第223話 厨二病再び
ヒカリは、自分自身の足元を見つめ直すことにした。
「さて、武闘会のことを本格的に考えないとな……」
ザードとしての身分で大会に出場する以上、精霊の力で力押しするわけにはいかない。獣人の青年として、いかに「華麗に」戦うか。
(やっぱ武器だよな……うーん、刀はなんか違うんだよな)
前世の日本への郷愁はあるものの、ヒカリの中に「侍」への強い憧れはない。何より、ザードというどこか浮世離れした美青年のイメージに、泥臭い刀は少しミスマッチな気がした。
(うーん……レイピアか魔銃か。獣人なら、いっそデカいハンマーって選択肢もあるけど……)
ヒカリは自分の細い腕を見つめる。
(俺が持っても、ただのピコピコハンマーになりそうだよな。威圧感ゼロだ……)
そこで候補に上がったのが、魔銃だった。
(魔銃か……。でも、俺が光の魔弾を撃つって、それ結局ただの魔法と変わらないんじゃないかな。トリガーを引く演出が必要なだけで……)
ヒカリは顎に手を当てて考え込む。
(魔銃ならスタイリッシュだけど足止めと回復しか出来ないよな)
(待てよ……。精霊の力を使わずに、純粋な魔力操作だけで戦うなら、武器そのものに意思を持たせるようなタイプはどうだろう。例えば、糸のように細い魔力の導線で操る……いや、それはちょっと暗殺者っぽいか)
ヒカリの脳内で、さまざまなゲームのキャラクターが浮かんでは消える。
(ザードの姿で、観客を魅了しつつ、圧倒的な強さを見せる。それでいて正体はバレない絶妙なライン……。そうだ、いっそ武器は『なし』っていうのも手だけど、非力の俺が相手を倒せる自信は無いな)
ヒカリは、ゴルグが作ってくれるであろう「五本の武器」のことを思い出した。
(あ、そうだ。ゴルグに『ザード用』の武器もついでに頼んでおけばよかったかな? でもあのドワーフ、今は精霊結晶で頭がいっぱいだろうし……)
ふと、ヒカリは自分の体内に保管されている、これまでダンジョンや冒険で手に入れた様々な素材を思い浮かべる。
(自分の武器……。自分を一番表現できて、かつ使いやすいもの。……よし、ちょっと「実験」してみるか。自分なりの新しい武器の形を!)
ヒカリは王都の離れに実験ができそうな静かな場所を探し始めた。
ヒカリは華麗に舞う為にシャインバリアを足場にして蹴る、それを連続で、繰り返した。
(いいぞ、これだ……! スタイリッシュで無駄のない動き、これこそ「ザード」にふさわしい!)
ヒカリの脳内では、金髪の青年ザードが、光の足場を蹴って空中で静止し、電光石火の突きを繰り出すイメージが完璧に出来上がっていた。
(相手の攻撃は、最小限の『シャインバリア』を掌サイズで展開して受け流す。で、その反動を利用して空中に跳んで……足元にバリアを作って、そこから一気に加速して刺す!)
想像するだけで楽しくなってきたヒカリは、ついに「技名」の考案にまで着手した。
(連撃は『光羽の舞踏』……。じゃあ、一撃必殺の貫通突きは『閃光の軌跡』とか? いや、もっとこう……『極光の楔』とかどうだろう。うわ、めちゃくちゃカッコいいな!)
完全に厨二病のスイッチが入ったヒカリは、人気のない岩場で実際に武器を構えるポーズをとってみた。
「——逃がさないよ。これが君への、最後の舞だ」……なんて言ってから『ルミナ・ダンス』!
(うわぁ、今のセリフ、自分で言ってて鳥肌立ったけど、武闘会ならこれくらい派手な方が観客も喜ぶよね!)
