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3.本当の復帰戦

 少し肌寒い日も増えてきた10月中旬、私と椿さんは大会会場で受付を済ませていた。


「あら、今日は気合い十分ね」

「メリーちゃん」


 受付横の空きスペースでパンフレットを確認していると、ふふんと満足げに微笑むメリーちゃんに声を掛けられた。


「こ、この格好はその。お婆ちゃんがちょっと……」


 おそらくメリーちゃんが喜んでいる要因であろう今日の私の格好、つまりこの紋付き袴姿について、慌てて弁明する。


「大会に正式復帰するって報告したら、私よりも気合いが入っちゃったみたいで……」


 この紺色の紋付き袴一式は、伝統的なロボディア戦闘用の衣装だ。通常の袴とは違い戦闘競技に適した構造になっていて、見た目に反して慣れればとても動きやすい。

 とは言え、競技用ウェア等が普及した現代、それも学生の大会で着用する人は殆どいない。というかいない。

 

「本当は普通にウェアで来ようと思っていたんだけど、わざわざ急ぎで仕立ててくれたらしくて……」


 小さい頃なら気にせず喜んで着ただろうけど、今は良くも悪くも目立ってしまって正直少し恥ずかしい。でもお婆ちゃんの気持ちを無下には出来ないし。

 

「何を恥ずかしがっているのよ。椿の家紋入りの伝統的な正装で勝負に挑むのでしょう。今日のあなた、とっても素敵よ」


 私の両手を取ってニッと笑いながらメリーちゃんは言った。その行動と表情に、もやっとした緊張や雑念が何故か雲が晴れるように消え去った。


「……うん、ありがとう。なんかすっきりしたかも」

「良い表情になったわね。では私は観覧席で応援しているわ」


 椿さんに挨拶をして観覧席へ向かうメリーちゃんにお礼を言って、私達も受付ロビーを離れる。

 夏の大会で優勝したメリーちゃんは、冬の大会に合わせて調整するため今回不参加にしたらしい。


「私も早く追い付きたいな」


 そこからは予想以上のペースで順調に勝ち進んでいった。分かっていたことではあるけれど、刀を握り侍型としての基本型で戦う椿さんは強い。

 トーナメント戦中盤まで、ノーダメージかつ殆ど時間を掛けず勝利して、あっさり決勝戦までたどり着けてしまった。

 

「君のロボディアは侍型だよね」

「え、あ、はい」


 そして今、決勝戦を前にロボディアのボディチェックをされている間、私は対戦相手に話し掛けられている。高校生で『(きみ)』って呼んでくる人、初めて会ったな。


「これまでの試合、僕も見ていたけど本気を出していないのはわざと? それとも何か理由があるとか?」

「え」

「ま、本気を出さないなら僕にも勝てそうだ」


 ハーフっぽい顔立ちのその人はニコッと笑って自分の陣地に戻っていった。


「貴花。どうしました」

「ああ、ごめん。対戦相手の人に話し掛けられて」


 ボディチェックが終わった椿さんに肩を叩かれた私は、ハッと我に返った。私達もそれぞれ陣地に戻らないと。


「いや。話し掛けられて、というか挑発だったかも」

「相手も人型ですから、そうかもしれませんね」


 椿さんの言う通り、相手のロボディアは騎士型つまり人型タイプだ。それも最新モデルだと思う。身に付けているガジェットも最近流行りのものばかりみたい。


『では両者、感覚共有ラインを繋いでください』


 準備を整えながら相手のチェックをしていたら、審判よりマイクでアナウンスが流れた。


「じゃあ椿さん、勝とう」

「はい。勝ちましょう」


 椿さんと向かい合って両手を繋ぎ、勝利を口にした後私はマスタールームへ、椿さんは対戦場へ向かう。

 そしてマスタールームに設置された感覚共有ラインを起動して、床と壁に埋め込まれたセンサーから自身の身体を読み込ませる。読み込みが完了した後、対戦場にいる椿さんと繋がれば準備は完了。

 戦闘中は、この感覚共有ラインが私達の意志疎通の要だから設定値の確認もかかせない。

 

「初戦から変えず、この戦闘も共有率50%にしよう」


 感覚共有ラインの共有率が高ければ高いほど、細かな動きや思考まで高精度で通じ合えるけれど、その分スタミナの減りや互いの負担が大きくなる。

 ブランクがあるのは事実だし、今大会は全て標準的な共有率50%が適切だと思う。


『感覚共有ラインの接続が完了したようなので、戦闘開始の合図に入ります。両者、構えて』


 審判のアナウンスに従って私は椅子に座り、椿さんと相手のロボディアは各々刀と剣を構える。


『戦闘開始』


 合図が出されたと同時に、両者一気に間合いを詰めた後、すぐに距離を取る。

 素早さは身軽な椿さんの方が上だけど、鎧を装備している分相手の騎士型はガードが堅そうだな。最新モデルっぽいから、素材もおそらく良いものだろうし。


「やっぱり一撃が重い……!」


 騎士型が持っているのは、西洋の剣を模した真っ直ぐな厚い剣。叩き斬るように振ってくるから、当たればダメージが大きい。


「何か反撃の手立てを考えないと」


 椿さんのポテンシャルの高さで回避出来ているけれど、スタミナを考えるとあまり長引かせたくないな。 


『そこまで! 前半終了。ハーフタイムに入ります』


 審判からアナウンスされた後、互いのロボディアが各々マスタールームへ向かう。


「椿さん! お疲れ様」


 早速マスタールームに入室した椿さんに駆け寄って、声を掛ける。このハーフタイムの間に椿さんから意見をきき、後半で打開しなければ勝利の道はない。


「貴花もお疲れ様です。やはり、あの硬い鎧装備と一撃の重たさが問題ですね」

「そうだよね。侍型の刀じゃ鎧に致命傷は与えられないだろうし……って、その傷!」


 椿さんの小指には、パックリ裂けたような傷が入っている。


「指の関節部分にちょうど剣が当たってしまったようです。戦闘には問題ありません」

「関節部分……関節……関節か。うん、なるほど。とりあえず直そう。手を出して」


 共有ラインを繋いだままにしていることで、今思い付いた考えが椿さんにも伝わったらしく、頷き理解した素振りを見せた。

 裂けた小指の関節をメンテナンスガンで塞ぎながら、後半の共有率を考える。

 スタミナと攻撃のバランスを考えて、調整しなければ。これは私の役割だ。

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