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お化け登場?

 それからお昼休憩も含めて6時間後──


「はぁ、はぁ、ルーナお姉ちゃん、僕疲れちゃった……」

「ナユくん、大丈夫? じゃあ、ちょっと休憩を挟んだら、おうちに帰りましょうか?」

「なんだあ、ナユタ? もうバテちまったのか? しょうがねーなー? じゃ、今日はこの辺で帰るとするか」


「ごめんね、アルトお兄ちゃん?」

「気にすんなって。ナユタはまだ9歳だからな。むしろ、6つも歳が上の俺らにここまでついて来られたことを考えれば、よく頑張ったなって俺は思うぞ!」


「ありがとー、アルトお兄ちゃん♪ はぁ……僕もアルトお兄ちゃん達みたいに強くなりたいなぁ……」

「強くなるには魔物を倒さないといけないからなあ? ナユタがもう少し大きくなって腕力が上がらないと厳しいかもな」

「ナユくんの持ってる刀で魔物がスパスパ斬れたら、ナユくんのレベルが上がって体力も向上するから、もう少し疲れにくくなると思うんだけど、その幻影が出る刀、なまくらみたいに斬れ味が悪いから魔物が倒せないのよネー……。どうしてあんなにも斬れないのかしら?」


「ルーナお姉ちゃんもアルトお兄ちゃんも魔物倒してるのに、僕だけ倒せてないの……ぐすん」


 ナユタの目がうるうると潤み始めたので、ルーナが慌ててフォローに走る。


「ああ、ナユくん泣かないで!? きっとその刀は今封印されてて本当の力が使えないだけなのよ!?」

「本当、ルーナお姉ちゃん!?」


 ナユタがガバッと顔を上げてルーナに期待の眼差しを向けて来たので、ナユタを慰めるために口からでまかせを言ってしまったルーナは視線をキョロキョロと彷徨(さまよ)わせながら適当なことを言ってその場を(しの)ごうとする。


「き、きっとゴブリン百匹分の血を吸わせるとか魔物を百匹斬り殺すとかすれば封印が解けてスパスパ斬れるようになるんじゃないかしら!?」

「その刀が血を吸う妖刀なら、その可能性もあるかもしれないけど、斬れない刀でどうやって魔物を斬り殺すんだよ? ナユタを慰めようとするのはいいけど、もうちょっとマシなこと思い付かなかったのか?」


 ルーナの雑な誤魔化し方に我慢できなかったのか、アルトが呆れた顔でそんな突っ込みをする。


「しょ、しょうがないでしょ!? 思い付かなかったんだから!?」


 アルトの言葉にルーナが顔を真っ赤にして恥ずかしがっていると、ナユタが刀の封印の話はルーナがナユタを慰めるためについた嘘だったと気付いてしまい、再び涙目になってしまう。


「じゃあ、僕の刀スパスパ斬れないの? ぐすん」

「もう!? アルトが余計なこと言うからナユくんがしょんぼりしちゃったじゃない!? どうしてくれるのよ!?」

「えっ、俺のせいかよ!? あーもう、しょうがねーなー? とりあえず、ついさっき倒したゴブリンの所に行ってみようぜ。地面に出来てるゴブリンの血の池に(ひた)せば、ナユタの刀が血を吸う妖刀かどうかぐらいは分かるだろ?」


