第229話 カインVSホーンラビット
ヒカリは、ソラリスに質問する。
「ねーねー、ソラリス銅像っていつ出来上がるの?」
「式典は一ヶ月後じゃったかのう。ようやく形が見えてきたところじゃ」
ソラリスはそう答えると、ふと思い出したようにヒカリへ向き直りました。
「そうじゃ光精霊よ、一つ頼みがあるんじゃが、世界樹への銅像の輸送を頼めんかのう?」
「……何で?」
ヒカリが露骨に首を傾げると、ソラリスは困ったように事情を説明した。
「世界樹へ銅像を設置するうえで問題が起きてのう、運搬にはかなりの人手が必要なんじゃが、世界樹は神聖な場所でな、あまり多くの人を入れたくないのじゃよ」
「ああー、確かにそうだね」
「そこでじゃ。お主が収納して運べば、余計な人手はいらんじゃろ?」
ソラリスの言っていることは至極真っ当な正論でしたが、ヒカリとしては「またか」という思いが拭えません。
「……ソラリスさ、僕のことを便利な小間使いか何かだと思ってない?」
ヒカリが少し拗ねたふりをして唇を尖らせると、ソラリスは、フォローを入れる。
「む、そう言うな、信頼できるお主にしか頼めぬのじゃ」
「はぁ……。まあいいけどさ。その代わり、僕との約束、ちゃんと守ってよ?」
ソラリスは、首を傾げる。
「約束とはなんじゃ?」
「えー! もしかして忘れてる!? 『世界樹の枝』の件だよ!」
「おおー、そうじゃったな」
ヒカリは、ソラリスの様子を見て思った。
(どうせ世界樹の枝は、手にはいらないと思って、また忘れるんだろな)
「式典までは、手伝うけど約束は守ってよ」
「分かっとる、分かっとる」
気を取り直して、ヒカリは式典の内容について質問を続ける。
「その式典では、誰かが、お祈りするの?」
「うむ、祈りの役はララが務める予定じゃ」
「へー、そうなんだ。ララが……」
ヒカリはふと、前世でプレイしていたゲームの記憶を辿る。
(ゲームの設定だと、ヒロインのミリアが世界樹に祈りを捧げることで、奇跡が起きて世界樹の枝が降ってきたんだよな。今回はララがその役をやるのか……)
ソラリスはさらに詳しい式典の参列者について説明しだした。
「式典の際、世界樹の結界内に入れるのは、他国の王族一人とその護衛一人のみじゃ。王族以外じゃとクラウ卿と、聖女のナタリーだけじゃな」
「ナタリーも来るんだ」
「うむ。聖女ナタリーには、銅像の仕上げとして、お主が持っておるあの魔石をはめ込んでもらう予定じゃ」
(そういえば魔石を体内に保管したままだったな)
ヒカリもすっかり忘れていた。
「じゃあ、式典前に魔石渡さないとね」
「そうじゃな、王都の銅像にもはめないといかんからな」
ヒカリはふと外を見ると日が傾いていることに気付いた。雷蔵との模擬戦で、時間を使っていた影響でいつもより時間が押していたのだ。
「やば!そろそろ帰らないと。またね!」
そう言い残すと、ヒカリはふわりとザードの姿を解き、いつもの小さな光の精霊へと戻って、そのまま羽ばたくようにして、開け放たれた窓から空へと飛び去っていった。
ヒカリの姿が消えるのを見送った後、執務室には沈黙が流れた。ソラリスは、未だにトゲのある空気を纏っているララを横目で見ながら、静かに呟く。
「ララよ……あやつは精霊じゃぞ。人間のような機微を期待しても酷というものじゃ」
「分かってます。……分かってますけど」
ララは唇を噛み、ヒカリが消えた夜空をじっと見つめた。ソラリスはやれやれといった表情で肩をすくめ、山積みになった書類に視線を戻す。
一方、風に乗って飛びながら、鈍感なヒカリはこれからの行動を整理する。
(さてと……。まずは一ヶ月後の世界樹の式典、その次が武闘会か。……そういえば、世界樹の式典なんて、原作のゲームには無かったよな)
ヒカリは前世でプレイした知識を必死に手繰り寄せる。
ゲームの展開では、世界樹が瘴気に汚染され調査の為に来たヒロイン・ミリアのパーティーが、魔族に襲撃されるが返り討ちにする。
戦闘後にヒロインのミリアが世界樹に祈りを捧げることで、浄化の奇跡が起き、その報酬として世界樹の枝が手に入る。
(でも、今回はミリアじゃなくてララが祈る予定だし、そもそも魔族は俺たちが倒したしな。今後どうなるんだろ……)
かつて瘴気生成装置を破壊し、魔族の物資輸送ラインを叩き潰したヒカリ。魔族側がこちらの動きを警戒し、計画を変更しているのは間違いない。
ただ、ゲームとは展開が違う為に、この先の展開が読めない。
(明日は雷蔵くんのところへ行って、最近森の周辺で怪しい奴らを見かけなかったか聞いてみるかな)
(よし!飛ばすか!)
