第10話 クラリスとヒカリ、進まぬ契約
「ヒカリ、契約ってどうやるのかしら?」
クラリスは机に広げた魔法書を見つめながら、小さく唸った。
「この本には『精霊との契約には誓約の言葉と契約の証が必要』って書いてあるけれど、具体的な方法までは載っていないの」
「誓約の言葉と契約の証……か。俺も何となく聞いたことはあるけど、詳しくは分からないな」
「ヒカリも分からないの?」
「うん。精霊としての本能とかで何か分かるかなって思ったけど、契約に関する記憶や知識はまったくないんだ」
クラリスはしばらく考え込んでいたが、やがて顔を上げた。
「……試してみるしかないわね」
「おっ、それっぽい誓約の言葉を考えてみる感じ?」
「ええ。ヒカリ、準備はいい?」
「もちろん!」
クラリスは真剣な表情になり、両手を胸の前で組む。そして、しっかりとした口調で言葉を紡いだ。
「私はクラリス・フォン・ルミエール。汝、光の精霊ヒカリよ。我が契約精霊となり、その力を貸してくれることを誓いますか?」
「誓います!」
俺は即答し、できる限り強く光を放った。
しかし――
「……あれ?」
クラリスが困惑した顔で手を見つめる。
「何も起こらない……?」
契約が成立すれば、精霊と契約者の間に魔法の光が生まれるはず。しかし、いくら待ってもその兆候は見られなかった。
「おかしいな……俺、めちゃくちゃ契約する気あるのに」
「もしかして、何かが足りないのかしら?」
クラリスは再び本を開き、もう一度契約の章を読み返す。
「精霊契約には、契約者の魔力と精霊の力が共鳴しなければならない……」
「共鳴?」
「ええ。契約者と精霊が深く繋がり、お互いに力を認め合うことで、契約が成立するらしいわ」
「じゃあ、俺とクラリスはまだ繋がりが足りないってこと?」
「そんなことないわ! ヒカリとは、もうたくさん話して、たくさん一緒に過ごしてきたもの」
「だよなあ……」
俺たちは確かにお互いを理解し合っている。会話もできるし、一緒にいる時間も長い。
「もしかして……俺の力不足?」
「ヒカリの?」
「俺、自分がどれくらいの力を持ってるのか、あんまり意識したことなかったんだよね。契約には精霊の力も必要ってことは、俺の力が足りてないせいで契約できない可能性もある……?」
クラリスは少し考え込んだ後、静かに頷いた。
「……それはあるかもしれないわね。もしかすると、ヒカリがもっと力をつければ、契約が成立するのかも」
「じゃあ、俺はどうやって力をつければいいんだろ?」
「精霊は、契約者の魔力を受けて成長するとも聞いたわ。でも、ヒカリはまだ契約していないから……」
「ってことは、自力で成長するしかない?」
「そういうことになるわね」
俺は少し落ち込みながらも、気を取り直した。
「よし、分かった! 俺、もっと精霊としての力をつけて、絶対クラリスと契約する!」
「ふふっ、頼もしいわね。でも、無理はしないでね?」
「もちろん! でも、絶対にクラリスの力になりたいから、頑張るよ!」
クラリスは優しく微笑みながら、俺に手を差し出した。
俺はその手のそばで光を灯しながら、改めて誓う。
(絶対にクラリスと契約して、彼女の未来を守ってみせる!)
契約への道はまだ遠いが、それでも俺たちは確実に絆を深めていくのだった。




