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第177話 ナダルニアへの信書

ヒカリはゲームの中で、世界樹が弱り、世界の衰退が始まるシナリオを思い出した。


(それはまだ先のシナリオなんだよな)


ゲーム『エテルニアの誓い』では、世界樹の衰退は物語の中盤のボスとの戦いの前段階で起こるはずだった。それが今、このタイミングで起こっていることに、ヒカリは強い違和感を覚える。


(今のうちに潰さないと、俺たちの力も弱まるんだよな)


世界樹は、この世界の魔力の源であり、精霊たちの力の根源でもある。世界樹が弱れば、精霊のヒカリたちの力も当然弱まるだろう。それは、今後の戦いにおいて致命的な不利となる。


「ムム、一旦戻ろうか」


ヒカリは、目の前の黒フードの人物たちにすぐに手出しせず、一度ララの元に戻って状況を共有することを決めた。情報が少なすぎる。


「ムム、分かった」


ムムは、ヒカリの言葉に従い、素早くその場を離れた。ヒカリとムムは、エルフの国へと戻った。


「ただいま」

ヒカリが部屋に戻ると、ララが心配そうに立ち上がった。


「おかえり、ヒカリ!どうだった?」

ヒカリは現状行われていることをララに説明した。


何者かが何かの装置によって世界樹を弱らせていることをララに告げると、ララの顔が強張るのが分かった。


「分かったわ、ヒカリ。今からお母様に会いに行くから、ついてきて」

ララは、事態の重大性をすぐに理解した。


ヒカリとララは、すぐに女王エルミナの元へと向かった。


女王の部屋へ着くと、そのまま部屋へと入っていった。エルミナは、既にヒカリの魔力を感知していたのか、彼らの姿が見える前から静かに座っていた。


「お母様、お話があります」


ララが真っ直ぐに告げると、エルミナの視界にヒカリが映ったことに、エルミナは何かを悟ったのか小さく頷いた。


「話を続けなさい」

エルミナの声には、深い威厳があった。


ララは、ヒカリが報告した内容を簡潔に、しかし詳細に説明する。


「ヒカリとムムが世界樹の異変を確認しに行ったんだけど、何者かが世界樹に攻撃を仕掛けているのを確認したみたいなの」

ララの言葉に、エルミナの表情が微かに曇った。


「その攻撃によって世界樹が弱っているのね」

エルミナはすぐに事態を把握した。


彼女は、エルフの女王として、世界樹と自国の危機を瞬時に理解する洞察力を持っていた。


「ヒカリはどう思いました?」

エルミナは、静かにヒカリに視線を向け、問いかけた。


「何かの装置で瘴気を世界樹に送ってるみたいだったね。そんで、全部で3箇所あるみたいだよ」


ヒカリは、自分が確認した装置の存在と、その数、そして瘴気の発生源であることを明確に伝えた。


「その装置の近くには、黒いフードを被った奴が複数人いたよ」

ヒカリは、舞踏会での襲撃者との関連性も示唆した。


エルミナは複雑な表情を浮かべた。ヒカリの話が本当なら、装置の破壊と敵の殲滅をしなければならない。敵の目的は世界樹を弱らせることだと分かったが、敵の強さや数が分からない。


さらに、エルフは森と共にあり、その恩恵を受けているが、はっきり言って制圧できるほどの力は持っていない。精霊大戦以降、争いがなくなったことと、世界樹に守られていて魔物も存在しないため、戦闘に慣れていないのだ。


「はぁ……どうしたものかのう」


エルミナは、世界各国の王に救援依頼を出すべきかを悩んだ。それには理由があった。戦闘になれば、多くの負の力の宿った血が流れる。その血が大地に吸収されると、世界樹へと流れ込む。それもまた世界樹にとって悪影響を及ぼす可能性があるのだ。


ただヒカリは、エルミナとは違う意味で考えていた。世界樹は神聖な存在であり、その近くで戦闘をすれば世界樹が穢れる。さらに、彼が生まれた地を血で汚したくないという感情がヒカリにはあった。


「女王様、相談なんだけど、俺たち精霊に任せてくれないかな」

ヒカリの言葉に、エルミナは顔を上げた。予想外の提案だった。


「精霊に……?」


「うん。あの装置の停止と、敵の排除なら、僕たち精霊だけでも可能です。戦闘を最小限に抑え、世界樹への負担を減らすことができると思うんだ」

ヒカリは、精霊たちの連携による戦術を説明した。


彼らは姿が見えないため、奇襲や撹乱に長けている。


「それに……もう一つお願いがあるんだけど」

ヒカリは、少し躊躇しながら続けた。


「あの装置を無力化した後、そこから何らかの魔力反応が残るかもしれません。それを分析したり、今後の対策を立てるために、王国から人を連れてきたいんだけど、いいかな?」

エルミナは、ヒカリの提案に深く考え込んだ。


精霊たちに任せるという発想はなかったが、確かに血を流すことを避けられるなら、それに越したことはない。しかし、王国の人をエルフの聖地である世界樹の根元に入れることには、抵抗があった。エルフは外部の存在をあまり入れない閉鎖的な文化を持つ。


「王国から……それは、人間ということか?」

エルミナの声には、警戒の色が混じっていた。


「うん。技術や魔術に長けた者が適任だと思います。彼らなら、装置の解析や、瘴気の浄化方法についても知見があるかもしれないし」

ヒカリは、冷静にその必要性を説いた。


エルミナは、再び深く息を吐いた。

「わかった……。精霊に任せること、そして王国からの人員を同行させること、承諾しよう」

エルミナは、ヒカリの提案を受け入れた。


世界樹の危機は、エルフの国だけの問題ではない。この際、外の力を借りることも必要だと判断したのだ。


「ありがとうございます、女王様!」

ララが安堵の表情でエルミナに感謝を述べた。


「ヒカリ、頼んだぞ。世界樹を、そしてこの国を守ってくれ」

エルミナは、ヒカリに全てを託すように言った。その瞳には、深い信頼が宿っていた。


「うん。必ず」

ヒカリは力強く頷いた。


エルミナは、ヒカリの言葉に頷くと、すぐに執務机に向かい、筆を執った。ナダルニア王国の国王宛に、世界樹の異変に関する報告書と、技術者の派遣を依頼する信書を書き始めたのだ。


「ヒカリ、この信書は、あなたに託すわ。国王陛下に直接渡してちょうだい」

エルミナは、書き終えた信書をヒカリに差し出した。


厳重に封がされたその信書には、エルフの国の紋章が刻まれている。


「ありがとう。すぐに届けるね」

ヒカリは信書を受け取った。


「それじゃ、一旦戻るよ」

ヒカリはそう告げると、その場を離れ、再び世界樹の根元へと向かった。


(次に戻ってくるまでに、このままにしてるのはダメだからな。結界を貼っとこ)


ヒカリは、黒いフードを被った者たちに気づかれないように、世界樹の根元を覆うように光の魔力を展開させた。彼の魔力は、透明な膜のように広がり、瘴気の侵入を防ぐ光の結界を形成する。さらに、その結界の内側を浄化の魔力で満たし、既に侵入している瘴気を少しでも薄めようとした。


(これで当分は大丈夫かな)


一時的な処置ではあるが、これで世界樹への悪影響を遅らせることができるだろう。ヒカリは、光の結界がしっかりと機能していることを確認すると、王国へと飛び立った。彼の心には、エルミナから託された使命と、世界の危機を救うという強い決意が燃え上がっていた。

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