第225話 華麗なる舞い
ヒカリがザードの姿で「華麗な舞い(と、ちょっと恥ずかしいセリフ)」に没頭していると、頭の中にルーファからの念波が届きました。
『ヒカリ、階段を見つけたわよ。合流して』
「あ、了解。すぐ行くよ」
ヒカリは我に返ると、慌てて光のレイピアを消し、ルーファの魔力が感じる方向へと駆け出した。
階段の前には、カイン、フロント、ルーファ、エル、ラインの全員がすでに揃ってた。そのまま一行は、静寂の漂う階段を下り、三十五階層へと足を踏み入れる。
「……次は、ボス部屋だね」
重厚な扉の前に立ち、ヒカリが仲間に問いかけた。
「誰がやる? いつもの感じだとカインかな?」
三十五階層のボス程度であれば、今の彼らなら一人でも十分に相手ができる。逆に全員で戦えば、文字通り瞬殺してしまい、訓練にもならない。
いつもなら「我に任せろ!」と一番に前に出るはずの戦闘狂・カイン。しかし、彼はなぜか動こうとせず、腕を組んだままフッと不敵な笑みを浮かべた。
「あれ? カイン、やらないの?」
「いや……ここはヒカリに任せよう。なあに、先ほどの『鍛錬』の成果を見せてほしいだけだ」
「……あ」
カインの目は、明らかに「さっきのルミナ・ダンス、ここでやってみせよ」と言わんばかりにヒカリを見つめた。先ほどヒカリに「自分だってカッコつけてる」と追求されたことへの、彼なりの意地悪な意趣返しだ。
「そうじゃな。お主の『人の姿での実力』、わしらもしっかりと目に焼き付けておきたいものじゃ」
フロントまでがニヤニヤしながら便乗する。
「……分かったよ。見ててよね。後で『真似したい』って言っても教えないからね!」
ヒカリは開き直ると、ザードの姿のまま一歩前に出た。
内心では(うわぁ、みんなが見てる前で技名言うの、さっきよりハードル高いんだけど!)と叫びつつも、今の全力をぶつける事を決意する。
ギギギ……と重厚な音を立てて、ボス部屋の扉が開いた。
そこに鎮座していたのは、全身が白金の鱗で覆われた巨大なゴーレム、「白金鋼の番人」。
「よし……。——星の煌めき、この剣に宿れ」
あえて聞こえるように呟くと、ヒカリの手元に白銀のレイピア『聖光の白翼』が再び具現化される。
ヒカリは踏み込むとプラチナム・ガーディアンに向かって一気に加速する。
プラチナム・ガーディアンはヒカリに向かって大きな剣を振りかざした。
ヒカリは素早く『光の階段』を発動する』と光の足場が無数に現れる。
プラチナム・ガーディアンの巨大な剣が、空気を引き裂きながらヒカリへ向かって振り下ろされる。
ドォォォォォン!!
大地が震えるほどの衝撃。しかし、そこにヒカリの姿はない。
「こっちだよ」
ヒカリは中空に展開された『光の階段』を、軽やかな足取りで駆け上がっていた。一段、また一段と光の足場を蹴るたびに、加速がつく。
「ギ、ガ、アアアアッ!」
番人が空を仰ぎ、巨腕を振り回してヒカリを叩き落とそうとするが、ヒカリは蝶のようにひらりと身を翻した。
(よし、練習通り……いや、練習以上のキレだ!)
ヒカリは空中で三回転し、逆さまの状態で足場を蹴ると、番人の背後——剥き出しになった魔力回路へ向かって急降下した。
「受けてみよ——『閃光の軌跡』!!」
光のレイピアが一閃。
白金鋼の硬い装甲を、凝縮された光の刃が熱したナイフでバターを切るように容易く貫通した。
「グガァッ!?」
体勢を崩した番人。ヒカリは着地することなく、そのまま足場から足場へと飛び移り、四方八方から追撃を叩き込む。
「これで終わりだ……舞い踊れ、『光羽の舞踏』!!」
シュシュシュシュシュシュシュッ!!
一秒間に数十回。もはや肉眼では捉えきれない超高速の突きが、番人の巨躯に吸い込まれていく。一突きごとに光の花びらが散り、番人の全身が眩い輝きに包まれていった。
(お、今のは、カッコよかったな! 今、最高にカッコいいはず!)
