71・どうやら話し合いが必要なようです
「案外やりますね、マカダミア親子」
「そうだな、流石は副大司祭と言った所か」
アッシュ君の影縛で縛り上げて終わりだと思っていたんだけど、レートの風魔法で防がれてしまった。白とシェイロンは最終手段として定位置に入ってもらっている。出来れば自分達の手で始末を着けたい。
「ここは騎士科らしく、私は剣で戦おうと思っている。マリアには後方から援護を頼めるか?」
「うん、任せて!身体強化魔法と自然治癒魔法をかけておくね」
「ありがとうマリア、では害虫駆除の時間だナッツ先輩」
「くっ、わ、私の名前はナッツェだ!ナッツでは無い!私は聖女様の為にこの身を捧げようと…」
「黙れ!私のマリアに触れようとした罪、万死に値する」
えっ、キュンッ。
私のマリアだって…
「聖女様、わたくしどもは貴女の為に良かれと思って今回の計画なぞを立てました。貴女は本来この【最初の聖女】を召喚した純ゴッデス教会なぞで過ごされるのが一番なのなぞです。ここで、女神メーティス様に祈りなぞを捧げ、歴史なぞについて学び………」
『そんな事メーティス様は望まれていない』
『お母様に自由を』
突然頭の中に声が聞こえ、動揺するマカダミア親子。
姿を現さないのに、声だけが聞こえるって地味に怖い…
「これが聖獣様のお声か…」と神妙な面持ちだけど、攻撃態勢を崩さないって事は降参はしないってことだよね。
「行くぞ」
アッシュ君は勢い良くナッツへと駆け出した。身体強化に加え、風魔法で追風も加えているからナッツの剣と剣がぶつかり合う音は凄まじかった。
ナッツも流石騎士科生で、アッシュ君の攻撃を受け流しつつ、魔法で牽制している。
私はレート達を逃さないように部屋に防護魔法をかけ、2人の行く末を見守っている。レートも防護魔法に阻まれ、逃げる事を諦めたようで息子を見守っている。初代聖女様を崇拝しているらしく、私には攻撃してこないようだ。
確かに向こうから危害を加えられたのは誘拐の時だけだったような…
それにしても防護魔法は有能な魔法だ。これまでほとんどこの魔法だけでやり過ごしているような気がする…
「闇沼」
ナッツの右足がスボッと床に沈み、その衝撃で態勢を崩すとすかさずアッシュ君がとどめを刺しにいく。
「ぐはっ」
ナッツの溝落にアッシュ君の柄がめり込むとナッツは膝を付きうめき声と共に気絶してしまった。
それを見たレートがアッシュ君とナッツの間に入り込んできた。
「息子だけは…どうか慈悲を…」
土下座しながら一生懸命ナッツを庇うレートがなんだか可哀想になり、アッシュ君の方を見るとアッシュ君も居た堪れないような表情を浮かべていた。
「ねぇ、どうしてエマの弟をあんな所に幽閉したの?」
ここまで子を思う父親ならどうしてエマの弟にあんな仕打ちをしたのか急に気になった。
「エマとはエルマミヤの事ですか?彼女の弟タクトは陽の光が皮膚を傷付けてしまう為、陽の光が及ばない地下で過ごさせて居ただけで幽閉なぞしておりませんよ」
「えっ…」あれっ?私は何処かで勘違いをしていた?
「お恥ずかしい話なぞですが、我々教会の者達なぞでは彼女の弟を治すことは出来ませんでした。日に日に弱りゆくタクトをどうにかエルマミヤが帰る日までは延命させる事だけが彼女に唯一出来る事だったのです」
あれあれっ?
「では、どうして大司教様を監禁して…」
そうだ、レートは自分が大司教になる為に…
「大司教のオルトラン様は心の臓の病気なのです。あの時は顔色がいつもなぞより優れなかった。張り切り過ぎたのでしょうね。だからゆっくりとお休み頂くために部屋に治癒魔法師と共に監禁したのです。あの方には長く大司教なぞを続けて頂かないと」
あれあれあれっ?
「だったら、私の監禁は?ナッツ先輩を差し向けたのは…」
そうだそうだ、無理矢理私とナッツを…
「息子からは聖女様が自分なぞに好意を抱いていると伺ったのですが違いましたか?聖女様の事は息子なぞに全て任せていました。婚約者と息子で心が揺れていると…でしたら自慢の息子ナッツェの方が良いと考えたのです。ですが、実際に婚約者と聖女様が並んでいる所を見て気付いたのです…お互い唯一無二なのなぞだと…その方が初恋の方と言っていた方でしょう?」
「はひっ!?」
まさか、ここでこの話をされるとは…
恐る恐るアッシュ君の方を見ると顔を真っ赤にさせ口元を抑えていたアッシュ君と目があってしまった。その瞬間私の顔も熱を帯び始める。
ど、どうしよう…
パタパタと両手で顔を扇いだりしてみたが一向に覚める気配がない。
「茶でも入れましょう」
レートに促され、ソファーに座る事にした。まだまだ話は続きそうだ…