ヒカリは独りでニヤニヤしながら、手近な木の枝を武器に見立てて、シュシュッと空を突く。
(防御と移動を兼ねた足場のバリアを『光の階段』と名付けよう。これで縦横無尽に動ければ、どんな巨漢の獣人相手でも翻弄できるはずだ)
ひとしきり「予行演習」を終えたヒカリは武器のイメージを固めた。
(あの動きだとレイピア系だな……あ、でも肝心の武器がないや。ゴルグにお願いしたのは杖と剣だしな。……うーん、この際だから自分の魔力で『光のレイピア』を具現化できるように練習するか、それとももう一回ゴルグのところに行って、追加注文してくるか……)
ゴルグのあの集中力を思い出すと、今戻るのは少し勇気がいる。
(自分自身の武器なんだから、サクヤみたいに自分でこだわって作ってみるのもアリかもしれないな、光の魔力を極限まで圧縮して、実体に近い刃を形成できれば、武器を持ち歩く必要すらなくなるし)
ヒカリは真剣な表情に戻り、指先に魔力を集中させ始めた。
(細身で、鍔の護拳は蝶が羽を広げたような繊細な意匠に……刃は透明感のある白銀の光……よし、できた!)
手元に現れたのは、ヒカリの莫大な魔力が極限まで圧縮された、この世のものとは思えないほど美しいレイピアだった。
「ふふん……これぞ我が魂の輝き、『聖光の白翼』……なんてね!」
ヒカリは悦に浸りながら、レイピアを軽く振ってみる。重さは全く感じない。まるで自分の体の一部『ヒカリの魔力を具現化したので完全に身体の一部である』であるかのように、意図した通りに光の刃が空を裂く。
一方、離れた場所で凝縮された光の魔力を感じとったカイン
「あやつは一体何をやっているんだ」
カインの言葉に隣でクラリスが不思議そうに首を傾げている。
「カイン、どうしたの?」
「いや、何でもない」
カインに悟られてるとは知らずにヒカリは完全にノリノリで技の練習を開始した。
「行くよ……足場を展開して……『ルミナ・ダンス』!!」
シュシュシュッ!! と鋭い突きが空気を震わせる。
一突きごとに、光の残像が蝶の羽ばたきのように宙を舞い、鋭い魔力の衝撃波が空間を切り裂いていく。
(これだ! このスピード感! これなら武闘会でも『華麗』に勝てる!)
調子に乗ったヒカリは、試しに目の前にある巨大な岩を標的にしてみることにした。あくまで「ザード」としてのテストだ。
(軽く、ほんの軽く突くだけだからね?)
「ていっ」
レイピアの先が岩に触れた瞬間——。
ドォォォォォン!!
「…………あ」
凄まじい衝撃音と共に、巨大な岩が粉々になるどころか、光の粒子となって霧散して消えた。跡形も残っていない。
「…………やりすぎた?」
ヒカリは、手に持った(自称)ファッション重視のレイピアを二度見した。
「ザード、初戦で相手を物理的に消滅させちゃダメだよな……。これ、加減の練習もセットでやらないと大変なことになるぞ……」
ヒカリの武闘会への道は、思わぬ「火力過剰」という課題にぶち当たったが、なるようになるだろうと考えていた。
「とりあえず手加減の練習を兼ねて実戦あるのみだな。今日のダンジョン攻略から、ザードの姿になって腕を磨くことにしーよおっと」
ヒカリは決意を新たにすると、その夜のダンジョン探索に向けて準備を整えた。いつもの精霊の姿ではなく、金髪の麗人「ザード」の姿で、腰には光り輝く魔力のレイピアを下げている。
「ヒカリよ、何故そのように不自由な人の姿になるのだ?」
転送陣の前で、カインが胡散臭そうな、あるいは心底不思議そうな目でヒカリを見つめた。後ろに控える他の精霊たちも「どうしたの?」と言いたげな表情だ。
「あ、ああー……ちょっとね、魔力操作の精密な実験を兼ねてというか。人の姿の方が、出力の制限をかけやすいんだよ」
(やべー、カインの目は誤魔化しづらい……! まさか『武闘会に出て華麗に舞いたいから練習中なんだ』なんて口が裂けても言えない……!)
ヒカリは魔力の乱れを悟られないよう、ザードらしいクールな微笑みを顔に張り付かせた。
「ふむ……魔力の精密操作か。確かにその武器は、異常なまでに魔力が圧縮されているな」
「あはは、まあね……。さあ、行こうか!今日は、 三十四階層だ」
ヒカリは話題を逸らすように、足早に転送陣へと飛び込んだ。




