54・どうやら状況を理解していないのは私だけのようです
アッシュ君と別れ、女子寮に戻ると私を見つけた寮母さんが勢いよくこちらへ走ってきた。
「アーノルドさん、何処へ行っていたの、無断外泊は駄目よ!ちゃんと許可を取って頂戴。それと行き先も細かく明細するように。いいわね?貴女がいなくなってどれ程大変だったか…」
「でも私、許可は――」
「言い訳は結構よ」とちょっと怒り気味な寮母さんは私の話を聞いてくれない。ちゃんと外泊ノートに名前を書いたはずなんだけどなぁ…
いつもは温厚な寮母さんがここまでピリピリするだなんて、何か嫌な事でもあったのだろう。
寮母さんとの話が済むや否や、いつの間にか待機していた国王の使いとやらに王族専用の馬車に乗せられ、何処かへ連れて行かれる羽目になってしまった。
私寝ていないんだけど…
実は森風の風ダンジョンは昼夜問わず、ずっと明るかった為、日付が変わっていたことに全然気づかなかった。気付いた時にはアッシュ君と一夜を共にした後だった。
今考えてみるとやたら疲れるなぁと思って、その度に回復魔法をかけていたのが良く無かったんだと思う。汚れれば浄化魔法もあるしね。
まあ、元々1人で外泊する予定ではいたけど…まさかダンジョン内で一夜を過ごすとは予想外だったな~
馬車の揺れが心地よくて…なんだか眠くなってきた…このまま寝れたら…幸せ…っと、うとうとし出したら王宮に着いてしまった。
馬車から降りるとそこには蛍のケツが待ち構えていた。鬼の形相で…
何かした私?
「何処へ行っていたんだ!アッシュと2人で一体何処に」
着いて早々この言い草、なんで怒っているのか誰か説明してくれ…
眠気と格闘中のため、蛍のケツの話が全く頭に入ってこない。適当に「はいはい」と返答しておこう。
あぁ、不味いな…王族の前で欠伸は不敬なのに…とっさに口元を隠したが見つかってしまったのだろう、目を見開きこちらを凝視している。
「まさか…… 寝ていない?」
「御名答!」
何で分かったのだろう?
場を和ませるためにちょっとふざけてみたんだけど… 蛍のケツの様子がちょっと変。
「私は負けたのか…もう奴のものになってしまった?嘘だ、私が私が…だけど…私だけ出遅れている…そんな…」
移動中ずっと1人でブツブツ言っている蛍のケツとは距離を置いて歩いて行くと今回は謁見の間に通された。まあ、並んでいるのはいつものメンバーだけどね。
あれっ?でも…えっ?お父様!?
国王の座る玉座に向かう間もお父様が気になってチラチラ見ていたら、前を見ろとジェスチャーで返されてしまった。
「すまんな、また呼び出してしまって。急を要する事でどうしてもアーノルド嬢に聞き取りをしなくてはならなくてな」
「ご機嫌麗しゅうございます、国王様。わたくしに答えられる事ならなんなりと」
「そう言ってもらえると有り難い。では早速本題に入ろう。そなたは隣国ナバス帝国を知っているか?行ったことは?」
「ナバス帝国は知っております。授業で習った程度ですが…行ったことはありません」
「うむ、そうか…聖王国内か…ではあれか…実はな、こんな噂が帝国内で広まっているんだよ、皇帝が真実の愛を見つけた。その相手が聖王国の令嬢だと」
「まあ、おめでとうございます。その相手とは何処で知り合ったのでしょう?」
「とある夜会で運命的な出会いをしたそうだ。ひと目見たその瞬間からお互い惹かれ合ったそうだ」
「1つの物語りの様な素晴らしい出会いだったのでしょうね。なんと羨ましい」
「その皇帝からな、我が国に【嫁に貰いたい者がいるので近々迎えに行く】と連絡が来てのぉ」
「お互い会いたくて仕方がないのでしょうね。何時も離れたくない、それくらい強い絆が生まれたのでしょうね」
「うむ、時にそなたは好いている者はいるのか?」
「な、な、な、ナニヲ…」
「ちと、気になってな。どうやら反応から見るといるようだな。その者はサイラスか?」
「王太子様?まさか!ご心配なく、サイラス殿下とはただの学友ですので恋心なんて微塵もありませんわ」
「…可哀想に…なんとハッキリと言い切ってくれたな」
「?」
「まあよい、では学友のレオナルドはどうだ?」
「な、な、何故わたくしは皆の前でそんな話しを…」
「そなたは分かりやすいな、ちと心配になるぞ?そうか、ならこの噂は隣国の策略か、となると、皆のもの聞いたであろう?この噂は根も葉も無いデタラメだ。よし、作戦会議をする、ついて参れ」
でたよ、置き去り会議宣言。
皆、国王の後について行ってしまった。
蛍のケツ、顔色が悪いが平気か?
あれ?お父様も顔色が…
ぽつんと1人取り残されたお父様に近寄り、声を掛けたが返事が無い。どうしてしまったのだろう?取り敢えず回復魔法をかけてみる。
「お父様?」
肩をビクンッと揺らしたお父様は急に大きな声で叫び出した。
「お前に隣国皇帝より婚約の打診が来ている。私でも解るように詳しく説明してくれー」
「えーーーっ」
静かな謁見の間に2人の声が鳴り響いた…




