第204話 雷鳴一閃
ララから魔石を二つとも使いたいと要望が出たが、瘴気生成装置は魔石を中心に構築されている為、魔石を取り出すには、装置を破壊する必要がある。
「装置破壊しないと魔石取り出せないよね」
ヒカリが改めて指摘した。
「どうやって取り出すかのう」
ソラリスは頭を抱える。
ソラリスは、装置本体の構造を解析して今後の技術開発に活かしたいと考えていたため、簡単に破壊したくはなかった。
「うーん⋯⋯装置を壊さずに魔石を取り出す方法のう⋯⋯」
ソラリスが呟きを聞いたクラウが答えた。
「この装置をそのまま使う気は無いから、破壊してもらっても問題ない」
クラウはきっぱりと言い放った。
「装置はドワーフが作るんだよな?」
「その予定じゃ」
ソラリスが答える。
「なら壊しても問題無いだろう」
「しかし、文字を保存せねばならんだろ」
ソラリスは、装置に刻まれた瘴気増幅の魔術文字の解析を心配した。
「もう保存したから問題ない」
クラウは、解析魔法を使って既に詳細な記録を取ったことを示した事にソラリスは呆れていた。
(やっぱりクラウって天才なんだろな)
「ソラリス問題無いみたいだから壊していい?」
「うむ、いいじゃろう」
ソラリスの承諾を得るとヒカリは、雷蔵に確認する。
(雷蔵くん、ちょっと斬って貰いたい物があるんだけど、いいかな?)
(分かったでござる)
(おー、ありがとう)
(すぐそちらに行くでござる)
(分かった)
ヒカリは雷蔵との会話を終え、ソラリスたちに顔を向けた。
「雷蔵くんが斬ってくれるって」
ソラリスはヒカリの言葉に顔をしかめた。
「アクアジット鉱石で作った装置を斬るじゃと?」
「光精霊よ、お主は、何を言っておるのじゃ?」
「すぐ分かるよ」
しばらくすると、雷鳴が轟き、雷蔵がヒカリの元へとやって来た。
「おーい、雷蔵くん、こっちこっち」
ヒカリは瘴気生成装置を指さした。
「雷蔵くん、これ斬って、中の魔石は傷つけないでね」
「承知したでござる。この程度、容易い」
雷蔵は迷うことなく刀を抜き放ち、装置に向けて一閃した。凄まじい雷鳴と共に、アクアジット鉱石で作られた装置は、中の魔石を傷つけることなく、正確に両断された。魔石は宙に浮き、ヒカリが回収した。
ソラリスとクラウは、その神業のような斬撃に、ただただ呆然とするしかなかった。
「うぉーー! 雷蔵くん、ありがとう!」
ヒカリは雷蔵の太刀筋に興奮する。
「流石雷蔵くん!」
「そうだ悪いけど、もう一つも斬ってもらっていい?」
「分かったでござる」
「じゃあこっち」
ヒカリと雷蔵は、壊さずに残していたもう一つの装置へと移動する。
「これお願いしますって、あれ? こっちは黒いままだな」
この装置はプニの浄化が甘く、装置の色は黒いままだった。
「取りあえず浄化っと」
ヒカリが光の魔力で浄化すると、装置は淡い水色に変化した。
「こっちもアクアジット鉱石だな」
ヒカリは確認すると雷蔵にお願いする。
「雷蔵くんお願いします」
「分かったでござる」
雷蔵は再び刀を一閃し、装置を両断した。ヒカリは宙に浮いた魔石を回収した。
そして雷蔵の刀の斬れ味に感心し質問する。
「その刀、凄い切れ味だね。雷蔵くんが具現化してる刀でしょ?」
ヒカリは雷蔵の持つ刀に興味を示した。
「違うでござる、この刀はサクヤの意思でござる」
雷蔵は静かに答えた。
「サクヤさんの魔力が結晶化したって事?」
ヒカリの推測に、雷蔵は首を振った。
「サクヤが消えて、刀だけが残ったでござる」
「そうなんだ」
(うん、これ以上は聞かないほうがいいな)
ヒカリはこれ以上話を大きくするのを辞めた。サクヤという存在が雷蔵にとって重要であったことを察したからだ。
「この刀にはサクヤの意思が込められているでござるよ」
雷蔵は刀を翳し、遠い目をして見つめていた。その表情には、深い敬愛と、少しの寂しさが滲んでいた。
「サクヤさんは雷蔵くんにとって大切な人だったんだね」
ヒカリの静かな言葉に、雷蔵は深く頷いた。
「さてこれで終わりだね。ありがとう、雷蔵くん」
「では、鍛錬に戻るでござる」
雷蔵はそう言うと、雷鳴を残して再び死の森へと戻って行った。
ヒカリはソラリスとララの元へと戻り、魔石を回収したことを報告した。
「ソラリス、ララ、魔石回収終わったよ」
「うむ、ご苦労であった」
ソラリスが労いの言葉をかける。
「王都の装置は世界樹と一緒の物を使うだろうし、クラウに任せるといいよ」
ヒカリは、彼に任せるのが最善だと判断した。
「これで世界樹の森全体に結界を張ることができ、瘴気の危機はひとまず去りました。ヒカリありがとう」
ララが心から感謝を述べた。
「う、うん良かったね」
(やべーアクアジット鉱石を横領した罪悪感が⋯⋯)
「じゃあ、俺は行くね」
ヒカリは逃げる様にその場を後にした。
「調査も一段落したことじゃし、我々も王都に戻るかのう」
ソラリスの言葉を聞いたナダルニアの調査団たちは、帰りの支度を始めた。
「明日は、こちらで装置を回収しに来ます」
「ナダルニアの調査団の方たちは、ゆっくり休んでください」
ララがナダルニアの調査団のリーダーに伝えた。
「こちらは異存ありません」
ナダルニア調査団のリーダーが答えソラリスたちは王都への帰路についた。
王都に戻ると、クラウは装置の構図を描くために、そのまま部屋へと向かった。クラウを追うように、クラウ専属護衛が後を追った。
クラウは部屋に入るなり、すぐに原型を書き出し、詳細を追記していく。それを見ていた専属護衛は、溜め息をついた。
(はぁ……まじか……)
(少女の像が天に手をかざして指先から魔力を結界に流す構図は分かるんだけど……何故モニカ嬢の銅像なんだよ!)
(さらに事細かに銅像の細部にまで描いてるやん)
クラウが書き込む毎に、護衛は心の中で突っ込む。
(え? スリーサイズまで書くの? まじかよ)
護衛はついに耐えきれず、声を上げた。
「ク、クラウ卿、それはやり過ぎでは?」
クラウは筆を止めることなく、真顔で答えた。
「完璧な魔力伝達効率と、芸術性を両立させるには、この詳細さが必要なのだ」
(「芸術性」は要らんやろ!)と護衛は叫びたかったが、飲み込んだ。この設計図が世界樹の防衛を担うこと、そしてその詳細なモデルがモニカである事実に、護衛は深い疲労を覚え呟いた。
「報告書どうしよう⋯⋯」




