第232話 守護王の終焉
ついにカインの堪忍袋の緒が切れた!度重なる失敗と「ボフッ」という醜態に、彼の自尊心が限界を超えたのだ。
【暴走カイン、爆誕!】
「うぉぉぉぉー! この我を、この炎の精霊たる我をここまで愚弄するとは……万死に値するぞッ!!」
(いやいや、自爆しただけでしょ)
ヒカリは心の中で突っ込んだ。
カインの体から、いつもの可愛らしい火種とは比較にならないほどの、禍々しいまでの紅蓮の魔力が吹き上がります。それはまさに、理性をかなぐり捨てた「暴走状態」。
「我が魔力、極点へ至れ……《エクスプローションマジック》!!!」
カインを中心に放たれた超火力の爆炎が、竜巻のように渦を巻いて『守護王』の巨体を飲み込んだ。
「ハハハ! 灰すら残さぬ! その硬い石の体ごと焼き尽くしてくれるわ!!」
狂ったように笑うカインに対し、ザード(ヒカリ)が必死に叫びます。
「カイン! ダメだ、そんな広範囲魔法じゃ魔力を拡散されて意味がないって!!」
しかし、今のカインの耳に仲間の声は届かない。激しい爆炎の勢いが収まり、黒煙が晴れていくと……そこには、無傷どころの黒光りする守護王の姿があった。
「ギギ……ガガガガッ!!」
【黒き魔力の蹂躙:オブシディアン・シャワー】
「なに!……、全然効いてない……!?」
カインが絶望に目を見開いた瞬間、守護王の放つ黒い魔力が地を這うように広がり、さっきラインたちが切り落とした「腕の残骸」に絡みつく。
カタカタと不気味に震えながら、巨大な黒曜石の破片が宙に浮き上がる。
「ヤバい! みんな避けて、今すぐ!!」
ザードの警告と同時に、宙に浮いた無数の鋭利な破片が、守護王の黒い魔力によって超高速の弾丸へと変えられた。
「ギガァァァッ!!」
シュババババババッ!!!
全方位に向けて放たれた黒曜石の散弾。それは避ける隙間もないほどの密度で、精霊たちとザードへと襲いかかる。
「まじかー!」
ザード(ヒカリ)は叫びながら、『光速の縮地』で一気に『黒曜石の守護王』の懐へと飛び込む。しかし、守護王もさるもの、ザードの動きに合わせ、巨大な黒曜石の剣を容赦なく振り下ろす。
「ヤバ!」
空気を切り裂く轟音。ザードは再び『光速の縮地』を使い、紙一重でその一撃を回避して距離を取る。
光の盾!
パキィィィン! と小気味よい音を立てて、ザード(ヒカリ)が精霊全員に展開した光の結界が無作為に飛び回る黒曜石の残骸を弾き飛ばしました。
「お! 残骸自体にはそれほど攻撃力は無いんだな」
盾の感触から、一つ一つの破片は牽制程度だと判断したザード。しかし、守護王の攻撃はそれで終わりではなかった。守護王は、まるで意志を持っているかのように全ての残骸を自身の周囲に集め始める。
「……何をする気だろ?」
ザードが呟いた瞬間、守護王は渦巻く残骸の全てを一点、ザード目掛けて一気に放つ!
「うわっ!」
凄まじい密度の弾幕。光の盾が次々と残骸を弾くが、弾かれた破片は守護王の魔力によって再び軌道を変え、しつこくザードへと襲いかかる。
「ヒカリ、危ない!!」
ルーファの叫びが響く。
無数の残骸がザードの周囲を埋め尽くし、完全に視界を奪われたその刹那――守護王の巨大な一本の剣が、盾の死角から一直線に放たれた。
パリーン!
重厚な一撃が、ついにザードの光の盾を粉々に砕く。
防御を失った無防備なザードの体へ、滞留していた無数の残骸が牙を剥いて殺到する。
「ヤバ!」
迫りくる巨大な剣と残骸に対し、ザード(ヒカリ)は反射的に叫んだ。
『シャインプリズン(光の牢獄)』!!
その瞬間、光の牢獄が黒曜石の巨剣を包み込むように、立方体の光の結界が出現した。激しい音と共に剣は空中で静止し、光の檻の中に完全に閉じ込められた。
「……あれ。……あー、そっか」
急にザードが、戦いの最中だというのに一人で納得したように呟く。
「どうしたのヒカリ!? ぼーっとしてる場合じゃないわよ!」
「なるほどね、そうなるわな……」
「何がよ!」
ルーファが必死に風で残骸を追い払っている横で、ザードは頭をかきながら答える。
「いやー……単純に、魔力を断てばいいだけだって、今さらながら気づいたんだよね」
「……は?」
「この残骸、守護王から流れ出てる魔力のラインで操られてるでしょ? だったら、そのラインを物理的にじゃなくて、魔法的に遮断しちゃえばいいんだって思って」
ザードは人差し指を立てて、周囲を舞い踊る無数の黒曜石の欠片を指差しました。
「『シャインプリズン』を、すべての残骸に細かくかければ、空間ごと隔離されて魔力が届かなくなる。そうすれば、残骸はただの石ころに戻るよね」
言うが早いか、ザードは両手を広げ、魔力を一気に解放する。
「みんな、ちょっと眩しいよ! 『シャインプリズン・マルチバースト』!!」
パキパキパキッ! と乾いた音が空間に満ちると、ザードを襲っていた無数の残骸、その一つ一つを包み込むように、極小の光の立方体が同時多発的に出現する。
すると、あんなに獰猛に飛び回っていた黒曜石の嵐が、嘘のようにピタリと停止し、守護王から伸びていた魔力の糸が、光の壁によって完全に遮断された。
ガラガラガラッ……!
