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光精霊に転生した俺は悪役令嬢推しでした!  作者: のほほん


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第224話 鉄鋼の荒野と秘密の特訓

学園ダンジョンの三十四階層に到達したヒカリたちは、転送直後からすぐに行動に移った。


「よし、行くぞ」


「どんどん行くのじゃ」


カインとフロントが、弾かれたようにダンジョンの闇へと消えて行く。


「私たちも行きましょ」


「う、うん、分かった」


「俺も行くか」


続いてルーファ、エル、そしてラインの三人もそれぞれの役割を果たすべく奥へと進んでいった。


「お、皆行ったな。よし、やるぞ」


最後に一人残ったヒカリは、不敵に笑った。


今回のヒカリの目的は、精霊の力による広範囲殲滅ではない。「人の姿ザード」での戦闘に慣れ、武闘会で通用する「華麗な戦い」を身につけることだ。


三十四階層への階段を下りるとそこは、見渡す限り金属質の岩石が転がる荒野だった。ここに出没するのは、物理耐性が非常に高い「黒鋼の騎士ブラックニクス」や、硬い殻を持つ魔物たちだ。


「お、魔物発見! よし、あいつで試させてもらおう」


前方に、全身を黒い鎧で包んだ三メートル近い大男、ブラックニクスが三体。彼らは侵入者を感知すると、重厚な大剣を地面に引きずりながら迫ってきた。


(よし……まずはイメージ通りに。格好良く、かつ最小限の動きで!)


ヒカリは魔力のレイピア『聖光の白翼』を具現化した。白銀の光が、荒野の暗がりを鋭く照らし出す。


「いっくぞ!」


ブラックニクスの一体が、唸りを上げて大剣を振り下ろす。ヒカリはそれを横に避けるのではなく、足元に小さな光の円盤を展開した。


『光の階段シャイン・ステップ』!


空中に固定された光の足場を蹴り、ヒカリは重力を無視して斜め上方へと跳ね上がる。そのまま空中でひらりと身を翻すと、急降下しながらレイピアの先をブラックニクスの首筋へ向けた。


「これでおしまいだ……『光羽の舞踏ルミナ・ダンス』!!」


シュシュシュシュシュッ!!


一瞬のうちに放たれた数十発の突き。一突きごとに光の蝶が舞い散り、ブラックニクスの硬い鎧を紙細工のように貫いていく。


「ギ……ガガ……ッ!?」


黒鋼の騎士は、反撃する暇さえなく全身を光に穿たれ、そのまま粒子となって霧散した。


「ふぅ……決まったな」


ヒカリは着地すると、レイピアをくるりと回して消失させた。内心では(今のポーズ、決まってたかな!? 技名言っちゃったけど、誰も聞いてないよね!?)と魔力の核がバクバクしている。


だが、この「完璧な自分」への陶酔感が、ヒカリの自制心を緩ませていた。


「次はあっちだ! 『閃光の軌跡スターライト・パス』!!」


「ははっ、逃がさないよ! 『極光のオーロラ・パイル』!!」


ヒカリは次々と魔物を見つけては、思いつく限りの「カッコいい技名」を叫びながら、踊るような足捌きで倒していった。完全に厨二病の全盛期である。


「——これぞ白銀の輝き、『ルミナ・ダ……』」


「……ヒカリよ。お主、一体何をしておる?」


背後から響いた、冷ややかで、心底呆れ果てたような声。


「うひゃあああぁぁぁ!?」


ヒカリは情けない声を上げて垂直に飛び上がった。


恐る恐る振り返ると、そこには先行したはずのフロントと、なぜかその隣で腕を組んで佇むカインの姿があった。


「……ルミナ、ダンス、だったか?」


カインが、ヒカリが叫んでいた技名を無機質に、しかし正確な発音で復唱する。


「あ、いや、これは……その! 魔力操作の訓練の一環というか、言葉に出すことで脳を活性化させる高度な技術でね!?」


ヒカリは顔を林檎のように真っ赤にして言い訳するが、カインの鋭い眼光は誤魔化せない。


「お主……いつからそんなキャラになったのじゃ? 華麗に舞うのは勝手じゃが、あまりに浮かれすぎて背後がガラ空きじゃぞ。これでは実戦どころか、ただの踊り子なのじゃ」


フロントが呆れたようにため息をつく。


「フロストよ、こ奴は前からこういう奴だ」


カインが言い切り、さらに追い打ちをかける。


「お主が『カッコいい』と思っているその動き、魔力効率が極めて悪いぞ。無駄に跳ね、無駄に叫び……何より、その技名は誰が考えたのだ?」


カインの追い打ちのような質問に、ヒカリはその場にしゃがみ込んで顔を覆った。


(終わった……。一生の不覚だ……!!)


