第213話 謎の少女とソフィアの正体
パーティーリーダーがヒカリの抱えている少女を見て驚き声を上げる。
「キサマ! その方をどうする気だ!」
「誰だか知っているのか?」
(うぉ、声が裏返った)
ドスの利いた声がヒカリから発せられた。
人化が子供から青年に変わった影響か、ヒカリの声は低く響いた。だがリーダーらしき人物はヒカリの質問に答えなかった。
「その方をすぐに部屋へ戻せ」
「それは、出来ん」
(この子何なの)
緊迫した空気が流れる。
ただ一人、ソフィアだけは冷静だった。今、目の前に居る青年からは殺気は無く、見覚えのある魔力を感じていた。
「えーい、埒が明かん」
痺れを切らしたのか、リーダーらしき人物がヒカリに襲いかかる。
その後方からソフィアが声を上げる。
「カルマ待ちなさい!」
だが、カルマと呼ばれた人物は止まらなかった。
(はぁ……マジで何なの)
ヒカリは溜め息をつくと魔法を唱える。
シャインプリズン!
カルマは、光の牢獄に捕らえられた。
それを見た他のメンバーもヒカリに襲いかかる。
斧を持った者と短剣を持った者はヒカリに詰め寄り魔道士は詠唱を始めた。
(だー、まじかー)
シャインプリズン! × 3
ヒカリに襲いかかった全員が、光の牢獄に閉じ込められた。
静寂の中、ヒカリは眉間にシワを寄せる。
「ソフィア、これはどういうことだ?みんな、昇級試験のパーティーじゃないのか?」
光の牢獄の中のメンバーは、自分たちが捕らえられたことに驚き、光の牢獄を破ろうと攻撃をするがビクともしない、やがて魔力が尽きてきたのか声も出せない状態になった。
ソフィアは困ったように微笑み、一礼した。
「ごめんなさい、ヒカリさん。彼らは私の護衛騎士団のメンバーです」
「そして、私は……ガルド王国の第一王女、ソフィアです」
ソフィアの告白に、ヒカリは少し驚いたがソフィアの仲間の発言から高い地位にある事は推測出来ていた。
(薄々はそうじゃないかと思ってたけどね)
ヒカリはソフィアの告白に驚きつつも、冷静さを保ち、次の質問を投げかけた。
「何で冒険者なんてやってるの?」
「王族は最低B級にならないと認められないので……」
(獣人族は、脳筋かよ!)
ヒカリは内心でツッコミを入れた。
「何かあるとやばいから、護衛とパーティーを組んでるのか」
「はい」
「で、質問なんだけど、この子は誰?」
ヒカリの質問に、ソフィアは重い口を開いた。
「その方は、私の祖父母の姉にあたります」
「え?この子、何歳?」
「たぶんですが……四百歳を超えていると思います」
(獣人族って寿命長いんだな)
ヒカリは素朴な疑問をソフィアにぶつけた。
「この子、いつからここに居るの?」
「十五歳位からだと聞いています」
ソフィアの言葉に、ヒカリの感情が高まり、怒りの魔力が溢れ出た。
ヒカリは病室で、17年苦しみに耐えた。絶望が自分に襲いかかるのを必死に耐えた。それが四百年続くということは、ヒカリにはあり得ないほどの苦痛だと感じられた。
圧倒的な怒りの魔力に、光の牢獄に捕らえられている獣人たちは、ガタガタと震えながらもヒカリを睨む。
獣人族特有の圧倒的強者に対しての防衛本能が逃げろと警鐘を鳴らすと同時に守るべき存在への社会的本能が守れと働く。
「ヒ、ヒカリさん、これはユーリア様(少女の名前)が自分から申し出たのです!」
ソフィアはヒカリの怒りの魔力に当てられながらも必死に弁解をした。
「本当です!信じてください……」
ソフィアはヒカリの怒りの魔力に怯えながらも、必死に訴え続けた。
ヒカリの怒りの帯びた魔力が、徐々に収まっていく。
「ごめんね、ちょっとね、境遇が似てたからさ」
(俺の家族も一生懸命俺の為にがんばってくれてたな)
前世、ヒカリ(一樹)の母と父は、病室に会いに来る時は笑顔を絶やさなかった。獣人族も、力が全てという文化はあっても、仲間意識は強い。人と違い、強者は弱者を守る。人間であれば、ユーリアのような存在は忌み嫌われて終わるだろう。
ソフィアは、ヒカリの魔力が完全に収まったのを見て、続けた。
「ユーリア様を助けようと、あらゆる手を尽くしました」
「ですが、ユーリア様の闇落ちを食い止めることができませんでした」
苦しみながら訴えるソフィアに、ヒカリは光の回復魔法を施した。
「ほんと、ごめんね」
ヒカリはソフィアに謝罪した。