最後の一撃を喉元に突き刺すと、ヒカリは重力を無視したような優雅な着地を決め、背を向けたままレイピアを静かに消失させた。
背後で、プラチナム・ガーディアンが内側から溢れ出す光に耐えきれず、音もなく粒子となって消滅していく。
「ふぅ……。チェックメイト、かな」
前髪をスッと整え、完璧な決めポーズで振り返るヒカリ。
プラチナム・ガーディアンを「華麗に」撃破し、残光の中で決めポーズをとったヒカリ(ザード)。
背後で霧散していくボスの粒子を背に、ヒカリはおずおずと仲間たちを振り返りました。
「ど、どうかな……?」
期待と不安が入り混じったヒカリの問いかけに対し、カインはフッと鼻で笑った。
だが他の精霊たちの反応は全く違った。
「光の盾を足場にして加速し、敵の背後に回り込んで一撃……か。最後は倒れたところを畳み掛けるように剣で突いたな。かなり理に適った動きだったぞ」
ラインが冷静に戦闘を分析し、感心したように頷ずく。
「動いている時に光の魔力の粒子がキラキラしてて、とっても綺麗だったわよ、ヒカリ」
「う、うん……。凄かった、本当の剣士みたい……」
ルーファとエルが手放しでヒカリを褒め称えると、カインの表情がみるみる曇っていく。
「そ、そうかな……えへへ」
照れ臭そうに頬をかくヒカリ。その様子を見て、カインが我慢できなくなったのか、無理やり会話に割り込んできました。
「今の動き、まぁまぁ良かったぞ。認めてやらんこともない」
精一杯の歩み寄りを剥せるカインだったが、調子に乗ったヒカリは、ここぞとばかりにカインを煽り始める。
「あはは、ありがとう。でも、人の姿を維持しつつ戦闘するのって、かなり難しいんだよね。魔力操作が繊細じゃないとできないっていうか……違和感無く人化を維持しつつ戦闘をやってる雷蔵君はやっぱ凄いんだなって実感したよ」
ヒカリには前世の記憶がある。かつての自分をイメージするだけで、比較的容易に人化を維持出来るが、ヒカリと違って雷蔵は純粋な精霊だ。
精霊にとって、人化を保ちつつ激しい戦闘を行うのは、並大抵の努力では成し遂げられないと実感したのだ。
「ふん! その程度、我にできぬはずがなかろう!」
「いやー、多分カインには無理かな? だって今のカイン、魔力が高すぎて制御しきれないでしょ?」
「なっ……! 見ておれ!!」
ヒカリの露骨な誘いに、カインがまんまと乗りました。
カインは全身に魔力をみなぎらせ、人化の術を開始した。しかし、今のカインの魔力は、かつて幼児化していた頃よりも格段に上がっている。巨大な魔力を人の形に押し込めるのは、想像を絶する難易度だった。
「ぬ、ぬうぅぅ……。ど、どうだ!!」
眩い炎の光が収まった後、そこに現れたのは――。
手足が極端に短く、胴体がパンパンに膨らんだ、「真っ赤なまんまるカイン」だった。
一瞬の静寂の後、ラインが腹を抱えて笑い転げました。
「ウハハハハ! カイン、雪だるまの完成だな!!」
「ちょ……カイン、それ、転がった方が速いんじゃないかしら?」
ルーファが口元を押さえてクスクスと笑い出し、エルも「う、うん、可愛いよ……」と必死に笑いを堪えている。
フロントに至っては、その丸いフォルムに感銘を受けたのか、黙ってツンツンと突き始めていました。
「わ、笑うな!! これは魔力が活性化しすぎているだけで……やめろフロント! 転がすな!!」
三十五階層のボス部屋には、真っ赤な雪だるま(カイン)の怒鳴り声と、仲間たちの楽しげな笑い声がいつまでも響き渡っていた。
(あはは、カインがあんな姿に……。煽りすぎたかな、でも面白いからいいか)
ヒカリは内心で爆笑しつつも、ザードの姿のまま優雅に歩み寄った。
「カイン、無理しなくていいよ。人化して戦うのは僕の担当にするからさ。カインはカインらしく、ドカンと燃やす方が似合ってるし」
カインは「ポンッ!」と音を立てて精霊の姿に戻ると、赤面したままぷいっと顔を背けた。
「あ、それなら僕が特訓に付き合おうか?」
「……断る! 自力で成し遂げてこそ、我が誇りよ!」
そんな賑やかなやり取りをしながら、一行は三十五階層のボス部屋を後にした。




