56・おやっ?心の様子が…(アッシュ視点)
私の中に何かがいる…
そう感じたのはいつの事だったか…
そいつは少しつづ私の中に根を張り、侵食していく。嫉妬、憎悪、不安、恐怖、孤独、負の感情が私を支配し、色の無いつまらない世界を全て壊してしまいたい、そう考える時だけが血が心臓が騒ぎ生きている実感を持てた気がした。
命を狙われた時も全てを壊してしまいたかった。感情のまま、破壊し、自分が壊れゆくその時まで…
だが、私を慕い逃してくれた祖母や数人の者達の事を考えるとそれが出来なかった。彼らを傷付けたくなかった。自らの命をかけ、逃した者が本物の悪魔だと…思われたくなかった。
私はやはり、中途半端で弱い人間だった…
聖王国に逃げ、叔父上に救われ、止まっていた歯車が少しつづ動き始めた気がした。
本当の息子の様に接してくれる叔父上。大切な存在が出来たのだと思った。
そして、学園入学式…
恥ずかしいが運命の人に出会った気がした。彼女だけが色付き鮮やかに映ったのだ。
目が離せない、彼女の姿が焼付き気になってしょうがなかった。
外見が好みだったとかそういうものでは無く、彼女の目に見えない何かが私を惹きつけるのだ。
彼女に惹きつけられたのは私だけではなかったようだ。
聖王国の第1王子にして王太子である ウィリアムズ・サイラス。私と違い全てを持っている者。嫉妬…醜いな…
だが、彼女は完璧なサイラスでは無く、私を…特別に思ってくれている…のだと思う。最近の彼女は私に触れ、秘密をうち明け、頼りにしてくれている。それが嬉しくて、ますます彼女が私の特別になってゆく。無くなれば狂うほどに…
彼女の為ならば、なんだって出来る。
愛しているんだ、心の底から。
「君はナバス帝国の第2王子 ロマネスク・ナバス・アシュガルドだな。死んだはずの王子」
王城に呼び出され、叔父上と共に登城すると国王から告げられた言葉に息を呑む。
叔父上の方を見ると叔父上はゆっくりと頷いた。
「はい、そうです」
多分最初から知っていたのだろう。私がこの国に来たその日から…
それを黙って見届けてくれていた国王に心の底から感謝する。
「そちは、ナバス帝国に帰る意志はあるのかね?」
私が今の皇帝である兄を討ち、皇帝になるつもりがあるのか訪ねているのだろう、そんな気はない。あの国には戻りたくはない、祖母は気になるがそれだけに過ぎないのだ。
私が首を大きく横に降ると国王は話を続けた。
「では、兄君と対面は可能かね?」
「表向きでは私は病死とありますが、実際は兄に暗殺された事になっています。兄にはこれまで何度も暗殺されそうになりました。私が生きていると知れば、兄はまた殺しに来るでしょう。そうなると叔父上に迷惑がかかってしまいます。それに国にいる祖母にも…」
「では、それが解決さえすれば、対面は可能かね?」
「何故、私は兄と会わなければならないのですか?」
「アーノルド嬢の為、と言えば分かるか?」
あいつがマリアにちょっかいを出していた事は知っていた。いつかは、この日が来るのではないかと想像はしていたが、思ったより早かったな。だが、マリアが絡んでいるのなら、私の返事は決まっている。
「私は何をしたらよいのでしょうか?」