(打開策を考えろ……考えろ俺! 何かこの状況を打破する、もっともらしい言い訳は……! あ、そうだ!)


ヒカリは、先ほどまでの絶望した表情を一変させ、スッと背筋を伸ばして立ち上がった。まるで「すべては計画通りです」と言わんばかりの、凛とした(ザード仕様の)表情を作る。


「カイン、君は敵を燃やせるよね? フロントは凍らせられる。……でも、僕はどうだろう?」


「……? うむ、我は炎の精霊だからな。何を当たり前のことを言っておるのだ?」


カインが怪訝そうに眉を寄せる。ヒカリはここぞとばかりに、もっともらしい「理論」を語り始めた。


「僕は光の精霊だ。闇属性の敵には無類の強さを誇るけど、それ以外の属性に対しては決定的な攻撃手段に欠けるんだよ。だから……」


ヒカリは手元のレイピア(光の塊)を誇らしげに掲げた。


「こうして人の姿になり、魔力を極限まで凝縮した『純粋な魔力刃』を作ることで、どんな属性の敵でも物理的に両断する訓練をしているんだ。これは、精霊の姿のままでは出力の調整が難しくてね!」


(よし、完璧だ。これなら「修行」として通るはず……!)


しかし、今日のカインは驚くほど冴えていた。 


「ほう。……それは精霊の姿では出せないってことか? それに、何か恥ずかしい言葉(技名)を叫びながらではないと、その『純粋な魔力』とやらは練れんのか?」


「ぐっ……!!」


「さらに言えば、その純粋な魔力を敵にぶつけるのであれば、形を剣にしようが、ただの弾丸にしようが、効果は同じではないのか? なぜあえて、あのように踊り狂う必要がある?」


カインの言葉は、鋭いレイピアよりも正確にヒカリの痛いところを突き刺していく。


(……今日のカイン、めちゃくちゃ冴えてるんだけど!? いつもなら『ほう、修行か。感心だな!』とか言って流してくれるじゃん! 実はこれ、カインの皮を被った別の誰か……管理AIか何かなの!?)


ヒカリは冷や汗が止まらない。隣でフロントも、フンッと鼻を鳴らして追い打ちをかける。


「お主、単にカッコつけたいだけではないのか? 嘘をつく時の癖が出ておるぞ、ヒカリ」


「…………」


もはや言い逃れは不可能だった。


ヒカリは「ザード」のイケメンな姿のまま、がっくりと膝をついた。


(くそ!そうだ、やられっぱなしで終わる僕じゃないぞ……!)


どん底まで恥をかいたヒカリだったが、ふと、ある「事実」を思い出した。ヒカリはガバッと立ち上がると、今度は逆にカインへとにじり寄った。


「……ねぇ、カイン。人のこと言える? 君だって敵を倒す時、『灰になるがいい!』とか、わざとらしく低めの声で言ってるよね?」


「なっ……!? それは、その、威圧というか……」


「それだけじゃないよ! こないだなんて、『我が魔力、極点へ至れ……《エクスプローションマジック》!』って、めちゃくちゃ溜めて叫んでたよね!? 手の角度まで気にしてなかった!? ねぇ、どうなの、カインさん!?」


カインの顔が、自身の炎よりも赤く染まっていく。

「ぐっ……そ、れは……魔力を練り上げるためのルーチンであって……!」


「フロストだってそうだよ! 魔法を撃つ時、わざわざ氷の薔薇を散らせたり、『絶対零度の静寂に沈め……』とか言っちゃってるよね!? 二人とも、僕のことを笑えるほど真っ当に戦ってるって言えるの!?」


ヒカリの魂の叫びに、フロストまでもが「うぐ……」と言葉を詰まらせた。 


(勝った……! 墓穴を掘り合った結果だけど、精神的には五分だ!)


「…………」


気まずい沈黙が鉄鋼の荒野に流れる。


カインは一度だけ咳払いをすると、横にいたフロストに向き直り、一言だけ告げた。


「……フロストよ。続き(攻略)をやるぞ」


「わ、分かったのじゃ……」


二人はヒカリと目を合わせることなく、逃げるようにダンジョンの奥へと消えて行った。


「……ふん。勝った。……いや、自爆しただけか」


ヒカリは誰もいなくなったダンジョンで、ポツンと一人取り残された。


しかし、これで「お互い様」という共通認識(弱み)ができたことで、逆にザードとしての特訓がしやすくなった気もする。


(よし……。みんなが戻ってくる前に、もう一回『ルミナ・ダンス』のキレを確認しておこう。今度はセリフ無しで!)


ヒカリは再び光のレイピアを握りしめ、次の獲物を求めて駆け出した。

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