第113話 カインの強運
カインのフラグが立つ
「少し出てくる」
モニカが母親の治療を終え、静かな夜が訪れた頃、カインは突然そう告げた。
「カインって本当に強運だね」
ヒカリは、カインの言葉にどこか含みのある笑みを浮かべながら呟いた。
彼の行動の先には、いつも何かしらの騒動が待ち受けている気がするのだ。
「ほどほどにね。後一人は残してよ」
ヒカリの言葉に、カインはいつものように腕を組み、自信ありげに答えた。
「うむ、わかった」
そう言うと、カインは夜の闇に紛れ、森の方へと飛び去っていった。
「さてと、俺も行こうかな」
カインを見送ったヒカリは、モニカの家をそっと抜け出し、村の広場へとやって来た。
人気のない広場で、ヒカリは久々に胸の奥に眠る中二病的な衝動を抑えきれなくなった。
「フッ……我の仲間に一切手を出すことは出来ない」
夜空に向かって手をかざし、低い声で呟く。
「我は光の盾ヒカリ、我の力をとくと見るがよい!」
ヒカリは、手のひらを空に向け、集中して魔法を唱えた。
《シャインバリア》
ヒカリの手のひらから放たれた眩い魔力は、夜空を駆け上がり、まるで巨大な光の膜のように村全体を覆い尽くした。
「我ながら完璧だな」
満足気に頷いていると、背後からじっと見つめる視線を感じた。
ヒカリが恐る恐る後ろを振り返ると、そこにはモニカが立っていた。
「え?モニカ、いつからいたの?」
モニカは、ヒカリから視線をそらしながら、どこかぎこちない様子で答えた。
「い、今来た所です……」
(うわー、絶対嘘だ……)
モニカは、気まずさを紛らわせるように、慌てて話題を変えようとした。
「ひ、ヒカリ様は何をしていたのですか?」
しかし、モニカの視線は、なぜか広場の地面を見つめたままだ。
(うわー、気まずい……)
「お、俺は、村全体に結界を張っていたところだよ」
ヒカリは、平静を装いながら答えた。
「え?何かありましたか?」
モニカは、驚いた表情でヒカリに問いかけた。
「まだ何も無いよ。もうすぐ始まるから、その前に準備してたんだよ」
ヒカリの言葉の意味が分からず、モニカは首を傾げた。
(カインの攻撃、始まったな)
その時、ヒカリは遠くの森で、カインの魔力が急速に膨張しているのを鋭く察知した。
その頃、カインは深い森の奥へと進んでいた。昼間には気づかなかったが、森の奥の洞窟には、どうやら野盗が住み着いているらしい。
「お頭、いよいよ今日、あの村を襲撃するんすよね?」
洞窟の中で、野盗の一人が、屈強な体格の頭領らしき男に確認した。
「ああ、そうだ。野郎ども、準備はいいか!」
頭領の低い声が洞窟内に響き渡ると、「おー!」という野太い歓声と共に、次々と野盗たちが洞窟の奥から姿を現した。
彼らの狙いは、モニカのいる静かな村だった。
「村を拠点にするからな。建物をあまり壊すなよ」
頭領は、鋭い眼光で部下たちを睨みつけた。
「他は好きにしろ!」
いきり立つ野盗たちだったが、その時、洞窟の入り口付近で、強烈な爆発音が轟いた。
ズドォォォン!
「久々にやるか!」
煙の中から姿を現したカインは、腕を組みながら、やる気満々の表情でニヤリと笑った。
カインは、戸惑う野盗たちに向かって、容赦なく魔法を連発した。
「はーははは!消し炭になるがいい!」
突然の襲撃に、野盗たちは右往左往し、悲鳴を上げた。
しかし、カインの攻撃は止むことはない。
強烈な炎の塊や、鋭い炎の槍が、次々と野盗たちを襲った。
わずか数分の間に、野盗の数は半減した。
「お、お頭!やばいっす!仲間がどんどんやられてる!」
ズドドドー!
「どうなってやがる!」
野盗の頭領が叫んだが、カインの攻撃はさらに激しさを増すばかりだった。
百人近くいた野盗は、ほとんどがカインの魔法によって倒されていった。
そして、ようやくカインが満足したように息をついた。
「さて、一人だけ確保して、後は消し炭にしとくか」
カインは、頭領と呼ばれていた男だけを生け捕りにし、残りの野盗は跡形もなく焼き払った。
「さて、こいつをどうやって持っていくかな……」
カインが、捕らえた野盗の頭領を前に腕組みをして悩んでいると、そこにヒカリがひょっこりと現れた。
「うわー、またえらいやらかしたね」
ヒカリは、周囲の焼け跡と、ぐったりとした野盗の頭領を見て、呆れたように言った。
「こいつ、どうやって村まで持って行くか悩んでた所だ」
カインの言葉に、ヒカリはあることを思いついた。
おもむろに、捕らえた野盗の頭領に向かって魔法を唱えた。
《シャインプリズン》
眩い光が野盗の頭領を包み込み、彼は瞬く間に光の牢獄に閉じ込められた。
「カイン、ファイアストームで村までぶっ飛ばして」
ヒカリの突拍子もない提案に、カインは一瞬目を丸くしたが、すぐにニヤリと笑った。
「承知した!」
カインは、光の牢獄に閉じ込められた野盗の頭領に向かって、強烈な炎の魔法を放った。
《ファイアストーム》
光の牢獄にカインの灼熱の炎が直撃すると、中のお頭は悲鳴を上げる間もなく、勢いよく空へと吹っ飛ばされた。
「うわー……」
その様子を唖然と見送るヒカリ。吹っ飛ばされたお頭は、火の玉となって夜空を駆け抜け、村の近くに落下した。
それを追って、カインとヒカリは急いで村へと戻ってきた。
村では、ヒカリが前もってモニカに頼んでおいた村の男たちが、落下してきた野盗の頭領を待ち構え、無事に拘束した。
こうして、村を襲撃しようとした野盗の脅威は、カインの強運とヒカリの奇策によって、あっという間に去ったのだった。
翌日、モニカは、朝から母親とゆっくりと散歩をしたり、昔話に花を咲かせたりと、久しぶりの親子の時間を心ゆくまで楽しんでいた。
母親の顔には、以前のような不安な影はなく、穏やかな笑顔が戻っていた。
モニカの腕輪から送られる微かな光の魔力が、母親の病状を確実に完治させていたのだ。
次の日、王都への帰宅の時間になった、母とモニカは別れを惜しむように抱き合った
「お母様行って来ます」
「行ってらっしゃいモニカ」
こうしてモニカとヒカリ、そしてカインは、王都への帰路についた。
捕らえられた野盗の頭領は、道中にある町の詰め所へと引き渡された。
カインの強運と、ヒカリの奇想天外な行動によって、モニカの故郷は守られ、さらに母の病気が治ったことにモニカの心には、安堵感が広がっていた。




