第210話 嘆きの涙
国王の許可が出たことを、クラウの護衛騎士はクラウに伝えた。
「陛下より像の使用の許可が出ました。それが終われば一旦母国に戻れるのですから頑張ってください」
「はぁ……何故俺がナタリーの像の設計をしないとダメなんだ!」
クラウは愚痴ったが、付き合うのにもううんざりしている護衛は、魔法の一言とナタリーから渡された手紙を使うことにした。護衛がナタリー聖女にクラウの事を愚痴ったことで、ナタリーはモニカからの手紙を渡してくれたのだ。
「はいはい、早く終わらせればモニカ嬢の事に没頭できますよ。あとこれ手紙です」
「またか。これで俺がやる気が出るとでも思うなよ!」
クラウは言いながらも、手紙に目を落とした。
『お仕事大変だと思いますが頑張って下さい』モニカより
ごく短い、事務的な内容の手紙だった。
しかし、しばし静寂が辺りを包む。
「……よし、やるか!」
クラウは一瞬にして愚痴を止め、設計図に向かい直った。
(凄いなこの手紙……てかどんだけ扱いやすいんだこの人)
護衛騎士は、クラウの単純なまでの情熱と、それがモニカ嬢の手紙によって完璧に制御されている現実に、再び疲労を覚えるのだった。クラウはすぐに、ナタリー像の設計図作成に取り掛かった。
後日、ナタリーの像の設計図と構成を完璧に書き上げたクラウは、ソラリスの元を訪れた。
ソラリスはクラウから渡された図案を確認し頷いた。
「うむ、完璧じゃな。あとは使用許可じゃのう」
ナタリーとモニカの像の図案がナダルニアの国民をモチーフにしていることを理解しているソラリスが言うとクラウがソラリスに告げた。
「それに関しては問題無い」
「もう許可は取ってある」
(あんたも許可なんて考えてなかっただろ!)
クラウの言葉に、護衛騎士は心の中で突っ込んだ。
しかし、国王や宰相への報告を滞りなく行い、必要な手続きを済ませた護衛騎士の働きは、何気に優秀だった。
「後日、ナダルニアより許可書が届く」
「ほう、手際がいいのう」
ソラリスはクラウを褒めた。
「当たり前だ」
クラウは当然の事だと告げるが護衛騎士は、心の中で叫ぶ。
(だ、か、ら、おまえじゃないだろ!)
「我々の任務は一旦終わりだな、明日ナダルニアに戻る」
「うむ、分かった」
ソラリスは、懐から書類を取り出した。
「これをナダルニアの王に渡しておいてくれ」
それは、リンドの国からナダルニアへのお礼の親書だった。クラウはそれを受け取った。
装置の件が一段落した頃、ヒカリたちは夜はダンジョンをひたすら攻略していた。
最短距離で進み続け、魔石を吸収しながら、彼らは二十九階層まで辿り着いていた。
(下級の魔石を吸収しても、魔力量はほぼ増えて無いな)
三十層まではゲームの一周目で辿り着ける階層であり、今の精霊たちの膨大な魔力量から見ると、吸収しても魔力が本当に増えているのかすら分からないレベルだった。
「全く手応え無いわね」
ルーファが愚痴をこぼす。
二十九層の魔物も、精霊たちの連携攻撃の前では瞬殺だった。
「このまま三十階層まで行っちゃおうか」
ヒカリが提案した。
三十階層は、ゲームでは一周目の節目の階層だ。
「そうじゃな」
フロストが同意する。
「別にいいぞ」
ラインもやる気を見せた。
「うむ、異存はない」
カインが頷く。
「さんせーい」
ルーファが頷く。
「ち、ちょっと怖いけど」
エルは強がりつつも、皆と一緒なら進みたいと思った。
「じゃあ行こう」
精霊たちは、ボスの待つ三十階層への突入を決意し、階段へと向かった。
二十九層をクリアし、いよいよ三十層に到達した。
(三十層は、確かミノタウロスだったな)
