第208話 師弟の過去とレインの受難
苛烈な鍛錬の最中、レインの意識の奥底で、サクヤが呟いた。
(雷蔵とはよくやったでござるな、いやー懐かしいでござるな)
それは、かつてサクヤが、雷蔵の鍛錬に付き合っていた過去の記憶だった。
その言葉を聞いたレインは、憤慨する。
(元凶はお前か!)
この理不尽なほどの苛酷な鍛錬の元が、サクヤの過去にあることを知り、レインは叫んだ。
(これがあって今の雷蔵があるでござるよ)
サクヤは雷蔵の成長を誇りに思っているようだった。
(だー!くそー)
サクヤはレインを励ました。
(まぁ、頑張るでござる)
(励ましになってないっす!)
サクヤはレインを応援しつつも、自ら助け舟を出すことはなかった。
「オレまじやべーーー」
レインの叫び声が死の森に響く。
その頃ヒカリは、レインの異世界の言葉に疑問を持ったものの、考えても仕方がないと開き直って次のことを考えていた。
「ここでのやる事も一段落したし、一旦戻るかな」
「その前に装置の残骸にカモフラージュかけて来よっと」
ヒカリは装置の残骸に立ち寄り、光魔法で残骸全体に目立たないようカモフラージュをかけると、クラリスの元へと戻って行った。
しばらく飛ぶと、ナダルニアの王都が見えて来た。
そのまま学園寮に向かいクラリスたちの部屋に入るが人の気配は無かった。
「まだ、戻って来てないね……」
しかし、何故か部屋の中にカインの魔力を感知する。
「あの、カインは何をやってるのかな?」
ヒカリがそう言うと、カインがタンスの隙間から、まるで隠れていたかのように姿を見せた。
「い、いや、そろそろお主が戻って来ると思って待っておったのだ」
カインは必死に弁解する。
「ん? もしかしてまだクラリスに会ってないの?」
ヒカリはカインの気まずそうな顔を見て、溜め息が出た。
「はぁ……カインが戻って二日経ってるよね」
ヒカリは、カインがクラリスに会うのを恐れて、ずっとこの部屋に隠れていたことを察した。
カインがタンスの隅に隠れて二日が経った。その間、クラリス、ファナ、ラインはカインの存在に気づいていたがあえて放置していた。
クラリスは、カインが暴走したことをファラから聞かされていた為、カインが出て来づらいんだろうと思いそっとしていた。
ファナは、魔力感知で何かが居ることに気付き、ラインに確認するとカインが隠れていると伝えられ、クラリスが何もしないことでファラも何も言わなかった。
カイン放置から二日目の放課後、ラインが呟いた。
「あいつ、いつ出て来る気なんだろな」
さすがにラインも心配になったのかファナに確認した。
「そうね……クラリスとカインの問題だからこっちからは何も言えないわ」
「お互い意地になってるだけでしょうね。私たちは見守るしかないわ」
クラリスたちは授業を終えて寮へと戻ってきた。クラリスが扉を開けると、ヒカリが待っていた。
「クラリス、ただいま」
威勢のいいヒカリの声にクラリスは満面の笑みを浮かべる。
「おかえりヒカリ」
「あら、ヒカリ帰ったのね」
ファナがヒカリを見て言うと、モニカもヒカリを見た。
「ヒカリ様、おかえりなさい」
「ファナもモニカもただいま」
クラリスたちが着替えを終えると、団らんが始まった。
「ねーねーヒカリ聞いて! 学園ダンジョンで五層までクリアしたんだよ」
「学園始まって以来の最速だって!」
「え、そうなの?凄いやん」
(クラリスたちが最速ってことは、エドワードたちはまだ五層にも到達してないのか……無理だな)
(やはり俺たちの訓練を加速するしかないな)
エドワードたちの不甲斐無さと、未だタンスに隠れているカインにイライラしだすヒカリ。
「はぁ……」
ヒカリの溜め息にクラリスが反応した。
