66・おやっ?姿が見えないが…
「何っ!?マリア嬢とエマ嬢が帰ってこないだと!」
「サイラス落ちつけ!国王様も来ている。すぐに報告に伺おう」
「ああっ…」
自分の出番が終わったのでマリア嬢を覗き見いやいや応援しに来たら、他の生徒は全員帰ってきているというのに2人だけが今だ帰ってこず、しかも見に行った先生達も2人の姿を発見できずにいるらしい。
「父上お話があります」
「どうしたサイラス?先程からアーノルド嬢の姿が見えんが知らんか?」
「そのことで…」私は父上に教師の話を伝える。
「な、なんじゃと!学長!すぐに学長室を使わせていただく、部屋に防音魔法を発動してくれ」
「は、はい!」
只事ではないと悟った学長は素早く指示を出し、部屋を整える。父上は側近に騎士団長を呼びに行かせ、学長室へと足を運ぶ。
皆が集まり、薬学担当教師から事の説明が始まる。アーノルド男爵令嬢とオルティース子爵令嬢の2名が試験中に姿を晦ましてしまったと言う事だ。探知が得意な先生方が捜索に出たが、見つからず、他の生徒に話を聞くと2人はオーハイ森林の奥地へ向かって行ったのが最後に確認されたらしい。
「どうなっている?門脇されたのか?一体誰が?」
「サイラス、落ち着け、して聖獣様達はどうしている?アーノルド嬢に何かあれば御二方が黙っていないはず…」
「その事に関しては今、レオナルドを向かわせています。彼以外は近寄れませんから」
「いい判断だ、リヒャルド。良い息子を得たなバガスよ」
「恐れ入ります」騎士団長は深々と頭を下げる。その顔は誇らしそうだ。
私も少し冷静にならなくてはな…
コンコンッ
「レオナルドです。入っても宜しいでしょうか?」
「はいれ」
中に入って来たアッシュの手の上には聖獣様がちょこんと可愛らしく座っていた。悔しいがアッシュでないとマリア嬢の支えには慣れないのだと痛感してしまった。
『この件には手を出すな、それが母様の望みだ』
『お母様は仲直りをするのです』
頭に流れ込んでくる声、全く理解できない。どうなっている?アッシュの方を見ると苦笑いと共に説明が始まった。
「マリアはわざと捕まったようです。向かっている先はなんちゃら総本山と言っていたそうなので予測ですが、純ゴッデス教会総本山だと思います。エマ嬢とその婚約者は教会の信者もしくは協力者だと思われます」
「純ゴッデス教会総本山か…再三聖女様に会わせろと手紙を送って来ていたが、遂に強行手段に出おったか…」
「マリアはエマ嬢と話がしたいそうです。だから白とシェイロンに心配するなと言っているようで」
「成る程な、手出しとは何処まで可能なのか、オールティス子爵に尋問も許されないのだろうか?」
『母様の邪魔にならないのなら、別に構わない』
『我等はお母様の元へ行く』
「だ、そうです。私もマリアの元へ向かいます。マリアの事だから心配いらないのは分かりますが私の心が収まりませんので。学長、数日休ませて頂きます」
学長はゆっくりと頷いた。
「では、失礼致します」
アッシュはそう言うと直ぐ様、ドアの向こうへ消えていった。「私も連れて行ってくれ」そう何度言いそうになった事か…だが、言えなかった。私の立場から叶わない事は分かっていたから…
アッシュが羨ましい…
同じ王子の立場でありながら自由に動き回り、自由に好きな者と一緒になれる。
アッシュの生い立ちは父上から聞いた。痛ましく、同情した。しかし、今は妬みや嫉妬を向けている自分がいる。とても惨めな気分だ。
「サイラス、俺達にはここに残ってやらなきゃいけないことがあるだろ?」
肩をポンポン叩きながらリヒャルドは笑いながらそう言った。だが、私には分かる。お前も本当はマリア嬢の元へ向かいたかったのだろう?
「そうだな」
2人で失恋か…
まあ、こいつと一緒なら悪くないか。
スッと先程までの嫌な感情が抜けていったのが分かった。
「では、皆の者、各自やる事はわかっているな?」
父上からの解散の合図で部屋の外へ出ると転がるようにエドワードが走り寄ってきた。
「サイラス様!マリアは?マリアは無事ですか?」
そうか…ここにも居たな仲間が。
なんだか急に面白くなり、不謹慎にも笑ってしまった。
ぽかんっとした顔で私を見るエドワードに「マリア嬢なら大丈夫だよ。アッシュが向かった」と伝えるとエドワードは複雑そうな顔を浮かべ、「なら、安心ですね」と言った。
こいつなりにアッシュの事を認めているのだろう。私はエドワードの肩をポンポンと叩いた。




