46・仮面舞踏会 パート2
「いい男は中々いないわね…」
アンジェリカがグラスを片手に呟く。さっきから引っ切り無しに声を掛けられているのだが、アンジェリカのお眼鏡に適う者はどうやらいないようだ…
私とエマはケーキを食べながらアンジェリカを見守っているだけだ。声を掛けられそうになるとアンジェリカの後ろにスッと隠れ、「この子達に話しかける前にわたくしに話を通していただけるかしら」とアンジェリカが言う。これが一連の流れだ。
「もう帰りましょうか?あの方の姿も見当たらないし、見間違えだったのよ、きっと。良く考えたら貴女の事しか見ていないあの方がこんな所に来るはずありませんわ」
アンジェリカの言葉で顔が熱くなるのを感じた。反射的にそうであってほしいと思ってしまったからだ。
「あそこのテーブルに座って少し休憩をしたら帰りましょう」
「やあ、お嬢さん達。今、暇かい?良かったら私達と踊らない?」
椅子に座ると直ぐに声を掛けられた。
視線を向けると3人組の男性の1人と目が合った。何処と無く、体格も雰囲気もアッシュ君に似ていたので気になって見つめてしまっていた。
「そんなに熱い視線を向けられたら、本気にしてしまうよ?」
そう告げられて、慌てて目線を逸らす。
「どうする?あの方に似ているのはどうやら真ん中の一番高貴な方のようだけど…」
アンジェリカも気付いたようでこそっと耳打ちする。「多分全員かなりの大物よ」なんて言っている。
顔が見たい、何故かそう思ってしまったのだ。
アンジェリカは私の気持ちを汲み取ってくれたようで声を掛けてきた男性の手を取って踊る人々の中に混ざっていった。
「どうする?」
エマに声をかけると「私はいいやぁ~婚約者いるしぃ」とまた、ケーキを食べ始めた。
「君、婚約者が居るの?残念だな〜」ともう1人の男性がエマの隣に腰掛ける。「行ってきていいよ〜」とエマから言われ、男性の方へ振り向くと「一曲お相手願えますか?」と手を差し伸べられた。私は小さく頷くとその手を取る。
ダンスを踊ってみると分かる。
この人はアッシュ君とは全くの別人。
アッシュ君の様な優しさも気遣いもなく、ただ私を試すかの様に踊る…
まるで作業を淡々とこなしているようでつまらない。
だけど、何故か顔が気になって仕方ないのだ。私はこの人の顔を見なくてはいけない、そんな衝動に駆られるのだから自分でも不思議だ。
「そんなに気になる?私の顔」
どうやら私がチラチラ見ていたのが分かったようで、目を細めながらこちらを見ている。
「ええ、気になります」
「見たいか?」
「はい、見たいです」
「君が先に見せてくれたら見せてもいいと言ったら?」
「見せますよ、私の顔」
「決まりだ、こっちへ」
どうやらテラスへ向かっているようだ。
途中、アンジェリカに止められそうになったが目で訴えたら分かってくれたようで頷いてくれた。
「さあ、ここなら誰も来ない。屋敷を照らすライトがあるから顔も見えるだろう?」
そう言って男はテラスの手摺に体を預け、こちらを射抜くように見ている。
私はゆっくりと仮面を外す。
たかが男爵令嬢の顔を見られたって痛くも痒くもないのだから…
男は一瞬目を見張ったが「やはりな…」と呟くと自分の仮面を外した。
「私はロイドだ。君はこの国の聖女だな?」
「私が聖女?まさか!」
何言ってるんだこいつ?
男の顔を観察すると確かに目元や口元はアッシュ君に似ている…と思う。だけど、自信に満ちたこの態度というか存在?がなんか鼻に付く。しかも「自分の事が分かっていない?馬鹿なのか?」とか言ってるのしっかり聞こえてますけどね!!
「もう顔を見たので帰ります」
「おや?どうやら高貴な聖女様はお気に召さなかったようだな。私達は近いうちにまた会う事になるよ、マリア」
去り際にそう言われた。
なんで名前知ってんの?気持ち悪〜。
深く考えないでいよう。
エマとアンジェリカと合流するとそそくさと伯爵家を後にした。
「どうだったの?」
馬車の中でアンジェリカに聞かれ、ロイドとか言う嫌な奴を思い出してしまった。
「アッシュ君とは似ても似つかない全くの別人だね、態度悪いし最悪だった!」
2度と仮面舞踏会には参加しないと心に決めた瞬間だった…




