第35話 新たな仲間
クラリスの誕生日会は、王都の社交界の中でも一大イベントだった。
会場には煌びやかな装飾が施され、貴族たちの華やかな談笑が響いていた。
特に、同世代の令嬢や令息たちが集まり、社交の場としても重要な役割を果たしていた。
クラリスは中央に立ち、招待客たちと優雅に挨拶を交わしていた。
そんな中、ヒカリとカインは少し離れた場所から会場を眺めていた。
「すごいなぁ……クラリス、めっちゃ人気者じゃん」
ヒカリが感心したように言う。
カインは腕を組みながら冷静に周囲を見渡した。
「まぁ、クラリスは公爵令嬢だからな。当然と言えば当然だ」
「でも、こんなに人がいるのに、クラリスの本当の友達ってどれくらいいるんだろうな……」
ヒカリの言葉に、カインはふと考え込んだ。
確かに、クラリスは社交界では完璧な貴族令嬢として振る舞っている。
だが、それは「表向きのクラリス」であり、本当に気を許せる友達がいるかは別の話だった。
そんな時、ヒカリの視線がある二人の令嬢に留まった。
「ん? あの子たち……」
一人は、明るくてシャキシャキと話す令嬢。
鮮やかなエメラルドグリーンのドレスを着ており、そのそばには風の上位精霊が浮遊している。
もう一人は、どこかおどおどした雰囲気の令嬢。
淡い水色のドレスを着ており、視線を落としがちで、大人しい印象を受ける。
ヒカリは小声でカインに話しかけた。
「あの子、まだ精霊と契約してないみたいだな」
カインも彼女の様子を観察しながら頷いた。
「確かに、精霊の気配がしない。おそらく、まだ契約していないのだろう」
「でもさ、なんで契約できてないんだろ?」
ヒカリは疑問を口にした。
その時、会話に聞き耳を立てていた水精霊が控えめに口を挟んだ。
「あ、あの……あのオドオドした子、水属性だね」
「えっ、そうなの?」
ヒカリが驚いたように水精霊を見る。
水精霊は少し緊張しながら続ける。
「うん……でも、たぶん明るい子の精霊が上位だから、その影響で契約できてないんだと思う……」
カインは納得したように頷いた。
「なるほどな。精霊は、契約者の魔力の流れに引き寄せられる。だが、すでに強力な精霊が傍にいると、新しい精霊が近づきにくい場合がある」
ヒカリはしばらく考え込んだ後、突然、何かを思いついたように顔を上げた。
「……だったらさ、水精霊、お前があの子の精霊になればいいんじゃね?」
「な、な、なんでだよ!?」
水精霊は慌てたように声を上げた。
ヒカリは自信満々に説明する。
「だってさ、あの二人とクラリスが友達になったら、クラリスを助けてくれるかもしれないだろ? そこに水精霊がいれば、バランス的にも完璧じゃね?」
カインも少し考え込みながら言った。
「確かに、クラリスには信頼できる友達が必要だ。彼女が孤立しないように、同年代で信頼できる仲間を作るのは悪くない」
「だろ? それに、あの子は水属性なんだから、水精霊が契約すれば問題解決だよ」
水精霊は少し戸惑いながらも、じっとオドオドした令嬢を見つめた。
「で、でも……あの子、僕と契約したいって思ってくれるかな……?」
「それはまず話してみなきゃ分からないだろ?」
カインは腕を組みながら提案した。
「とりあえずクラリスに、あの二人と少し話してもらおう。それで様子を見ればいい」
ヒカリは嬉しそうに頷いた。
「おー、ナイスアイデア!」
カインの提案により、クラリスが二人の令嬢と話す機会を作ることになった。
誕生日会の終盤、クラリスはゲストたちと談笑しながら、さりげなく二人の令嬢に目を向ける。
明るく話しているエメラルドグリーンのドレスの令嬢と、少しオドオドしている水色のドレスの令嬢。
クラリスは優雅な微笑みを浮かべながら、そっと彼女たちに歩み寄った。
「初めまして。私の誕生日会に来てくださってありがとうございます」
クラリスが声をかけると、明るい令嬢が嬉しそうに顔を輝かせた。
「まあ! クラリス様からお声をかけていただけるなんて光栄ですわ!」
「私はセシリア・ウィンドレットと申します。こちらは幼馴染のエリーナ・レインフォールです」
セシリアは快活な笑顔を見せながら自己紹介する。
一方、エリーナは少し緊張したようにペコリと小さくお辞儀をした。
「ど、どうも……その……お招きいただき、ありがとうございます……」
クラリスは優しく微笑みながら言う。
「こちらこそ、お二人にお会いできて嬉しいわ。セシリアさんとエリーナさんは、とても仲が良さそうですね」
セシリアは笑顔で頷く。
「はい! 私たちの領地は隣同士ですし、小さい頃からずっと一緒なんです!」
エリーナも小さく頷くが、どこか遠慮がちだ。
クラリスはそんなエリーナの様子に気づき、少し話題を変えることにした。
「エリーナさんは精霊とは契約していないの?」
エリーナは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに俯いてしまった。
「……はい……私、まだ契約できていなくて……」
(カイン、これってチャンスじゃないか?)
