58・どうやら王子だったようです
颯爽と現れたアッシュ君は私と皇帝の間に素早く体をねじ込んだ。
「何だ貴様、無礼ではないか?私はナバス帝国の皇帝だぞ?聖王国の貴族風情が私を阻むとは死にたいのか?」
「聖王国の貴族風情ですか… 兄上、私の顔をもうお忘れですか?私は貴方の顔を忘れた事は一度もないと言うのに」
「兄上だと?」
皇帝はアッシュ君の顔を注視すると、明らかに動揺し、肩をわなわなと奮わせる。
そして小さな声で「貴様、生きていたのか」といった。
兄上!?アッシュ君が皇帝の弟と言う事は病死した第2王子って事になる。なんてことだ…
「まあいい、それなら話は早い。そこをどけ、これは国のためだ、貴様もナバス帝国民だろう、邪魔をするな」
「そんな物をマリアに近付けるな、国の為を思うなら引け、国際問題になるぞ。マリア、防護魔法をはれ、こいつを近寄せるな」
アッシュ君が言っている【そんな物】は実は鑑定スキルを使って既に知っている。魅了のネックレス【装着した者を魅了する】って出たんだよね。だけど、私には効かないんだわ。自動状態異常無効魔法を覚えたからね。あの1週間で。だから貰っといてあとで高く売ろうと思っていたんだけどな…
「貴様!どこまでも私の邪魔ばかりしおって、ここで殺してやる!」
皇帝は腰から剣を抜くとアッシュ君の喉仏に突き付ける。
アッシュ君は私を背に庇い、皇帝を睨みつけている。国王が止めに入ろうと騎士達に指示を出しているが帝国の騎士達に阻まれていた。
「死ね、アシュガルド」
皇帝が大きく剣を振り下ろそうとし、何故か剣を落としてしまった。
そして、頭を押さえ、もがき苦しみ出したのだ。防護魔法をはろうとしていた私は何が起きているのか分からない。帝国騎士達も同様に頭を押さえ倒れている。
国王の方を見ると顔を真っ青にして今にも倒れそうだ。聖王国騎士達も数名崩れ落ちている。
「何が起きているの?」
「威圧だ…」
顔色の悪いアッシュ君が苦しそうに呟く。私は慌ててアッシュ君にも状態異常無効魔法をかけると見る見ると顔色が善くなった。
「一体誰が威圧なんか…」
「白だな、頭の中に声がした。『お母様をこれ以上傷付けるな』と威圧は帝国連中に放たれたようだが、あまりにも強力だったのだろう。他の者にも影響が出てしまったようだ。マリアは平気なのか?」
「私は…なんともない。白が私の為に?」
胸元を引っ張って白を確認しようとしたら、ぴょんと外に飛び出してきてしまった。そしてみるみる内に巨大化して…
『人間たちよ、我は女神メーティス様の使いだ。ここにいる私の母をこれ以上侮辱するならば容赦はしない。国ごと滅ぶがいい』
「聖獣様…」
誰がそう呼ぶと、そこにいる私とアッシュ君以外の全ての者が膝をつき、頭を垂れる。
一体何が起きているの?理解が出来ない私はアッシュ君を見る。「白が君を一生懸命守っているよ。流石私達の子供だ」と嬉しそうに顔を綻ばしている。
そっか… 白が…
所で白さん…
どうして私だけ除け者にするのさ!
私にはなんも聞こえなかったし、私も白の勇姿が見たかった!
そんな、褒めてって顔でこちらを見ても褒めてやらないからな?
そんな見つめても… んっー可愛いなおいっ…




