出会い
小鳥のさえずりと、風になびく桜が春の訪れを知らせてくれる。
「春だ!!新学期だ!!入学式だ!!」
私立星ノ原高等学校の校門でとある男子生徒が叫んでいる。前髪をセンターで分け、ブロンドの髪をし耳にピアスをつけている彼の名は橋田陽生。
「はーるーい!あんまはしゃぐんじゃねーようるせぇな…。」
そう冷静に陽生をあやす彼の名は、園宮英志。陽生の幼なじみだ。黒髪で黒縁メガネをかけたごく普通の外見だが、名前の通り家柄もよくとても勉強ができる。そして口が悪い。
「別にいいじゃんかよぉ。春は出会いの季節!俺は気合い入ってんだよ!」
「そーかそーか。なら、悪目立ちして出会いの機会が無くならないといいな。」
「は!?えいじ言ってくれちゃうじゃんかよォ。」
2人はいつものように会話をしながら、自分のクラスを確認する。
「俺A組だ。英志は?」
「C組。」
「げっまじかよォ。クラス離れちまったな。」
「そうだな。俺はこんなうるさいヤツとクラスが離れて嬉しいけどな。お前は寂しいのか?」
「はぁー!?別に寂しくなんかないですけど!?ふんだ。」
陽生は怒ってクラスへ向かってしまおうとする。すると、
「陽生、お互い高校生活楽しもうな。」
陽生の顔はムスッとした顔からキラキラとした顔へと変わり元気よく頷いた。
入学式は無事終わり、それぞれの教室につく。
「A組の生徒の皆さん。こんにちは。私がこのクラスの担任の水野です。1年間よろしくお願いします。」
クラス内で拍手が起こる。その時、教室の後ろのドアがガラガラガラと音を立てて開いた。そこには紺色のショートヘアの髪に赤い光を灯した美しい少女がいた。
「すみません。遅れました。」
感情もなにもこもってない一言を放ち、彼女は陽生の隣の席についた。
「おい……。あの子可愛すぎんか!?」
「あの子の髪の毛サラサラ〜!!」
彼女の美貌で教室内がガヤついた。しかし陽生は彼女の外見よりも中身に着目していた。彼女の瞳には何も写っておらず、中には何も"ない"のだ…。
放課後、陽生はこの学校の部活全てを仮入部し、体験していたため気づいた頃には夕方になっていた。
『疲れた…。英志はどうせ先に帰ってるし、俺もひとりでとぼとぼ帰るか…。』
そう思っていたその時、自分クラスの教室に人影が見えた。
『1年でこんな時間まで残ってる奴が俺以外にいたのか。』
そう思い教室に入ると、そこには窓から吹く風をあび、イヤホンで音楽を聴く例の美しい少女が座っていた。
「…あ。今日遅刻してきた人だ。」
陽生がそう声をかけるが返答は無い。陽生は彼女の肩を叩いた。すると、こちらを振り向いてきた。だが彼女の瞳にはまた何も写っていない。ずっと見つめていると吸い込まれそうなほどの深紅の瞳。
「俺、隣の席の橋田陽生。君の名前は?」
「…千智。」
彼女は陽生を見つめながら下の名前を名乗った。
「えぇっと。ちさとちゃん?なんでこんな時間まで音楽を聴いてんだ?」
「別に。」
塩対応である。だがこのような対応でめげる陽生ではない。
「そっか…。もしかして音楽を聞けば自分が変わるかもって思ってるのか?」
陽生は直感で感じたことを伝えた。彼女の中身は空っぽだ。なんの感情もない。だから音楽でその穴を埋めようとしているとでは無いだろうか。千智は目を少し大きくさせ言った。
「そうだよ。私には何も感じられない。幼い頃から笑ったことも泣いたこともない。だからただこうして音楽を聴いているの。ただそれだけ。」
淡々と話す彼女の声はとても無機質だった。陽生はこれを聞き驚いた素振りも見せずに言った。
「だったら。俺が笑わせてやるよ。」
「…え?」
「俺が!笑わせてやるって言ってんだよ。」
「なんで?」
「俺は幼い頃からよく破天荒でヤンチャなやつだって言われてきた。でも俺は友達を、誰かを笑わせることが昔から好きだったんだ。だからお前を俺が笑顔にさせてやる!」
陽生は千智を指さしながら自信満々にそう言った。千智はしばらく陽生を見つめると、
「勝手にすれば。」
「勝手にしていいのか!?やったー!これからよろしくな!千智…ちゃん。」
こうして陽生の高校生活は始まりを迎えた。