ヒカリは明日の予定を決めると、クラリスたちの寮に向かって速度を上げた。
ヒカリがクラリスたちの寮に戻り、しばらくのんびりしていると、クラリスたちが帰ってきた。
「ヒカリ、ただいま!」
「お帰り、クラリス。お疲れ様」
ヒカリはみんなを出迎えるが、いつも騒がしい赤い精霊の姿が見当たらない。
「あれ? カインは一緒じゃないの?」
「カインなら『ヒカリが居るから問題無いだろう。我は、用事がある』って言って、途中でどこかへ飛んでいっちゃったわよ」
クラリスの言葉に、ヒカリは隣にいたラインを見るとラインはやれやれと首を振った。
「……どうせ、どっかで人化の練習でもしてるんじゃねーか?」
「相当悔しかったんだろうよ」
ヒカリは「確かにね」と納得した。プライドの高いカインは納得がいかなかった。
その頃、カインは王都から少し離れた人気のない林の中にいた。
「クソ! ヒカリに出来て、この我に出来ぬわけがない!」
カインは周囲を警戒しながら、ぐっと魔力を練り込む。
「はぁぁぁっ!!」
眩い光とともに、カインの姿が変化し、体型が引き締まり、燃えるような赤髪と鋭い赤目を持つ青年の姿へと変わった。
「うむ。人化するだけなら余裕だな。問題はこの先……」
カインはさらに右手に意識を集中させ、人化を維持したまま、自らの属性武器である大剣を具現化しようと魔力を練り始めた。
「むおー! もうちょっとだ……逃げるな魔力! そこに留まれ……よし! 完成だ!」
カインの手には、炎を纏った無骨な大剣が現れた。しかし、よく見るとその輪郭は微妙に揺らいでおり、安定していない。
「……ふん、これならいける。あとは実戦だな」
ちょうどその時、草むらから一匹の「一角ウサギ(ホーンラビット)」が姿を現した。今のカインには絶好の標的だ。
「ふははは! 貴様、我が新技の錆びにしてくれるわ! 行くぞッ!」
カインは地を蹴り、一気に一角ウサギへと詰め寄ると剣を振り上げ、全力で叩きつけようとした――その瞬間。
ボフッ!
「なっ……!?」
急激な魔力消費に制御が追いつかず、カインの肉体を構成していた魔力が霧散した事により青年から元の「精霊」に戻った。
その瞬間、勢い余って地面をごろごろと転がりそこへ、逃げるどころか好機と見た一角ウサギが、強靭な後ろ足でジャンピングキックを放つ。
「まっ、待ってくれ!」
カインが、魔物に制止を呼びかけるが、魔物は待つ事はない。
「ギャフン!?」
ドゴォッ! と鈍い音がして、カインはウサギの蹴りを真正面から受け、そのまま後ろの大木まで吹き飛ばされた。
「……ク、クソー……なぜだ……なぜ剣を持とうとすると解けるのだ……」
大木にめり込んだカインは、去っていくウサギの背中を恨めしそうに見つめた。