推進力を失った残骸たちは、ただの重い石となって床に転がり落ちる。
「……うそ、あんなに苦労してたのに、これだけ?」
ルーファが呆然と呟きます。
「ギギ……!? ガガ……ッ!?」
自分の「腕」であり「武器」であった残骸の制御を奪われ、守護王が困惑したように巨体を揺らす。
魔力を送ろうにも、光の檻が邪魔をして一向に繋がりらない。
「人化して頭が固くなってたかな。……さて、武器がなくなったなら、今度こそ終わりだよ」
「まずは、腕を全部落としちゃおうか」
守護王が、丸裸になったとはいえ三本の剣は、厄介だと思ったヒカリは精霊たちに指示をした。
ザード(ヒカリ)が囮となり、その超速の動きに守護王の目が釘付けになる。その隙を逃さず、精霊たちが連携して巨大な黒曜石の腕を一本ずつ確実に落としていく。
落とされた腕が魔力で再起動する前に、ヒカリは即座に『シャインプリズン』を展開。切り離された瞬間に隔離された腕は、もはやただの動かない石塊へと変わる。
四本の腕すべてを失い、完全に武器を封じられた守護王。
「さて、チェックメイトだ!」
『光羽の舞踏』!
シュシュシュシュシュッ!!
一瞬の間に放たれた無数の光の刺突が、剥き出しになった守護王の中心核に吸い込まれました。
「ガ、ガガ……ギ……ッ!」
黒曜石の欠片が光の粒子となって消えていき、後には大きな「魔石」と、重厚な「宝箱」だけが残された。
「ふぅ……。やっぱり、魔力の供給源を遮断するのが一番早かったね」
ヒカリがザードの姿を解き、いつもの精霊の姿に戻って息を吐く。
「見事な手際だったわ。あんなに厄介だった残骸を、ただの飾り物にするなんてね」
ルーファが感心するとフロストも「ヒカリの観察眼には恐れ入るのじゃ」と、言葉をかけてきた。
「じゃあ宝箱開けて帰ろうか」
期待に胸を膨らませてヒカリ(ザード)が蓋を開けると、中には二つの不思議な装備品が入っていた。
一つは、禍々しいほどに黒光りする「黒曜石の杖」。
そしてもう一つは……なぜか猫の肉球を模した、しかし石造りでゴツい「黒曜石の猫パンチ?」。
「これは、一旦俺が預かるね」
ザードが当然のようにそれらを回収しようとすると、すかさず精霊たちから待ったがかかりった。
「ちょっと! なんでヒカリが独り占めするのよ!」
ルーファが詰め寄れば、ラインも続きます。
「そうだぞ。その杖は魔力伝導率が高そうだ。ぜひファナに持たせるべきだ!」
「いいえ、セシリアにこそ似合うわ!」
「え、エリーナだって使えるはずよ」
「アレンもいるのじゃ! その猫のなんとかいうやつは、アレンにふさわしいのじゃ!」
フロストまで参戦し、それぞれの主(契約者)に手土産を持ち帰ろうと大騒ぎする。しかし、ザードは至って冷静だった。
「みんな、落ち着いて。まず、アレンは剣士なんだから、この武器を渡しても意味がないよ」
「む……それはそうなのじゃ」
フロストがうなだれると、ザードは次に「猫パンチ?」を掲げました。
「それからこの『猫パンチ?』だけど……これを装備したら、すぐに腕が動かなくなると思うよ」
「な、なぜじゃ!? 威力は高そうなのに!」
「そこがみんなに言えることなんだけどさ……黒曜石って、めちゃくちゃ重いんだよ」
ザードの言葉に、精霊たちは一瞬きょとんとする。
「ファナなら持てるぞ! 彼女の筋力を舐めるなよ」
「セシリアだって、強化魔法を使えば……」
「『持てる』と『戦闘で使いこなせる』は別物だよ。この重さで振り回し続けたら、関節を痛めるか、隙だらけになるのがオチだ。……魔法を分散する性質があるから、強化魔法での補佐も難しいしね」
ヒカリの理路整然とした説明に、精霊たちはぐぬぬと黙り込む。
「ちょうど明日は学園の休日だし、一度みんなのところへ持って行こう。実際に持ってみて、ちゃんと使える人がいたらその人に渡す、でいいかな?」
「……ええ、いいわよ。公平だわ」
「ああ、問題ない」
「う、うん……」
「フロストは諦めてね。アレンにはもっといい剣を探そう」
「むむむ……分かったのじゃ」
ようやく話がまとまり、一行は地上へ戻る準備を始めた。
しかし、その傍らでは……。
「…………(ちーん)」
自分の最大火力が通用しなかったショックと、ヒカリのあまりに鮮やかな解決策に打ちのめされたカインが、真っ白に燃え尽きたような顔で座り込んでいた。
「カイン、もう行くよ? 」
ヒカリの声にも反応せず、カインは魂が抜けたようにフラフラと立ち上がり、無言で出口へ向かって歩き出した。