「どうしたのヒカリ?」
ヒカリはタンスの隙間に隠れているカインに話しかけた。
「ねーねーカイン、みんな気づいてるんだからいい加減出てきてくれないかな」
「な! ヒカリ裏切るのか!」
タンスの隙間からカインが反論した。
「いやいや、裏切るとかないからさ」
カインは渋々タンスの隙間から姿を現した。
「う、うん、今、戻った」
カインの言葉にラインが笑いながら転げ回る。
「ハハハ、今戻ったってもうちょっと言いようは無かったのかよ!」
「う、うるさい!」
クラリスもクスクスと笑い、カインに優しく告げた。
「おかえりカイン」
「お、おう」
笑い転げるラインに怒るカインを見て、賑やかな日常が戻ったことにクラリスは安堵するのだった。
その夜、学園の訓練場で久しぶりに精霊たちが集まった。
「学園はどう?」
ヒカリが尋ねた。
「特に何も無いわね」
「う、うん、問題ないよ」
ルーファとエルが答えた。
「アレンは、強くなって凄いのじゃ」
フロストが口火を切ると、主自慢が始まった。
「それだったらセシリアも魔力操作が上手くなったわよ」
「エ、エリーナだって強くなったよ」
主自慢が感染してみんな主自慢しだした。
「率直に聞いていい?」
ヒカリは雰囲気を一変させる問いを投げかけた。
「君たち全員と戦ったら、勝てる?」
みんな考えだしたが、ラインが口火を切った。
「無理だな。確かにファナは成長したが、俺たち精霊とは実力差があり過ぎる」
「で、でも、アレンと力を合わせれば……」
フロストは言いかけたが、言葉を留めた。
「じゃあさー、主とみんなで力を合わせて、雷蔵くんと戦ったらどうなる?」
ヒカリの言葉に、精霊たちは即答する。
「絶対に勝てないわ」
「瞬殺されるな」
「む、無理じゃ」
(あと二年半でアレンが雷蔵くんレベルになるのは絶対に無理だな。ましてやエドワードたちは論外だし)
(ミリアにヒロイン補正が入ればもしかしたらってあるだろうけど、起こるかどうかも分からないからな)
ヒカリは真剣な表情に戻り、最も重要な現実を突きつけた。
「このままだと、主もみんな死ぬかもしれない」
ヒカリの言葉に、全員驚き、その場の空気が一気に凍り付いた。
「アレンが死ぬとはどういうことじゃ」
フロストが憤慨し、他の精霊もザワついた。
ヒカリは冷静に話を続ける。
「あと二年半後に魔王が誕生する。予想だけど、強さは雷蔵くんかそれ以上だと思う」
精霊たちは沈黙した。雷蔵の強さを知っている彼らにとって、それは絶望的な現実だった。
「二年半でクラリスたちが、今の雷蔵くんより強くなれるとは思わないんだ」
「確かに無理だな」
ラインが同意した。
「そうね」
ルーファも続いた。
「無理じゃ……じゃあどうするのじゃ!」
フロストが絶望的な声を上げた。
「俺たちにしか出来無い対策は打つよ」
ヒカリはきっぱりと言い放った。
「クラリスたちは学園での授業や他の事で忙しいから、強くなる為の訓練が出来ない。だから、俺たちが強くなって、俺たちで魔王を討伐する」
精霊たちはヒカリの言葉に、精鋭としての使命感を感じ始めた。
「目標は、学園ダンジョンの八十層。そのレベルの敵を単独で、または精霊同士で協力して倒せるようになることだ」
ヒカリは具体的な目標を示した。八十層は、ゲームでは三周目の魔王の強さに値するヒカリは二周目の魔王の強さ六十層では、何かあった時に対応出来無いと考え八十層と設定した。精霊たちは、その途方もない目標に一瞬怯んだものの、同時に新たな決意を固めた。
(出来るなら百層クリアを目指すけどね)
前世では学園ダンジョン攻略途中で天命を迎えてしまったヒカリは、今世では学園ダンジョンの完全クリアを目指す。




