47・どうやら恋してしまったようです
休み明け登園する為、女子寮を出た所でアッシュ君に捕まった。
「ちょっと来て」と強引に女子寮の裏庭に連れて行かれ、何が起きてるか分からない私はアンジェリカに言われた「貴女はレオナルドさんが好き」が頭の中に何度も木霊する。
意識してしまえば不思議な事にアッシュ君に掴まれている腕やほのかに香る柑橘系の香水、風になびく髪から覗くキリッとした目元、全てに反応してしまう自分の心臓がアンジェリカの言葉が嘘では無いことを物語っていた。
「君はとんでもなく危険な場所に足を踏み入れた。その事実、わかっているか?」
少し焦ったような声でそう告げてきたアッシュ君の顔がまともに見れない…
女子の憧れ、壁ドン状態なのだが…
この後、どうしたらいいのか分からない。
急な感情の変化に心と体が追いついていないのだ。
初めての恋、初めて人を好きになった、初めての心臓の高鳴り、好きな人が目の前にいる、全てに置いて恋愛経験ゼロな私は顔すらまともに見ることが出来なくなってしまったこの状況をどう打開したらいいのか、いわゆるパニック状態だ。
「マリア聞いてる?」
耳元にかかる微かな吐息、神経が耳に全集中しているかのように敏感に反応してしまう。
意を決して俯いていた顔を上げ、アッシュ君を見る。「マリア?」いつもと違う私にアッシュ君も戸惑っているようだ。
目が合った瞬間、瞬間湯沸器の様に顔が熱くなる。
無理だ…
勢いよく顔を背けてみたが、もうこの態勢に限界を感じた私はアッシュ君の腕をすり抜けて鞄を捨て置き学園へと猛ダッシュした。
「マリア、話はまだ終わってないぞ?――鞄忘れてる。何なんだ今の顔は…くそっ… 可愛いな…はぁ…誰にも見せたくない…いっそ何処かに閉じ込められたら…」
アッシュ君が後ろの方で何か言ってるようだが、今は自分の心臓が最優先だ。
ごめんねアッシュ君。もう少し落ち着いたらちゃんと伝えにいくから…
「―――って事があってね…」
何とか1日の授業を終えた私はエマとアンジェリカと3人でテラスで生まれて初めての恋愛相談をしている。
まさか自分が恋愛相談をする立場になるなんて思いもしなかった。
「やっと自分の気持ちに素直になったのね」
「鈍恋だねぇ」
「鈍恋?何それ?」
「そのままだよ~鈍感な人の恋愛の略称〜」
「 ………」
「気付けただけ偉いわ」
「2人で私の事、馬鹿にしてる?」
「そんなことないわ」「そんなことないよ〜」
「でも2人は両想いなんだから、簡単じゃない?貴女がレオナルドさんに好きですって伝えるだけでしょ?」
「他人事だと思って簡単に言わないでよ!それが言えたら苦労しないつーの」
「あらっ?貴女わたくしの時、簡単にサイラス様と2人きりにしたじゃない?やはり他人事だったからかしら?」
「… ごめんなさい」
そうだった。私、アンジェリカになんてことしてしまったのだろう…恋がこんなに複雑だと知らなくて適当な事しちゃってたんだ…
「いいのよ… あれで、気持ちに区切りをつけることが出来たのだから感謝しているのよ」
そっか…
全ての恋が上手くいく保証なんて何処にも無いんだ…
私のこの恋は…どうなってしまうのだろう…
出来る限りの時間でアンジェリカとエマに話を聞いてもらったら、一応は落ち着けたんだと思う…一応はね…




