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光精霊に転生した俺は悪役令嬢推しでした!  作者: のほほん


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第233話 奇妙な師弟関係

守護王を倒し、出現した宝箱を回収した一行は、転送装置を使ってダンジョンの一階層へと戻ってきた。ダンジョンの入り口を出て、朝の冷たい空気に触れた途端、カインが「……さらばだ!」とだけ言い残し、どこかへと飛び去っていった。


「カイン、重症だね……」


ヒカリが、力なく遠ざかる赤い背中を心配そうに見送る。


「そうね、二日連続で同じ失敗をしちゃったからね」


ルーファも苦笑いする。


「どうせすぐ立ち直るだろ、あいつのことだ」


ラインはいつものことだと割り切り、他の精霊たちもそれぞれの主の元へと帰っていった。


薄っすらと空が明るくなり始めた頃、ヒカリも一旦、クラリスたちが眠る寮の部屋へと戻った。扉に施しておいた光の結界が破られていないことを確認し、中に入ると、安らかな寝息だけが聞こえてくる。


「まだ寝てるね……」


一息ついたヒカリだったが、やはりカインの様子が気になり、再び部屋を出た。魔力を辿ると、王都から少し離れた森の中にカインの反応がある。


森の奥へ進むと、開けた場所で項垂れるカインの姿を捉えた。だが、その光景はヒカリの想像を超えたものだった。


「あれ、カインの隣に何かいるな……」


カインの隣には、昨日彼を蹴り飛ばしたはずの「一角ウサギ」の魔物がちょこんと座っていた。


「はぁ……クソ……。何で、何で上手くいかないんだ……」


カインが情けなく愚痴をこぼすと、隣にいた一角ウサギが、右の前足でカインの肩をポンポンと叩いた。

(え? 一角ウサギに慰められてる……?)


ヒカリが驚愕していると、カインが一角ウサギに向き直った。


「アインよ、慰めなどいらんと言っているだろう! 我はただ、己の不甲斐なさを噛み締めているだけだ!」


「キュー」


それでも一角ウサギ――アインは、慈愛に満ちた目でカインの肩を叩き続けている。


(いやいや、どういう構図だよ、これ……)


とりあえず埒が明かないので、ヒカリは茂みから出てカインに話しかけた。ヒカリの気配を察したアインは、脱兎のごとくその場から離れ、少し遠くで様子を伺っている。


「ヒカリか……」


「えっと、失敗は誰にでもあることだからさ。そんなに落ち込まないで」


慰めるのが下手な上に一角ウサギが気になったヒカリは、話を替える。


「てか、さっきの一角ウサギは何なの?」


ヒカリの問いに、カインはフンと鼻を鳴らした。


「アインのことか。我の良き練習相手よ。昨日は不覚を取ったが、今は我の心を理解する稀有な獣だ」


(一角ウサギに名前付けてる……。しかもやっぱり、頭の文字だけ替えて『イン』で終わるんだな……)


ヒカリが森の中で見たのは、傷心のカインを慰める一角ウサギの姿という、あまりにもシュールな光景でだった。しかし、その穏やかな時間は突如として破られる。


アイン(一角ウサギ)がカインから少し離れ、草を食もうとしたその時、一組の冒険者パーティーが森の奥から姿を現した。


「おい、あそこに一角ウサギがいるぜ」 


「朝の試運転に丁度いいな。仕留めて朝飯の足しにするか」


冒険者の一人が無造作に弓を構え、アイン目掛けて矢を放つとアインは野生の勘でそれを回避し、冒険者たちを警戒して向きを変える。


「マジかよ、避けられたぜ」


「下手くそが、俺がやる!」


剣を抜いた冒険者が、アインへと襲いかかる。アインは必死に剣閃を避けるが、冒険者との圧倒的なレベル差には抗えなかった。鋭い一撃がその身を捉え、アインは深い手傷を負って倒れ込む。