 そして、3人は道を戻って歩いていき、その後ろを黒猫が追ってった。


「じゃあ、ナユタ。刀をゴブリンの血に(ひた)してみ?」

「う、うん」


 ゴブリンの死体がある場所に戻って来たナユタは幻影刀を地面の上に出来てる血の池に(ひた)してみた。


「あぁ、ナユくんの刀が血塗れに〜!?」

「ルーナが言い出しっぺなんだから文句言うなよな!?」

「なんか全然血を吸わないね? 血を吸う妖刀じゃなかったのかな?」


「そうみたいだな? もし血を吸う妖刀だったらドンドン血の池が小さくなってるだろうし、ルーナの読みは残念ながら外れってことだな」

「じゃあ、明日以降で魔物を百匹斬り殺すほうを試してみましょ! もしかしたら嘘から出た(まこと)で私が言ったことが現実になるかもしれないし!」


「マジかよ!? ってか、それ誰がやるんだよ!?」

「アルトがやるに決まってるでしょ? ナユくんじゃ斬れないんだから」

「アルトお兄ちゃん、僕のために頑張って! 僕応援するから!」

「はぁ、仕方ないのう……。無駄なことはやめるのじゃ」


「だ、誰だ!?」


 洞窟の四方八方から妙齢の女性の声がハモって聞こえて来たので、アルトは周囲を見渡しながら叫んだ。


「だ、誰も周りにいないのに声だけ聞こえるなんて、まさかお化けなの!? いやー!? お化けきらーい!? ナユくん助けてぇ〜!?」

「ル、ルーナお姉ちゃん苦しいよぉ〜!? おっぱいで窒息しちゃうからギューってしないでぇ〜!?」


 怖がるルーナに抱き締められてしまったナユタは大きな胸の中で息を吸おうと顔を動かして必死にもがく。


「くそっ!? 姿を見せろお化け! 八つ当たりしてやるー!」

「誰がお化けじゃ、このエロ河童(ガッパ)め。わらわは血の池に(ひた)されておる刀なのじゃ!」


「誰がエロ河童(ガッパ)だ!? って、えっ? 刀?」

「そうじゃ、刀じゃ」


「じゃあ聞くけどよー、なんで刀の癖に斬れないんだよ? おかしいだろ?」

「わらわは守護の刀じゃ。だから斬れぬ。それだけじゃ」


「それだけって敵を斬れないのに、どうやって身を守るんだよ?」

「……真に窮地に陥った時は勝手に幻影が発動するから問題ないのじゃ」


 刀のふりをしている黒猫は即興で適当に理由をでっち上げた。


「なあ? なんで最初に間があったんだ? それ、今考えた奴じゃないのか?」

「ええい、うるさいのじゃ! 真に窮地に陥った時は勝手に幻影が発動するから問題ないと言っておるじゃろうが! よいか? 故意に窮地の状況を作って発動させてみようなどと考えるでないぞ? そうゆうふざけたことをやりおったら発動してやらぬからな! あと、魔物を百匹斬り殺しても斬れるようにはならんから無駄なことはするでないぞ? よいな? では、ぐったりしておるご主人様を連れてとっとと家に帰るのじゃエロ河童(ガッパ)!」


「だから俺はエロ河童(ガッパ)じゃねえって言ってるだろ!? 俺の名前はアルトだ! おい聞いてるのか!?」


 アルトは血の池に(ひた)されてる刀に向かってそう叫んだが、刀は沈黙したままだった。なぜなら、黒猫は言いたいことを言い終えたため、それ以上の会話をするつもりがなかったからである。


「あー、くそ!? なんなんだよ、もー!」


 アルトはそう悪態をつきながら血の池から刀を拾い上げる。


 それから、刀に何か喋らそうと思って、また、ついでに刀に付いた血を払ってしまおうと思ってブンブンと刀を振り回す。


 すると、ナユタをムギューから解放したルーナが心配そうに声を掛けて来た。


「ア、アルト? お化けにでも取り憑かれちゃったの? 大丈夫?」

「え? ああ、別に取り憑かれてるわけじゃないから心配しないで大丈夫だぞ? 刀を振り回してたら、こいつがまた何か喋るかと思って振り回してるだけだから」

「アルトお兄ちゃん、さっきの声ってその刀さんが喋ってたの?」


「ナユタはさっきの会話聞いてたのか?」

「ルーナお姉ちゃんに抱き着かれる前に知らない女の人の声が聞こえたから、そうなのかなって思っただけで会話は聞いてないよ? アルトお兄ちゃんは刀さんとどんなお話ししたの?」


「こいつが言うには、この刀は守護の刀だから魔物を百匹斬り殺しても斬れるようにはならないんだとさ」

「そうなんだ……」

「ナ、ナユくん元気出して!? アルト、刀さんは他に何か言ってなかったの!? その刀に何かナユくんが喜ぶような凄い力があったりとか!?」


「真に窮地に陥った時は勝手に幻影が発動するとは言ってたけど──」

「じゃあ、ナユくん! わざとピンチにって、そんなのやっぱダメよ!? ナユくんを危険に晒すわけにはいかないわ!?」


 自分で自分に突っ込みを入れるルーナにアルトはうんうんと頷きながら、


「そうそう、刀も──」


 と口を挟もうとしたが、


「ここはやっぱりアルトの出番よね!」


 というルーナの言葉を聞いてズルッとずっこける。


 そして、すぐさま顔を上げて、


「おい!?」


 と突っ込みを入れ、ナユタも、


「ルーナお姉ちゃん、それはアルトお兄ちゃんが可哀想なんじゃ……」


 と口にするが、ルーナは自信満々に大きな胸を張ってこう言った。


「大丈夫よ! だってお姉ちゃんは大聖女なのよ? ≪癒しの光(ヒーリング)≫と≪再生の光(リジェネレーション)≫が使えるんだから、万が一失敗しちゃってもちゃんと癒せるはずだもん!」

「えー……」

「万が一失敗しちゃったらどうするんだ?」


「え?」

「万が一、治癒の魔法が失敗しちゃったらどうするんだ?」


 アルトがズイッと真顔を近付けて尋ねて来るので、


「えっと、その時は〜」


 と言ってルーナは視線を彷徨(さまよ)わせる。


 けれど、アルトが「ジー」とわざとらしく擬態語を口にしながら凝視して来てこの話題から離れようとしないので、ルーナは言い出しっぺは自分だしと思い、折れることにした。


「そ、その時は私が朝から晩まで付きっきりで看病してあげるわよ! それならいいでしょ!?」

「おお、お風呂のお世話もしてくれるのか?」


「ななな!?」


 何を言い出すのよ、アルトはぁあああ!?


