時を越えた恋の中島ストーリー
深沙大王さまが結んだ恋人・ヒロの手は大きい。
「Aカップじゃ、物足りないかしら」
菜穂の願かけが実って交際が始まったばかりなのに、早くも気をまわす。
「大した胸じゃないけど、ヒロのだから……磨かなくっちゃ」
小胸用のナイトブラを買った。2カップUPは誇大広告でも、うれしい変化が見られた。デート服も大胆になっていく。
「手を出さないヒロを悩殺だぁ」
意気込んで、ドライブデートに出かける。だが、いざ助手席に座ると、タンクトップが気はずかしい。ヒロは喜ぶどころか、おこったように車を走らせる。憮然とした横顔をのぞきこむ菜穂。
「ヒロは可愛い系がタイプなのに、失敗したなぁ」
服のチョイスを後悔。バッグに下がる亀土鈴を、ぎゅっと握りしめる。車が止まった。誰もいない山頂だ。
「誘惑してるつもり?」
ムッとしたまま、ヒロが言う。
「えっ?」
「せっかくだから……」
驚く菜穂の肩ひもをずりさげる。ポロリと右胸が出る。わしづかみ、むしゃぶりつく。
「痛っ、無抵抗なんだから乱暴にしないで!」
菜穂の大声にびっくりするヒロ。顔色をうかがいながら、ソフトクリームのようにそっとなめる。
「撤っ…回…やさしいと……感じちゃう……」
きつく唇をかんで、耐えている。フッと吹きだすヒロ。利き腕と逆も動かし、左胸もまさぐる。ダブル攻撃に耐えきれず、菜穂は身をよじらす。転がり落ちるバッグから、コロンコロンと鳴る亀土鈴。あまく、とろけそうだった。
※
「話がある」
そう切り出されたのは、深大寺レジデンスのヒロの部屋。なれないミニスカートが照れくさい。
「君のことを調べたんだ、探偵をやとって。君は見はられていた。危険な連中だ。今のヤマから手を引くんだ」
せっかくのヒロの助言だが、ジャーナリスト魂のかたまりの菜穂。
「なんでも思い通りになるから……」
ヒロのあつい唇にふれながら、ぎこちなく口づけた。実際、菜穂からキスするのは、はじめてだ。
「これだけは我を通させて」
強い意志をつたえた。
「結婚まで考えているのに」
ヒロは言い返したかったが、ひるまぬ瞳に言葉をのみこむ。無理難題を言いたい気分になった。
「それなら、バックでやらせて」
ノーメイクの頬を紅潮した。菜穂は覚悟を決めたようだ。
「恥ずかしいから、ロングスカートに着がえてから」
身をひるがえす。
「だめ、そこに四ツ馬になって」
腕をつかむヒロ。
「そこまでさせる気⁈」
口にはせず、ヒロの胸板をたたきかける。その拳を難なくつかんだ。にらむ菜穂の瞳がうるんでゆく。
涙にもたじろがぬヒロ。
「じゃあ、裸になって」
「あなたが脱がせて」
挑むように、胸もとのひもをつかませた。ためらわず結び目をほどき、胸をはだけていく。そして、ふるえる菜穂を抱く。好きな子にはいじわるしちゃうタイプ。だが、重なり合うとき、ヒロはやさしかった。痛がる菜穂をなだめるように、髪をなでる。それだけで菜穂は「痛くてもかまわない」という気になる。ほんのりと出血。菜穂はバージンだった。
朝帰りの道すがら。神代植物公園に遠まわり。全身からヒロの唇の感触が消えない。火がついたような体を濡らす桜雨。「ほてりをさますにはちょうどいいわ」。たたずむ菜穂は女になった幸せと同時に、もろさを抱えた。
※
再び、ヒロの部屋。菜穂が入っているにもかかわらず、トイレのドアが開く。ずかずかと入ってくるヒロ。
「こんなとこじゃ……」
菜穂の言葉を無視して、ベルトを緩め出す。
「大、出ちゃったから」
懇願する目に見つめられ、ようやく撤退。
「ふぅーっ」
ほっと一息。だが、拭き終えるや否や、再びドアが開いた。ヒロはトランクス一枚だ。赤らむ菜穂のひざのショーツを下げる。
ドキドキと高鳴る鼓動。ヒロが入ってくる。
「前戯なしで痛い」
苦痛にゆがむ菜穂の顔を見て中断。しゃがんだヒロは、那津のひざに口づけた。そのまま、内腿を這うヒロの唇。
「嫌っ」
「俺が嫌⁈」
顔を上げて、ヒロがにらむ。
「……じゃない」
「ヨシっ」
うなづいたヒロは、菜穂の股間に顔をうずめた。
「あっ……」
思わず、声が出る。触れると閉じるイソギンチャクのように、菜穂の粘膜もきゅっと縮まる。ヒロの舌が濡らすまでもなく、愛液があふれた。
「もう止めて……壊れちゃう」
気にとめず、なめ続けるヒロ。スポーツで鍛え抜かれた体。難なく菜穂を持ち上げ、ベッドに運ぶ。開き放たれた窓。コトコトとまわる水車の音に乗って、夜風が二人をまとう。その夜、ヒロは何度も入ってきた。いつだって受け身の菜穂を変えたくて攻め続ける。ヒロの背中に手をまわし、ひたすらしがみつく菜穂。幼いころ聞いた天平からの言伝え、湖水中の島で結ばれた恋人たちの夢を見た。セックスは耐えるという菜穂のイメージを、「それは悦びよ」と天平の娘がほほえむ。。初めての絶頂の瞬間。身も心も乱れる菜穂。知らなかった自分に驚いていた。
夜明け。深沙堂のこんもりした茂みに向かって、二人の未来を祈る。おぼあちゃん子だった菜穂の習慣だ。
「運命のままにお導きください。親に反対されようと、試練が待ちかまえていようと、
あるべき形なら、乗り越えられますように。
あるべき形なら、だいじに守れますように。
あるべき形なら、まっとうできますように。」
目を覚ましたヒロが、後ろから菜穂をつつむ。
「神さまか、仏さまか、大王さまか……。なにか大きな力が与えてくださったの。あなたにはボール、私にはペン。だから、しっかりと握って離さないでいましょ」
武蔵野アヴェニューに輝く樹々のざわめき。二人して、どこまでも澄んだ空に見上げ、思いの丈を馳せていた。