(ああ、エリーナが精霊を求めているなら、水精霊との契約を促すのも手だな)
ヒカリは小声で水精霊に囁く。
「おい、水精霊、今がチャンスじゃね?」
「で、でも……ぼ、僕が行っても、エリーナさんが契約したいって思うかどうか……」
「それはまず接触しないと分からないだろ? とりあえず、クラリスにエリーナとあとでもう一回接触してもらおう」
カインも頷きながら、クラリスにそっと伝える。
「ええ。分かったわ」
クラリスはタイミングをみて話を進めることにした。
クラリスの誕生日会も終盤に差し掛かり、庭園には夜風が心地よく吹いていた。
華やかな宴の喧騒から少し離れ、エリーナは一人で静かに夜空を見上げていた。
そんな彼女に気づいたクラリスは、そっと歩み寄る。
「エリーナさん、少しお話ししてもいいかしら?」
「クラリス様……もちろんです」
エリーナは少し驚いたが、すぐに丁寧に返事をした。
ヒカリもその様子を見守っていたが、彼の存在はクラリスにしか見えず、聞こえない。
「エリーナさんは、精霊と契約したいと思っているの?」
クラリスは優しく問いかける。
エリーナは少し俯きながら、小さく頷いた。
「……はい。でも、今までずっと契約できなくて……私には才能がないのかもしれません」
「そんなことはないわ」
クラリスは微笑みながら言う。
「エリーナさんには、きっとあなたに合った精霊がいるはずよ」
その言葉を聞いたエリーナは、少し驚いたような表情を浮かべた。
すると――
「エリーナさん……ぼ、僕と契約しませんか……?」
突然の声にエリーナは目を丸くした。
「えっ……?」
彼女の目の前に、淡い青い光が揺らめきながら浮かんでいた。
水精霊の姿がはっきりと見える。
「な、なに……?」
エリーナは驚きながら後ずさるが、クラリスには水精霊の姿がまったく見えていない。
「エリーナさん、どうしたの?」
クラリスが心配そうに尋ねる。
「クラリス様……私の目の前に、小さな青い精霊が……」
クラリスは一瞬驚いたが、すぐに理解した。
(やっぱり……エリーナさんには、この水精霊が見えているのね)
クラリスには水精霊の姿も声も届かない。
でも、エリーナにははっきりと見えている。
「……私と契約してくれるの?」
エリーナはそっと水精霊に尋ねる。
水精霊は少し緊張しながらも、力強く頷いた。
「うん……エリーナさんの魔力は水の流れにとても近い……ぼ、僕はあなたと契約したい……」
エリーナは涙ぐみながら微笑んだ。
「……わかりました。お願いします、私と契約してください」
その瞬間、水精霊の体が淡い青の光に包まれ、エリーナの手元に水の紋様が浮かび上がりそして消えた。
「やったー!」
ヒカリが興奮するが、その声はクラリス以外には届かない。
カインは静かに微笑んだ。
「これで、クラリスにも新しい仲間ができたな」
エリーナは感動したように、自分の手元の紋様が浮かんで消えた所をじっと見つめる。
「……本当に、契約できたんだ……」
こうして、新たな精霊契約が結ばれ、クラリスの周囲にはまた一人、信頼できる仲間が加わったのだった。