 とルーナは思ったが、昔は3人でよく一緒にお風呂に入ってたこと、自分がある時急に一緒に入るのが恥ずかしくなってアルトと一緒に入らなくなってしまったこと、そして、それ以降やっぱり2人だけだと寂しくて一緒にまた入りたいなと思ったけど、今さら「また一緒に入ろ?」だなんて言い出すのは負けを認めたみたいで恥ずかしくて嫌だったため、今までずっと考えないようにしていたのであるが、これはやり直す良い機会かもと思い直し、アルトの提案を受け入れてあげることにした。


「も、もうアルトはしょうがないわね!」

「えっ!? いいの!? マジで!?」


 アルトは刀のふりをしていた黒猫に言われたことをすっかりと忘れて大興奮。


 そんなアルトの反応を見てルーナも照れつつ、ご機嫌になる。


「そそ、そんなに私と一緒にお風呂に入りたいの? そうね? もし、もしもの話よ? もし万が一私の魔法が失敗しちゃって大怪我した両腕が治せなかったら、いい一緒にお風呂に入ってあなたのお風呂のお世話をしてあげてもいいわよ! あくまで私が失敗しちゃったらの話だけどね!」

「ルーナお姉ちゃん、なんかとっても嬉しそう?」


「そそそ、そんなことないわよ!? ナユくん変なこと言わないでー!?」

「まったくご主人様の周りにおる者どもは発情した(やから)しかおらぬのか?」


「きゃー!? 刀が喋ったわー!?」

「でも、声って周りから聞こえて来るよ、ルーナお姉ちゃん? 本当にこの刀さんが喋ってるのかなぁ?」


 ご主人様は幼な子なのに聡いのう。


 黒猫はそんなことを思いながら刀のふりをする。


「わらわは先ほど()うたはずじゃ」

「あっ!? 馬鹿!? しー! しー! 言っちゃ駄目だって!?」

「アルトお兄ちゃん?」

「アルト?」


 アルトが口元に人差し指を立てて沈黙するよう刀に懇願するが、刀のふりをしている黒猫は容赦しなかった。


「『故意に窮地の状況を作って発動させてみようなどと考えるでないぞ? そうゆうふざけたことをやりおったら発動してやらぬからな!』と。なのに、女子(おなご)と風呂に入りたいからそれを黙っておるとは、なんとけしからん奴じゃ。恥を知れ、このたわけが!」

「あー!? 言っちゃったよ!? 言っちゃ駄目だって言ったのにー!?」

「うふふー♪ ねえ、アルトー?」


 怖い笑みを浮かべながらそう尋ねて来るルーナに、


「は、はいなんでしょう!? ルーナ様!?」


 とアルトは背筋を張って直立不動の姿勢を取り、元気よく返事した。


 そんなアルトに対し、ルーナは距離を詰めながら詰問し始める。


「どうしてそんな大事なこと私に教えてくれなかったのかしら?」

「え? いやぁ、言おうと思ったんだけどさ? ルーナが俺を危険な目に遭わせて刀の守護の力を試そうとするから、つい、それを利用すればルーナからご褒美がもらえるかなぁと思っちゃって、あは、あはははは」


 アルトは冷や汗をダラダラ流しながら≪秘技、笑って誤魔化す!≫を発動した。


「もー! アルトの馬鹿ー! せっかくまた一緒にお風呂に入れるようになるかと思ったのにー!」


 けれど、ルーナのアッパーがアルトの(あご)に炸裂し、アルトは地に伸びることになった。


 と言っても、これはやられたふりなのでアルトは気絶していなかったりするのであるが、ルーナの本心を聞いてアルトは失敗したと心の中で泣き、そのままショックで起き上がれずにいた。


 なぜなら、ルーナは(へそ)を曲げるとよほど機嫌が良い時でないと、同じことを提案してもプイとそっぽを向いて却下して来るからであった。それがルーナの求めていた提案であっても恥をかかされた提案であれば尚のこと。


 ああ、欲望に負けてあんなこと言うんじゃなかったとひたすらに後悔するアルトであった。


「ふーんだ! 帰りましょナユくん! あっ、今落ちた刀はちゃんと拾っておいてね!」

「アルトお兄ちゃん置いてちゃっていいの? ルーナお姉ちゃん?」


 ナユタは地面に落ちてる刀を拾い上げながら、ルーナにそう聞いてみた。


「あんな乙女の純情踏み(にじ)る奴のことなんて知らないわ! どうせ(たぬき)寝入りだし!」


 そう言ってルーナがダンジョンと化した洞窟の出入り口目指してスタスタと歩いていってしまうので、親カルガモのあとをついていく(ひな)のように、ナユタもそのあとをトテトテとついていく。


「ちょ!? そんな怒らなくてもいいじゃん!? 待ってくれよルーナ〜!?」


 洞窟の中にアルトの情けない声が木霊(こだま)する。


「まったく、やれやれじゃな……」


 黒猫は軽く溜め息をついてから、ルーナとナユタを追い掛けて走っていくアルトのあとを追い掛けた。

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