと変わったね。」
「え? そ、そうかな?」
「すごく……温かいの。でも、今までの魔力とは少し違う気がする。」
ヒカリは「うーん」と考え込んだ。
「まあ、俺の魔力は回復に特化してるからね。光の属性っていうより……癒しの力そのものって感じなのかも?」
それを見ていたルーファが、はっとした表情でヒカリを見る。
「もしかして……ヒカリって、普通の光精霊じゃないんじゃ……?」
「えっ?」
エルも驚きの表情を浮かべた。
「そ、そうだよね闇を浄化出来るってそれだけで特別だと思う。」
ヒカリは自分の手を見つめる。
「特別……ねぇ……」
ルーファが、ヒカリを、特別だと思ったのはヒカリとカインがクラリスに魔力を流すのを見たからだ。
しかし、それ以上に信じられなかったのは——
ヒカリの魔力をクラリスが何事もなく受け入れていることだった。
「え? え? ヒカリってクラリスと契約してないよね? なのに、なんで何も起こらないの?」
契約していない精霊の魔力を人間が直接受け取るのは、本来ならば極めて危険な行為だ。
契約なしに精霊の魔力を受け入れると、魔力の性質が合わず、体に負荷がかかる。最悪の場合、魔力暴走を引き起こし、受け手の身体が耐えられなくなることもある。
しかし、クラリスはまるで何事もないかのように、ヒカリの魔力を受け入れていた。
ルーファの困惑した様子に、ヒカリは「うーん」と考えた後、笑いながら答えた。
「そこは、正直よくわからないんだよね。」
「……え?」
「でも、一つ言えることは——クラリスと俺の信頼関係かな。」
ヒカリは無邪気に笑いながら言った。
「俺たち、長い付き合いだからさ! 俺がクラリスを傷つけるわけないって思ってるし、クラリスも俺を信じてくれてる。それが関係あるのかもしれないね!」
ルーファは絶句した。
信頼関係? それだけで、魔力の適合が起こるの……?
精霊のルールに縛られていたルーファには、到底理解できるものではなかった。
◆◇◆
カインは腕を組みながら、冷静に考察を述べた。
「……考えられるとすれば、クラリスにヒカリの魔力を流すと、本来ならば負荷がかかるはずだ。」
「普通はそうだよね?」
ルーファがすかさず同意する。
「しかし、実際にはクラリスに何の異常も起きていない。むしろ、クラリスの体はヒカリの魔力を自然に受け入れている。それを説明するならば——」
「——まさか……?」
ルーファが息を呑む。
「可能性の話だが、ヒカリの魔力は普通の精霊の魔力とは異なり、癒しの効果を持っている。だから、もしクラリスの体に負荷がかかったとしても、その場で回復してしまうのではないか?」
「……!」
ルーファは驚き、エルも目を丸くしてカインを見つめる。
「そして、何度もヒカリの魔力がクラリスの体内を通ることで、クラリスの魔力回路が光属性の魔力に適応してきているのかもしれない。」
「つまり……ヒカリがクラリスを傷つけても、その魔力で回復させてるから問題がない、ってこと?」
エルが恐る恐る尋ねる。
「理屈としては、そういうことだな。」
カインが頷いた。
しかし——
「えっ!? 俺ってクラリスを傷つけてるの!?!?」
ヒカリは大慌てで叫んだ。
「いや、俺の考えにすぎない。」
カインは落ち着いた様子で言うが、ヒカリはまだ動揺している。
「ちょ、ちょっと待ってよ!? 俺、クラリスに魔力送る時、そんなつもりなかったんだけど!?」
「そもそも、お前の魔力は攻撃ではなく回復の力を持っている。だから、実際に負荷がかかっているかどうかも確証はない。」
「……でも、俺の魔力でクラリスが傷ついてたらどうしよう……」
ヒカリは不安そうにクラリスの方を見た。
「クラリス、大丈夫?」
クラリスは呆れたようにため息をつきながら、ヒカリの額を軽く指で弾いた。
「心配しすぎよ、ヒカリ。私は何ともないわ。」
「ほ、ほんとに?」
「ええ。むしろ、ヒカリの魔力は私にとって心地いいくらいよ。」
「……そっか、それならいいんだけど……」
ヒカリはホッと胸をなでおろした。
◆◇◆
ルーファはその様子を見て、考えを巡らせていた。
——ヒカリの魔力は、普通の光精霊の魔力とは違う。
——攻撃の力を持たず、回復と防御に特化している。
——そして、人間と契約していなくても、その魔力を受け入れられる存在がいる。
「……やっぱり、ヒカリは特別な存在なのかも……」
ルーファは小さく呟いた。
「でも……それなら……」
ルーファはちらりとエルの方を見た。
エルもまた、考え込んでいるようだった。
「私たちも、ヒカリみたいに……契約者を守るために、もっと魔力操作を学ぶべきなのかもしれない……」
ルーファのその言葉に、エルはハッと顔を上げる。
「……うん!」
エルも強く頷いた。
——そして、精霊たちによる魔力操作の修行が本格的に始まる。
ヒカリという異端の精霊の存在が、他の精霊たちの在り方をも変えようとしていた——。