「キュ、キュー……」


「む! アインが危ない!!」


弱々しい鳴き声が森に響いた瞬間、少し離れた場所にいたカインが察知し急いで飛びたった。


カインが現場に駆けつけたとき、そこには血を流して倒れるアインと、とどめを刺そうと矢を構える冒険者の姿があった。


「あー、クソ! 俺が仕留めるはずだったのに、横取りしやがって。……死ね!」


放たれた無慈悲な矢。しかし、それがアインに届く直前、ボッ! という激しい音と共に炎に包まれ、一瞬で灰へと変わる。


冒険者たちが驚愕して身構えたその中央に、燃えるような赤髪と瞳を持つ、人化した姿の青年――カインが突如として現れた。


「……誰だ、お前は!?」


「アインを……我の友を傷つけたのは、お前たちか!!」


カインの右手には、これまで見たこともないほど禍々しく、そして力強い紅蓮の炎が渦巻いている。怒りに我を忘れたカインの咆哮が響く。


「万死に値する! 灰となって消え去れ!!」


「カイン! それはダメだって!!」


ヒカリが慌てて割って入り、カインが放った極大の火球を『光のシャイン・シールド』で受け止めた。衝撃が森を揺らし、光と炎が激しくぶつかり合う。


「なぜ邪魔をする、ヒカリ!」


「カイン、人間を殺すのはまずいって! 落ち着いて!」


カインが宙に向かって叫び、独り言をつぶやくように見える冒険者たち。


「異常なほど強い青年」の姿に、冒険者たちは腰を抜かした。


「う、うわぁぁ! やべーぞ、あいつ! 逃げろ、逃げろ!!」


冒険者たちは武器を放り出し、一目散に森の奥へと逃げ去っていった。


「くっ……! アイン、大丈夫か!?」


カインが慌てて駆け寄るが、アインの呼吸は荒く、今にも消え去りそうだった。ヒカリはすぐさま魔法を唱る。


『光の治癒シャイン・ヒール』!


柔らかな光がアインを包み込むと、深い傷がみるみるうちに塞がっていった。


「キュ、キュー!」


元気を取り戻したアインは勢いよく起き上がり、カインの周りを嬉しそうに飛び跳ねる。それを見たカインは、安堵からか深く息を吐く。


「心配したぞ、アインよ……。あんな奴らに二度と負けぬよう、これから我と特訓だ!」


「キュー!」


(いやいや……何かおかしくない? 精霊が魔物を弟子にして特訓するって……)


ヒカリが呆れていると、カインが真剣な顔でこちらを振り返る。


「ヒカリよ。アインが強くなるまでの間、不測の事態を防ぐために『光の結界』を頼む」


(マジかー! ……はぁ。まあ、これでカインの気が紛れて、昨日のショックから立ち直るならいいか)


「わかったよ。はい、『光の結界シャイン・バリア』。これでしばらくは、格上の魔物に襲われても大丈夫なはずだよ」


「恩に着るぞ、ヒカリ! さあアイン、まずはその足腰を鍛え直してくれるわ!」


森の中では、赤髪の青年(精霊)が一角ウサギに熱血指導を始めるという、さらにカオスな光景が繰り広げられることになった。


日が昇りきり、学園全体が朝の光に包まれるのを確認して、ヒカリは大きなため息をつきながらクラリスたちの部屋へと戻った。


「……ふぅ。カインのやつ、本気でウサギを育てるつもりなのかな」


そんな独り言を漏らしながら部屋に入ると、ちょうどクラリスがゆっくりと目を覚ましたところだつた。


「……ふわぁ、おはよう、ヒカリ」


「おはよう、クラリス」


クラリスは眠そうに目をこすりながら、部屋を見渡します。


「あら、カインは? いつもなら朝から騒がしいのに」


「……特訓中だよ」


(一角ウサギの『アイン』とね、とは言えないけど)


ヒカリが苦笑いしている間に、ファナとモニカもガバッと起き出した。


「おっはよー! 今日は休みだね! 何して遊ぶ!?」


朝からエンジン全開のファナに、モニカも「……まだ眠いですぅ」と言いつつベッドから這い出してきた。


「今日は、朝からちょっとみんなに付き合ってもらいたいんだ。見せたいものがあってさ」


ヒカリの言葉に、クラリスたちは顔を見合わせ、キョトンと首を傾げた。


朝食を終えて、クラリス、ファナ、モニカ、セシリア、エリーナの5人が学園の訓練施設へと集まった。


「それじゃあ、お披露目するね。学園ダンジョンで武器が二個ドロップしたんだけど、精霊たちで話し合った結果、扱える人にあげようってことになりました」


ヒカリが取り出したのは、五十階層の主『黒曜石の守護王』が遺した二つの遺物。その異様な存在感に、一同の視線が釘付けになった。


一つは、禍々しくも美しい黒光りを放つ杖。


名前は――魔断の重杖『アビス・ゲート』。

特徴: 握り手以外を握ると魔力を弾くが、握り手を持って使用すると魔力効率と威力が上昇するが、重い。


そしてもう一つは、なぜか猫の肉球が装飾された石造りの重手甲。


名前は――黒曜の猫拳『こくようのびょうけん』。

特徴: 外は魔力を弾くが、中は魔力を弾かない。圧倒的な攻撃力を要するが、重い(撲殺用)。


クラリス、ファナ、セシリア、エリーナ、モニカが試す。この中で黒曜石の武器を操れる者が現れるのだろうか。

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