ソフィアたちの苦悩もまた、本物だと理解したのだ。ヒカリは光の牢獄を解除した。解放された騎士たちは、すぐにソフィアの無事を確認した。
光の牢獄を解除したヒカリは話を続ける。
「じゃあ君たちは、異常が無いかを確認の為に何回かこの塔に来てたってことか」
「う……は、はい」
カルマは苦しみながら答える。
見かねたヒカリは全員に光の回復魔力を施した。ヒカリの回復魔法で苦しみが癒やされ、身体が軽くなった。
だが、カルマたちの張り詰めた空気は変わらない。圧倒的な力の差は理解しているが、ユーリア様を連れ去られるのだけは阻止しなければならないと考えていた。
「さて、本題に入ろうか」
ヒカリのどすの効いた言葉に、冒険者たちに緊張が走る。
(この声圧が凄いな。後で発声練習しよ)
「ソフィア」
「あ、はい」
「この子を部屋に戻す気は無い。君に預ける」
ヒカリの言葉にソフィアは戸惑い、冒険者は声を上げる。
「なりません、ソフィア様!」
(何でダメなんだろ)
ヒカリは、冒険者の言葉に首を傾げる。
「何故だ?」
「ソフィア様にユーリア様を渡せば、ソフィア様も闇落ちしてしまう!」
(あ、俺、今のこの子の状態を説明してないや)
ヒカリは怒りのあまり、説明するのを忘れていたことに気づいた。
「ああ、ごめん。説明が抜けてたね」
ヒカリは表情を和らげた。
「この子はもう大丈夫だ。俺の魔法で、彼女を縛っていた闇は完全に浄化された」
ヒカリはユーリアの指に嵌めた指輪を指差した。
「この指輪に浄化と光の結界の魔法を付与した。これ以上、ユーリアが闇に苦しめられることは無い。君が闇落ちする心配も無い」
「な!バカな!四百年、我らが探し求めた物が……!」
カルマは信じられないといった様子で叫んだ。
彼らが代々この塔を守り、ユーリアを救う方法を探し続けてきた四世紀にわたる苦労が、目の前の青年の魔法によって一瞬で解決した事実に、力が抜けたのか、冒険者たちはその場に座り込んだ。張り詰めた空気が一気に溶けるのが分かった。
「で、ではユーリア様はもう大丈夫なんですね?」
ソフィアは涙声で尋ねた。
「うん、問題無いよ」
ヒカリの言葉に、ソフィアはへたり込み、安堵の涙を流した。
「よかった……本当によかった……」
四百年間、全ての獣人族の心に引っかかっていた悲劇が終わりを迎えたことに、ソフィアは感情を抑えきれなかった。
ヒカリは優しくユーリアを抱き直した。
「この子の世話は、君に任せたい。」
ソフィアは涙を拭き、立ち上がった。
「もちろんです、ヒカリさん。ユーリア様はガルド王国で大切にします。感謝してもしきれません」
ヒカリはユーリアをソフィアにそっと手渡した。
(いやー良かったこの子どうしよかと思ってたからな)
「この子の事で一つ聞きたいんだけど、伝承ってあるよね」
ヒカリは、ユーリアを託すと一つの重要な確認をソフィアにした。
「伝承?」
ソフィアは首を傾げる。
「伝え継がれてる事だよ」
「あ、はい、有ります。預言者の言葉ですね」
「教えてくれないかな」
「分かりました。『嘆きの塔を金色の光が包み込む時、少女は祝福を授かる』です」
「ありがとう」
「いえ、この言葉が何かあるんですか?」
「ちょっと確認したかっただけだよ」
ヒカリは伝承の言葉を聞いて、あることを確信する。
ゲームでの伝承と、ソフィアに聞かされた伝承が異なっていたのだ。ゲームでは、『嘆きの塔を金色の光が射す時、少女は苦しみより解き放たれる』だった。
(何故かは分からないけど、俺にも補正入ってるな)
ゲームと現実では二カ所文言が変わっている。前半では「光が射す」から「包み込む」に変わり、後半では「苦しみからの解放」ではなく、「祝福を授かる」という表現に変わっている。これは、ヒカリがユーリアをただ浄化しただけでなく、「命繋」という蘇生の魔法まで使った結果、世界がヒカリの行動を預言に上書きした、つまり世界そのものがヒカリの存在を特別視している証拠だと考えた。
ヒカリは、自分自身の存在が、ゲームの筋書きを超えてこの世界に影響を与えていることを強く実感した。
ヒカリとソフィアが話をしているとカルマが近づいて来た。
「ソフィア様、ユーリア様をお預かりします」
カルマの言葉に対しソフィアはヒカリを見る。
ヒカリも察したのか頷く。
「では、お願いします」
ソフィアはユーリアをカルマに渡した。




