2.「タクトさん、今日もお疲れ様でした!」
「タクトさん、今日もお疲れ様でした!」
ここは冒険者ギルド。
ボロ布を纏ったタクトは、雑草を詰め込んだ麻袋をどかっと受付棚に置く。
「クエスト『草むしり』ですね。麻袋がいち、にい、さん、し・・・7袋なので、今日も70エルですね!はい、どうぞ」
「・・・どうも」
タクトは受付嬢から10エル銅貨7枚を受け取る。
この受付嬢の名は確か・・・セリアだったか。何にせよ突然現れた浮浪者同然の余所者に対してこの愛想の良さは素晴らしい。アイドルになればさぞや大成するだろう。
「・・・アイドル・・・か。ばかばかしいな・・・」
タクトはボソッと呟くと、冒険者ギルドを後にする。
あの日おそらく電車に跳ねられたタクトは、気がつけば中世ヨーロッパ風の異世界にいた。
「まさか僕が異世界転生とは・・・」
ゆらめもにハマるまではれっきとしたアニオタだったタクト。異世界転生についてももちろん履修済みであったが、憧れたことは一度もなく、いざ自分がその立場になっても迷惑なだけである。
現世で精神的な致命傷を負ったタクトには、転生した異世界で人生をやり直す気概はもはやなく、かといって自死するほどの気力もなく、ただ死なない程度の食い物を得るための日銭を稼ぐため、冒険者ギルドに足を踏み入れたのだった。
それから二週間ほど経っただろうか。
タクトは毎日草むしりのクエストを受注しては、大体70エルを手にし、市場でパンや野菜を買って食べては、路地裏で夜を明かすという生活を続けていた。
クエストでむしった草を2袋ほど持ち帰り作った簡易的なベッドのおかげで、毎日石畳の上で寝ていてもさほど体は痛んでいないが、それでもそろそろ身体に悪い気がする。
また転生当初着ていた現代世界の服は「こいつ珍しい服着てるぞ!なんだこれ!」と興奮した追い剥ぎに奪われてしまっており、今はボロ布を身に纏っているため、衛生的にもおそらくよろしくない。が、
「これじゃそのうち病気になって動けなくなりそうだな・・・でもまあそれで死ぬのでいっか・・・」
タクトはもう自暴自棄に呟き、今日も藁の上、何日も洗っていないボロ布を巻いて寝るのであった。
翌日。
今日も今日とて草むしりを終え、冒険者ギルドからいつもの路地裏に帰るタクト。
だが、いつも通る小さな広場が、何だか今日は騒々しい。
「?」
ちらっと見渡すと、隅っこの方に小さな人だかりができている。
タクトの足は自然とそちらに向いていた。
「えーっと、今日はみなさん来てくれてありがとうございます・・・」
か細いが声がする。
「それでは聴いてください。『わたしの恋は、ファイヤードラゴン』」
ジャーンと鳴り響く弦楽器の音。カポカポと軽快なリズムの打楽器。そして。
「ーーーーーーーーーーーー!」
それはそれは美しい声だった。か細かった話し声からは想像もつかない、芯のある透き通った歌声。歌うことが好きな気持ちがおずおずと、しかし真っ直ぐ伝わってくる熱量。
タクトは導かれるように、小さな人混みをかき分ける。
そして目に飛び込んできたのは、可憐な一人の少女だった。