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第180話 精霊たちの逆襲

精霊たちにとって世界樹は母なる木だ。精霊たちは世界樹から生まれる。その母なる木が今、攻撃を受けていることに、精霊たちの怒りは計り知れないほどだった。彼らの心には、深い悲しみと、故郷を傷つける者への激しい憤りが渦巻いていた。


精霊たちは夜になると、いつもの作戦会議の場所へと集まった。訓練場の空気は、普段の和やかな雰囲気とは打って変わり、緊張と決意に満ちていた。


「それじゃあ行こうか」

ヒカリが静かに告げると、精霊たちは一斉に頷いた。


彼らの瞳は、暗闇の中でも強く輝いている。ヒカリたちはまず、ララの元へと向かった。エルフの里の静けさの中、ララの住居へとたどり着く。


「ララ、信書を持ってきたよ」

ヒカリが声をかけると、ララが部屋の奥から姿を見せた。その顔には、一抹の不安と、しかしそれ以上の期待が入り混じっている。


「ヒカリ……!ありがとう。本当に助かるわ」

ララは、差し出された国王からの信書を両手で受け取った。厳重な封印と、見慣れた王家の紋章に、彼女は安堵の息を漏らした。これで、王国の協力が得られる。


「女王様は?」

ヒカリが尋ねた。


「お母様は、今、長老たちと今後の対策について話し合っているわ。王国からの援軍が来るまでの間に、私たちができることを話し合ってるの」

ララは、信書を大事そうに胸に抱えながら答えた。


「そうか、じゃあ、僕たちはもう行くねムムは?」


「ムムは、すでに世界樹の根元に向かったわヒカリが張った結界の様子を見に行ってるって」


「分かったじゃあ、僕たちも行くね」


ヒカリは、精霊たちと共にララに別れを告げ、夜の森の中を世界樹へと急いだ。森の奥深く、神聖な空気が漂う場所へと近づくにつれて、微かながらも瘴気の淀みが感じられる。


世界樹に着くと、ヒカリはムムと合流した。ムムは、小さな体を揺らしながら、ヒカリの足元へと駆け寄ってきた。


「ムム、しんどい、しんどいの方向は変わらない?」

ヒカリが尋ねると、ムムは小さな手を広げて、正確に三方向を指し示した。


「うん!しんどいは、あっちと、あっちと、あっちから来てる!」

ムムの言葉に、ヒカリは安堵した。瘴気の発生源の位置は変わっていない。


「よし。じゃあ、まずは一つ目の場所に行こうか」

ヒカリは、精霊たちに指示を出す。


「じゃあカイン、死の森へ行ってきて」

ヒカリは、今回の作戦におけるカインの重要な役割を指示した。


「我に任せるのだ!」

カインは自信満々に胸を張ると、東へと飛んでいった。


(カインは本当に分かってるのかな……)


ヒカリはカインを心配しつつ、他の精霊たちと共に装置の場所の手前まで移動した。夜の闇に紛れ、彼らの気配はほとんど感じられない。


ヒカリたちは、瘴気の発生源である最初の場所へと到着した。そこには、禍々しい装置が鎮座し、その周囲には黒いフードを被った7人の人物が立っている。彼らは装置を操作したり、周囲を警戒したりしているようだった。


「前と変わってないね」

ヒカリは、敵の配置と人数を確認した。


「敵は全部で7人いる」


「作戦名、オペレーション・メテオ!」

ヒカリが小声で宣言すると、精霊たちがキョトンとした顔で彼を見た。


「それは何でござるか?」

雷蔵が戸惑ったように尋ねた。


よっぽど恥ずかしかったのか、ヒカリは顔を両手で覆い、一言。

「あ、いや……気にしないで……」

ヒカリは咳払いをして、気を取り直した。


「さて、気を取り直して作戦言うね」

ヒカリは、精霊たちにそれぞれの役割を再確認させる。


「まず雷蔵くんが突っ込んで、左の3人を封じてもらって。ラインとフロストが右の2人の動きを封じる。残りは俺がやるね」

ヒカリが自分を含めた役割分担を明確にする。


「動きを封じた者から順に、エルが水風船で包み込んだら、ルーファがトルネードであっちの方に飛ばしてね」

ヒカリは、死の森がある東の方角を指差した。


「分かったのじゃ!」

フロストが力強く頷く。


「分かったわ!」

ルーファも応えた。


「ぼ、ぼく、がんばるよ!」

エルは少し緊張しながらも、やる気に満ちた表情だ。


「分かったでござる!」

雷蔵も意気込んだ。


「わかったぜ!」

ラインはクールに応じた。


各々の役割を理解したところで、いよいよ作戦を開始する。

「じゃあ雷蔵くんが突っ込んだら開始で!」


雷蔵は、その場で青年の姿へと変化すると、一瞬の躊躇もなく、敵へと突っ込んで行った。 


弐之型、瞬雷しゅんらい

雷蔵は、一瞬で敵との間合いを詰めた。


彼の刀からは、雷光が迸り、触れる者を麻痺させ、行動不能に陥れていった。敵は何が起こっているのか分からないうちに、膝を付いて地面に崩れ落ちていく。

合わせるように、フロスト、ライン、ヒカリがそれぞれの標的の動きを封じる。


フロストは氷の魔法で敵の足元を瞬時に凍結させ、ラインは雷の魔法で敵を感電させる。ヒカリもシャインプリズンで敵を捕らえた。彼らは一切の抵抗も許さず、あっという間に無力化された。


「エル、よろしく!」

ヒカリが合図を送る。


「分かった!」

エルは自信を持って答えると、魔法を唱えた。


「ウォーターバブル!」

エルの魔力から、透明な水の泡が次々と生成され、無力化された黒フードの者たちを一人、また一人と包み込んでいった。彼らは完全に水の球体の中に閉じ込められ、身動きが取れない。


7人全員を水風船で包み込むと、ヒカリはルーファに指示を出した。


「ルーファ、トルネードだ!」

ルーファは詠唱すると、巨大な風の渦を発生させた。水風船は風の渦に引き込まれて上空へと舞い上がり、次々と死の森の方角へと発射されていった。


「おおー、飛んでった!」

エルが目を輝かせて歓声を上げた。ヒカリも、作戦が成功したことに安堵の息を漏らす。


(カイン、そっち行ったよ!)


ヒカリは心の中でカインに語りかけた。しかし、カインからの返答は返ってこなかった。


(…………)


(あれ?カイン?)


カインからの返答がないことに、ヒカリは首を傾げる。精霊たちも同様に、不思議そうに顔を見合わせる中、雷蔵が何かを感知したように発言した。

「カイン殿の魔力が高まってるでござるな……」


その言葉に、ヒカリは先ほどの不安が確信に変わった。そして、一つ大きな溜息をついた。

「……死の森の魔物を相手にしてるんだろうな」


ヒカリは、カインが既に死の森で派手に暴れているであろうことを想像し、頭を抱えたくなった。彼の役割は「死の森に敵が到達したかの確認」だったはずだが、カインのことだ、きっと魔物を見つけて興奮しているに違いない。ともあれ、これで第一地点の敵の排除は完了した。


ヒカリはこれ以上瘴気を出さないようにクラウが来るまでの間装置を光の結界で封じ込めた。瘴気は装置から出てきているが光の結界内で浄化されていく。


残すはあと2箇所、やることは変わらない。


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