32・どうやらお決まりの展開のようです
「マリア… 綺麗だ」
「アッシュ君も、いつもと違うね…」
いつもパッとしないアッシュ君が服装と髪型が違うだけでここまで変わるなんて思わなかった。普段隠れている顔がオールバックにしている事でしっかり見えている。兄貴たちよりかっこいいんじゃないか?
イケメンは苦手だが、どうしてだろう…
アッシュ君は他の人とは違う…
やはり目と髪が日本人と同じ黒だから懐かしく思うからか?
会場の女子も顔を赤らめてアッシュ君を見詰めている者がちらほらいる。
ちょっともやっとする、何故だろう?
「踊るか?」
「ううん、先に何か食べたい!無くなる前に食べておかなくっちゃ」
「クスッ そうだな… マリアらしい…」
どうせ自分で選びたいんだろ?っとさり気なくエスコートしてくれるアッシュ君にちょっとだけときめいてしまったのか仕方ないよね?
だって、私の事、、凄く理解してくれてるって思っちゃったんだもん。容姿じゃなく、中身の私を…
「そんなに食べて踊れるか?俺、マリアと踊れる事…凄く楽しみだった… 眠れない程に」
確かに…
お皿の上には肉類がてんこ盛りなっている。
ちょっと盛りすぎたか… でも、戻すのは悪いし、甘いものだって食べたい。なら…
「一緒に食べる?」
「!!?」
そんな赤い顔しないで!私にも移っちゃうじゃない…
肉の皿を持ってくれたアッシュ君。空いた手で次はケーキを数種類盛って、アッシュ君とテーブルへ移動した。
着いて直ぐ、アッシュ君が飲み物を取りに行ってくれて至れり尽くせりだった。幸せ〜
「もうお腹いっぱい!ご馳走様」
「そんなに食べて踊れるか?」
「食後の運動に一曲ご一緒してくださらない?」
「あぁ、勿論だとも!」
ダンスは無事に踊れました。アッシュ君のリードが上手で、あんまり激しいのでは無く、ゆったりと踊ってくれた。本当に優しいなぁ~
「マリア嬢…」
2人で席に戻ろうとしたら、後ろから声を掛けられた。振り向くと、そこには純白のタキシードを来た蛍の姿があった。
「ご機嫌よう、サイラス様。あらっ?パートナーのアンジェリカさんはどちらに?」
「パートナーは居ない、城で業務があるから少しだけ抜けてきたのだ。マリア嬢、私と一曲だけ踊ってくれないだろうか?」
咄嗟にアッシュ君の方を見ると、苦虫を噛み潰したような顔をしたアッシュ君と目があった。
本当に嫌だ… だけど、こんな公の場で王子の申し出を断ってしまったら、お父様達に迷惑が掛かってしまうかもしれない。
ごめんね、アッシュ君…
「ええっ、光栄ですわ」
出された手にそっと手を重ねた。
その手を蛍のケツが強い力で握ってくるから、マジで殴ってやろうと思ったけど、ふと目に入った蛍のケツの顔が泣きそうだったから止めといた。なんでそんな顔でこっちを見るのだ、気まずい…
蛍のケツとのダンスはアッシュ君の時より、曲が長く、ムーディーな感じだったので、顔と身体の密着がとんでもなく気持ち悪かった。それでも、笑顔を絶やさなかった私を誰か褒めて欲しい。ちょっと引きつっちゃったかもだけど…
それとダンスの途中、ちらちら目に入ったのがアンジェリカさん… ハンカチを咥えてこっちを睨んでいた…キィーと言う声が聞こえてきそうな程噛んでたけど、またまた誤解だよ?
もう一曲… とせがんで来る蛍のケツを払い除けて、アッシュ君の元へ戻ろうとした… が、またまたアンジェリカさんに待ち伏せされていた。
「貴女、いい加減にして!好きな方がいると言っていたくせにサイラス様とあんなに密着して!うらやまし…… ごほんっ 穢らわしいですわ!」
「「「そうよ、そうよ、身分を弁えなさいよ」」」
あぁ〜あ、またギャラリーが出来てしまった。しかも、その手に持ってる赤ワイン絶対にかける気でしょ、お決まりの展開だよね…先に透明なバリア張っておこう!
「な、なによ!そんなにワインを見詰めちゃって、そんなに欲しければくれてやるわ、受け取りなさい」
来るっ!!って身構えてたけど全然飛んでこなかった。空中で黒い煙みたいな物の中にすうっと消えていったからだ。
アッシュ君だ!きょろきょろと見渡すと人混みを掻き分けてこっちに向かってくるアッシュ君と目があった。親指を立てて、グッジョブってしたらアッシュ君が笑った。可愛いな、おいっ。
「そこまでだ、アンジェリカ嬢」
人混みに道が出き、堂々と歩いて来る者がいる、蛍のケツだ。その後ろに校門野郎とビビリとオースティン君が居た。
あの人たち居たんだ…
「アンジェリカ嬢、君は誤解をしているようだ。貴女は私の仮の婚約者候補に過ぎない。確かに君が婚約者候補筆頭だと言われているが、それでも仮なのだ。この様な醜い言い掛かりをつける者が国の母に慣れると本当に思っているのか?」
「醜い… わたくしはサイラス様を心からお慕いして…」
「私には無理だ。アーノルド嬢にした数々の嫌がらせ、公爵令嬢のする事とは思えん!」
「わたくしは… 何も…」
「していないと言うのか?マリアのペンを盗んだり、教科書を捨てたりしていたじゃないか!調べはついているんだ」
ペンを盗まれた?確かに無くなったことは合ったけど、落としたと思ってた。しかし、教科書を捨てられた事なんてなかったような…
「それだけじゃないぞ?勝手にアーノルド嬢の部屋に入り、荒らしただろう?」
いつ?全く身に覚えがない!
「まだまだあります!アーノルドさんに人攫いを仕向けました」
あぁ、あれか… 懐かしい。
「誤解です!確かにアーノルドさんに文句は言いましたわ!だけど、それだけです。わたくしは何も知りませんわ」
周りの取り巻き令嬢達の顔が真っ青だから、多分あの子達が勝手にやったんだろうな~
「君は国母に相応しくない!君との婚約は絶対に有り得ない。ここで宣言する。私、ウィリアム・サイラスは全ての婚約を一旦無効にし、新たな婚約者を卒業と共に公表する。その女性は私が心から欲し、愛する女性だ」
「そんな… わたくしは…」
なんだか、アンジェリカさん可哀想… ただ、蛍のこと好きだっただけなのに。
「マリア嬢、大丈夫か?」
「大丈夫だ。マリアは俺のパートナー、俺が責任を持ってエスコートする。だから、その手を退けてくれないか?」
「アッシュ… 彼女は気分が悪そうだ。私が寮まで送る。君はもう戻っていい」
「それはこっちの台詞だ」
なんでこの2人、ピリピリしているんだろう?
もしかして、騎士科のライバルってやつかな?
青春してるんだね、2人共!
それより、私は…
「アンジェリカさん、大丈夫?一緒に外に出ない?」
そう、ずっと気になっていた。泣いてるアンジェリカさん。周りは助ける気は無いし、男共は冷めた目付き、女子は見下した様に見ている。人間って怖いよね… 弱った人を徹底的に落とそうとする。
そっとアンジェリカさんを立たせると2人でテラスに移動した。
後ろで私を呼んでいる2人の声が聞こえたけど、女同士で話させてくれ。
私は振り向かず、手を振った…




