1.久しぶりのロボディア戦闘
キャラクター紹介
弥生貴花
現在高校1年生。小学6年生まではロボディア戦闘大会(通称ロア戦)で活躍していたが、中学に上がって辞めてしまった。しかしやはりロア戦を忘れられず復帰。
弥生椿
今はもう手に入らない初代侍型ロボディア。弥生家の蔵に眠っていたが、貴花が幼い頃に起動されてやってきた。刀を使った戦闘が得意。
西園寺メリー(サイオンジ メリー)
勝ち気で自信家なお嬢様系女子。自分のポリシーに則ったファッションとその性格で周囲をよくも悪くも圧倒しているが、筋の通った気持ちのいい性格。
「3位、か」
夏季ロボディア戦闘大会高校生アマチュア部門第3位。
まあこんなものか、と冷房の効いた会場に張り出された結果表をボーっと眺める。
「ちょっと、貴花!」
無料配布されていたアイスキャンディーをかじりながら、そのまま突っ立っていると、背後から聞き覚えのある声で名前を呼ばれた。
振り返ればそこには、白いフリルブラウスと真っ赤なコルセットスカートを着た、ザ・お嬢様がいる。
「あ、メリーちゃん」
「あ、じゃないわよ。あなたね、どういうつもりなの」
ビシッと結果表を指差したメリーちゃんは、ぷりぷり怒りながら私に詰め寄ってくる。
「どうしてアマチュア部門に出場してるのよ。あなたの実力ならセミプロ部門が適切でしょう」
「いやあ。あはは……だって私、3年ぶりの大会だったから」
私は小学校卒業と同時にロボディア戦闘競技から離れた後、中学の3年間は一度も大会に出場しなかった。つまり、今回は約3年ぶりの競技復帰ってことになる。
「ブランクがあるからって言いたいのかしら。高校生になって久しぶりに大会へ戻ってきたかと思えば、そんな弱気になって帰ってくるなんて。辞める時だって何も言わずに姿を消して……」
眉を吊り上げて怒っていたメリーちゃんは、次第に弱弱しい声に変わりそのまま俯いた。私が想像していたよりも、ずっと心配していてくれたのかもしれない。何も伝えずに辞めてしまって、メリーちゃんに悪いことしたな。
「ごめん。私、心配させたかも」
「当然でしょう! でもその腑抜けた状態でトップ3に入れるなら安心したわ。アマチュア部門だけど」
メリーちゃんはそう言って振り返り、結果表の下に置かれた紙を1枚取ると、私の手に掴ませた。
「10月ロボディア戦闘大会高校生セミプロ部門……」
「心配させた自覚があるのなら、この大会に出場なさいな。予選通過権は獲得出来ているわけですし」
「えっ」
確かにアマチュア部門で3位以内に入れば、予選無しでセミプロ部門に挑めるけど、そんなつもりで今回大会に出たわけじゃない。心の準備が出来ていない。
「それと……あら。良かった。椿さーん!」
私に再会した時とは対称的に、メリーちゃんは満面の笑みで名を呼び、手を振った。視線の先には私のロボディアである椿さんが、少し離れたところからこちらへ向かって歩いてくる様子が見える。
「メリーちゃんって、昔から椿さんのこと大好きだよね」
大会から話を逸らすために、軽く話題を振ってみる。すると、昔と変わらない様子で目を輝かせたメリーちゃんが勢いよくこちらを見た。
「だって! 椿さんはあの初代侍型ロボディアの女性型よ。美しい立ち振る舞いに太刀捌き。最新型のロボディアでも、真似できない気高さがあるでしょう。ロボディア戦闘に携わる者なら敬うべき存在よ」
確かに椿さんは、ロボディアの中でも有名な歴史あるモデルだし、我が家の蔵に眠っていたのはかなり幸運だったと思う。
まあ小さい頃は、当時流行っていた洋風モデルや横文字の名前に憧れたこともあったんだけど。
「待たせましたね、貴花。そしてお久しぶりです。西園寺嬢」
「椿さん」
いつの間にか側に来ていた椿さんにハッとしつつ、メリーちゃんを見る。あ、すごく嬉しそう。
「西園寺嬢だなんて。椿さん、私が昔喜んだその呼び方をまだ覚えてくださっていたのですね」
「はい。記憶力には自信がありますから」
「まあ! ふふっ。そうですわね」
この感じ、ちょっと懐かしいな。いつもってわけではなかったけれど、会場で会った時はこうして椿さんとメリーちゃんが談笑しているのを眺めていた気がする。
「椿さんは、先程お一人でどちらへ行っていたのかしら」
「大会運営の方から、写真を撮られていました」
「ああっ。3位でしたものね。おめでとうございます」
まずい。写真の話はまずい。
「あら。じゃあどうして、貴花さんも一緒に撮影していなかったのかしら」
「ああ、えっと、それはその……恥ずかしくて」
「もう、あなたって人は!」
せっかく上機嫌だったメリーちゃんを、またぷりぷりさせてしまった。だって写真撮られるのって、なんか苦手だし。許してほしい。
「はあ、怒ったって仕方ないわね。10月のセミプロ部門では、必ず椿さんと一緒に撮ってもらいなさいな」
「ええっ」
ああ。結局大会の話に戻っちゃったし、写真のこともメリーちゃんにバレてしまった。
「貴花、次はセミプロ部門に出るのですか」
嫌だーっと頭を抱えていると、私より背の高い椿さんがこちらの顔を覗き込むようにして、尋ねてきた。
「あー、うん……そうなっちゃった。ごめん」
「いえ、私は構いませんよ」
そう言って椿さんは私の頭に手を乗せると、慰めるように優しく撫でてくれた。硬い手の平から、ひんやりとした冷たさが伝わってきて少し気持ちが良い。
「観念したみたいね。では、10月の大会でまた会いましょう。椿さんの太刀捌きも楽しみにしております」
「あっ。メリーちゃん、刀のことなんだけど……!」
待って、と慌てて声を掛ける。しかし騒がしい会場でその声が届くことはなく、メリーちゃんはスカートをふわりと軽く舞わせて帰ってしまった。
「まだ西園寺嬢に伝えていなかったのですね」
「……うん。でもそうだね。これを機にもう一度、考えてみようと思う」