三十層の扉までは一本道、道の両端には松明が有り、進む毎に松明に灯りが灯る。扉に着くと、ヒカリはすぐさま作戦会議を開いた。
「次のボスは、無属性だから、俺がシャインシールドで突進を食い止めてフロストは足元を凍らせて身動きを止めて。エルがウォーターシャワーでミノタウロスを濡らして、ラインがライトニングボルトで感電させたら終わるかな」
「分かったのじゃ」
「任せろ」
「が、がんばる」
「じゃあいくよ」
ヒカリたち精霊は扉をすり抜け、中へと入って行った。
精霊たちの魔力に反応したミノタウロスが、巨大な角を突き出し、襲いかかる。
「シャインシールド!」
ヒカリはミノタウロスの前に光のシールドを展開すると、ミノタウロスはシールドに弾かれ、よろけた。
「今じゃ!」
「アイスロック!」
フロストの魔法がミノタウロスの足を地面に張り付かせる。
「ウ、ウォーターシャワー!」
エルの魔法がミノタウロスの頭上から大量の水を降らせ、ミノタウロスはずぶ濡れになった。
「よし!締めだ」
「食らいやがれ!ライトニングボルト!」
ラインから放たれた雷槌がミノタウロスを直撃し、黒焦げにした。
ミノタウロスはその場に倒れ、魔石だけを残して消えた。
「完璧じゃったのじゃ」
「凄かったね。エルがんばったね」
ルーファがエルを労うと、エルは頷く。
「う、うん」
「楽勝だったな」
「ま、まあまあだな。」
カインが腕を組みながら言うと、ラインが反発する。
「何もしてないカインに言われたくないな」
「な!わ、我ならもっと簡単に倒せたぞ!」
いがみ合うカインとラインは放っといて、ヒカリは次の階への扉を探した。
ヒカリたちがミノタウロスを倒し、部屋の奥の通路を抜けると、そこには記録装置と転送装置のみで、次の階への扉が見当たらなかった。
「あれー、扉無いな」
ヒカリは付近を探すが、やはり扉は見つからなかった。
「どうやって下に行くのじゃ?」
フロストが戸惑いの声を上げる。
「あれー……」
ゲームの知識を思い浮かべようとするヒカリに、ルーファが声をかける。
「ヒカリ、ここに凹みがあるわよ」
ルーファが指差す先には、装飾の一部のように見える、涙の形をした窪みがあった。
「……あー!嘆きの涙だ!」
ヒカリは思い出した。ゲーム内の特殊な階層において、扉ではなく特定のアイテムをはめ込むことで、次の階層への道が開かれる仕掛けがあることを。
(嘆きの涙は一周目の嘆きの塔で取れるんだった!嘆きの塔何処にあったかな……)
(うーん……確かガルド王国に有ったような……)
ヒカリは記憶を辿り、三十層突破に必要なアイテムの所在を思い出した。
「ごめん、次の階層に行く為のアイテム無いから今日はここまでね」
「まずアイテム取りに行かないと」
「そのアイテムとやらは何処にあるのじゃ?」
フロストがヒカリに聞いた。
「ガルド王国にある嘆きの塔をクリアすると貰えるんだよね」
「じゃあ次はその嘆きの塔に行くのね」
ルーファの言葉に少し考えヒカリは首を振った。
「いや、日中俺だけ行って取ってきたほうが効率いいかな」
(嘆きの塔の敵はアンデット系だったから、浄化で一掃出来るんだよな)
「夜に合流して三十一層に行こう」
「それでもいいわよ」ルーファが同意した。
「分かったのじゃ」
フロスト、ルーファ、エル、ラインは頷いたが、一人納得の行かない精霊がいた。カインである。
それを見たヒカリが念を押す。
「カインも留守番だからね!」
「な!我を置いていく気か!」
カインが憤慨して反論した。
「だってカインが一緒に行ったらクラリスまた悲しむよ」
「うっ……」カインは反論できなかった。
ヒカリは翌日の日中にガルド王国の嘆きの塔へ向かい、必要なアイテムを回収することを決めた。




