第218話 悪夢から黄金の安らぎへ
ユーリアは深い眠りについていた。
体力と体調は回復したが四百年分の精神的苦痛まではヒカリの魔法でも回復する事は出来無い。
ユーリアは夢の世界にいる。
「ここは、何処?」
ユーリアは起き上がり周りを見渡す。
「え?ここは私の部屋??」
見慣れた部屋の風景にユーリアは驚いた。
「何故?私は嘆きの塔に居たはず⋯⋯」
しばらくするとユーリアの父と母が部屋へとやって来た。
父と母は優しい表情でユーリアに話しかける。
「体調は、どうだ?」
「何処も苦しく無い?」
「え、う、うん大丈夫だよ」
ユーリアは何が起こっているのか分からなかった。
次の瞬間、ユーリアを締め付ける苦しみが襲う。
「う、く、苦しい⋯⋯」
「ユーリア大丈夫!」
母が泣きそうな顔でユーリアを抱きしめ父は叫んだ。
「誰か直ぐに来てくれ!」
「クソ!何故だ!何故ユーリアがこんな目に遭わないといけないんだ」
ユーリアは苦しみのあまり意識を無くす。
ただ、これはユーリアの夢の中の話
現実世界では国王のカイゼルと医師のワルンそして宰相のウルザが付き添っていた。
穏やかに眠りについているユーリアが急に苦しみだす。
側に居たカイゼルは動揺し医師のワルンに問いかける。
「ワルンよユーリア様は大丈夫なのか?!」
「体調は、問題無いですが、四百年と言う長きに渡り蝕まれた精神に支障が生じております」
「クソ!どうすれば良いのだ!」
流石に眠りについているユーリアの精神を治すことは出来無い。
「見守るしかありません⋯⋯」
医師のワルンも成す術がない。
しばらくすると苦しんでいたユーリアは静かな寝息へと戻る、だが寝顔は強張ったままだった。
それを何回も繰り返していた。
落ち着いたのを確認したウルザは王に話しかける。
「王よ、一旦お戻り下さい」
「こんな時に戻れるか!」
「しかし国の運営が届こうれば民が苦しみます」
「クソ⋯⋯分かった」
「ワルンよ何かあれば直ぐに知らせよ」
医師のワルンは頷く。
「分りました」
カイゼルとウルザはユーリアの部屋を後にした。
カイゼルたちが部屋を後にしてしばらくするとヒカリが部屋へとやって来た。
ワルンにはヒカリが見えていない。
(ユーリアはどんな感じかな)
(うん、問題無く指輪は作動してるな)
ユーリアの身体にはヒカリの魔力の結界が薄い膜となって覆っている。
(後は何時目覚めるかだな)
ヒカリはレインの事を思い出していた。
レインも魔力は回復したがしばらく眠ったままだったからだ
(精神的にきつかっただろうからしばらく起きないだろな)
(気休めだと思うけど精神安定の魔法でも付与しとくかな)
ユーリアの苦しみを少しでも和らげる為にヒカリは指輪に新たな付与を施す。
手を指輪に乗せると楽しい事をイメージしながら精神安定の魔法を付与した。
(俺の楽しい事はクラリスと遊んだり精霊の皆とダンジョン攻略したりだな)
指輪に付与するとヒカリは去って行く。
「さて戻ろ、またねユーリア」
ヒカリが去った後、ユーリアの夢の中では、また同じ悪夢が始まろうとしていた。
繰り返される絶望、自分を心配する両親の悲痛な叫び。四百年もの間、彼女を縛り続けてきた暗い記憶の澱が、再び彼女を飲み込もうと迫る。
「もう何回見たかしら、この光景……。また、あの苦しみが来るのね……」
ユーリアが諦めとともに身を強張らせたその時。
いつもなら黒い霧が立ち込め、呼吸ができなくなるはずだったが、異変が起きた。
変化する夢の世界
「え……?」
ユーリアの視界の端に、小さな金色の粒が舞い落ちた。
それは一つ、二つと増えていき、やがて冷たく暗い部屋を、陽だまりのような温かい光で満たしていく。
襲いかかるはずの「苦しみ」の代わりに、ユーリアの胸に流れ込んできたのは、見たこともない「誰かの楽しい記憶」だった。
銀髪の少女と笑いながら街を歩く、穏やかな午後の空気。
賑やかな仲間たち(精霊団)と、冗談を言い合いながら暗い洞窟を突き進むワクワクする感覚。
ただそこにいるだけで心が弾むような、自由で、力強い「生」の質感。
「温かい……。何かしら、この気持ち……。悲しくない、苦しくない……楽しい?」
夢の中の両親の顔が、悲しみの表情から、穏やかな微笑みへと変わっていく。
それはユーリア自身の記憶ではなく、ヒカリが指輪に込めた「精神安定の魔法」が見せる、最高にポジティブな感情のエネルギーだった。
その頃、ユーリアの部屋で見守っていた医師のワルンは、目を見開いて叫んだ。
「お、王に直ぐに報告しなくてわ」
ワルンは直ぐに部屋の前に居る護衛兵へ王への伝言を頼んだ。
「直ぐに王へ連絡を!ユーリア様に変化があったと」
「は!」
兵士は慌て王カイゼルの元へ向かった。
しばらくするとカイゼルとウルザが部屋へと飛び込んできた。
「どうした、ワルン! ユーリア様に何かあったのか!?」
「見てください……!」
ベッドの上で、苦痛に顔を強張らせていたユーリアが、見たこともないほど穏やかな微笑みを浮かべていた。
彼女の指にはめられた指輪が、トクトクと鼓動を打つように淡い金色の光を放っている。
「これは……ザード殿の仕業か……?」
カイゼルはその光の正体を直感した。
ヒカリの放った「楽しい記憶」の魔法が、四百年のトラウマを少しずつ、だが確実に溶かしていた。
「ユーリア様……。ああ、ユーリア様……。やっと、やっとあなたは救われたのだな……」
カイゼルはユーリアの細い手を握り、静かに涙を流した。
ユーリアの精神は今、ヒカリが見せた「外の世界の楽しさ」に触れ、深い絶望から這い上がろうとしていた。
いつしかユーリアの夢が両親と他愛もない話をしたり会ったことのないヒカリと町を散策したり色々な冒険をする夢に変わっていった。
そしてユーリアの夢に闇が現れることが無くなった。




