大聖女の4つのスキル
「ちょっと出て来ないじゃない!?」
「あっれー? おっかしいなー? ルーナが叩いたから怒って出て来なくなっちゃったんじゃないか?」
「そんなわけ……。黒い板さん、さっきは手で弾き飛ばしてしまってごめんなさい。お願いだから出て来てください」
ルーナが目を瞑って魂の黒板を頭に思い浮かべながら呼んでみると、今度はちゃんと顔の前に魂の黒板が出現した。
「おっ、今度はちゃんと出て来たな!」
「黒の板さん出て来てくれてありがとう! それでスキルを確認すれば良かったのよね? えっと大聖女のスキルは……≪癒しの光≫、≪再生の光≫、≪浄化の光≫、≪聖なる槍≫の4つみたいね」
「へー? 大聖女にも、ちゃんと攻撃魔法ってあるんだな?」
「そうみたいね? でも、この攻撃魔法があれば私もナユくんにカッコいいところを見せてあげることが……」
ルーナは≪聖なる槍≫の魔法を使って魔物を倒すシーンを妄想する。
──ホーリーラーンス!──
──うわぁ〜!? ルーナお姉ちゃんすごーい!? 魔法が当たったら魔物が1発でやられちゃったよ!? ねえルーナお姉ちゃん! 僕、今のカッコいい魔法もっと見たいな! もっといっぱい魔法使って使ってー!──
弟のナユタが自分に抱き着いてそうせがんで来る妄想を思い浮かべてルーナはだらしない顔をする。
「あぁ〜ん♡ 早くナユくんに抱き着かれて魔法を催促されたいよぉ〜♡」
「はいはい、じゃあとっととダンジョンの奥に魔物退治しに行こうぜ!」
「うん! ナユくん、奥に行くからお姉ちゃんの側に来て〜!」
「はーい!」
ナユタは刀を振って幻影を出す遊びに夢中になっていたけれど、ルーナに呼ばれたので遊びを切り上げて、とてとてと笑顔でルーナの方にやって来る。
「はぁ、ナユくんは可愛いなぁ〜♡」
「はぁ、俺もルーナに抱き着きたいのに……」
「何か言ったアルト?」
「なんも言ってないよ。ナユタも来たし、さ、行こうぜ!」
「ルーナお姉ちゃん、ダンジョンの奥に行くの? 危なかったりしない?」
「おじ様が1階層は確認したって言ってたから多分大丈夫よ」
「1階層からヤバい魔物がいたら俺達の村も危ないからな。そこら辺は父ちゃんがちゃんと確認してるはずだから大丈夫だと思うぞ? それに、ここには勇者様と大聖女様がいるんだから心配すんなって!」
「まだレベル1の勇者と大聖女だけどね?」
「ルーナぁ……どうしてそこで下げるようなこと言うんだよぉ……」
ルーナに出鼻をくじかれてアルトがガックリと項垂れる。
けれど、それでルーナが慰めの言葉を口にすることはない。
アルトが調子に乗って失敗して来た回数は1回や2回じゃ済まないので、ルーナはしっかりと釘を刺す。
「油断は禁物だからに決まってるじゃない?」
「いや、まあそうなんだけどさぁ? まー、いっか。じゃあ、しっかりと注意しながら奥に進もうぜ!」
「ナユくん、怖かったらお姉ちゃんにしがみついててくれてもいいからね?」
「だだ、大丈夫だよ! ルーナお姉ちゃんもアルトお兄ちゃんもいるし、ぼぼ、僕全然怖くなんてないもん!」
ナユタが虚勢を張りながらそんな言葉を口にするが、そのちっちゃな体はぶるぶると震えていたので、ルーナはそれを見て『涙目のナユくん可愛いよぉ〜♡』と心の中で悶えながら、ナユタの頭の上に手を置いてなでなでしつつ、こう言った。
「うんうん、ナユくんは勇気のある男の子だもんね♪ じゃあ、お姉ちゃん達と一緒に奥に進もっか♪」
「う、うん!」
ルーナの言葉にナユタがそう返事を返した時、アルトが思い出したように「あっ」と声を上げてナユタにこう言って来た。
「あっ、そうだナユタ。宝箱の中に薬草の束と薬研の模型と麻袋が入ってたから持ってくの忘れるなよ?」
「えっ、あ、うん! 今取って来るねー!」
ナユタが宝箱に向かっていく。
ルーナはそれを見送りながら首を傾げて宝箱の中身について疑問をこぼす。
「薬研の模型なんて宝箱の中に入ってたかしら?」
「ルーナが黒猫しか見てなかっただけだろ? ちゃんと入ってたぞ? でも、薬研の模型なんて何に使うんだろうな?」
「そーねー、あっ、魔力を流したら元の大きさに戻る魔法の道具なんじゃないかしら?」
「あー、あれ魔法の道具だったのか。俺てっきりただの模型かと……って、それヤバくね!?」
「何がヤバいのよ?」
「ナユタのガチャスキルがだよ! 使い魔に、幻影出す武器に、大きさを変えられる魔法の道具まで出ちゃうんだぞ!? 絶対にヤバいだろ!?」
「ヤバいから村のみんなに隠すことにしたんでしょ? 今さら何言ってるのよ? 隠すことが1つ増えただけじゃない?」
「いや、それはそうなんだけど……」
「ルーナお姉ちゃん達、何のお話ししてるの?」
薬草の束と薬研の模型を麻袋に詰めて肩に背負ったナユタが戻って来たので、ルーナは質問に答えつつ聞いてみる。
「ナユくんのガチャスキルは凄いわねって話をしてただけよ? ナユくん、その袋重くない? お姉ちゃんが持ってあげようか?」
「うーうん、全然重くないから大丈夫だよ!」
「ナユタ、薬研の模型って見た目は小さいけど、持ってみたら重かったとかないのか?」
「? とっても軽かったけど、なんでそんなこと聞くのアルトお兄ちゃん?」
「ルーナが薬研の模型が魔法の道具なんじゃないかって言うから見た目は小さいけど重さは普通に重いんじゃないかと思ってな? 軽いなら別にいいんだ」
「えー!? あの模型、魔法の道具だったの!? どうやったら元の大きさに戻るんだろう?」
「お姉ちゃんは魔力を流したら元の大きさに戻るんじゃないかな〜って思ってるけど、1度元の大きさに戻ったらもう小さく出来なくなっちゃうかもしれないから、それを試すのはおうちに帰ってからにしましょ? アルトもその方がいいと思うわよね?」
「俺も元の大きさに戻るところをちょっと見てみたいと思ってたんだけど、そういう可能性があるのか……。なら、しゃーないな。ナユタ、ここで試すのは止めとこうぜ? 重い荷物持って帰りたくないだろ?」
「うん! じゃあ、お楽しみはおうちに帰ってからってことだね! 早くおうちに帰って試してみたいなぁ〜」
「ごめんねー、ナユくん? ここで試させてあげられなくて」
「ルーナお姉ちゃん達は魔法とスキルの試し撃ちがしたいんだよね! 僕もルーナお姉ちゃん達が魔法使ったりスキル使ったりするところ見てみたいから全然大丈夫だよ!」
「ナユタ、お前はホント気遣いが出来て良い子だよな! まだこんなにちっちゃいのに!」
「あぁ〜ん、ナユくんはなんて良い子なのかしら!? お姉ちゃんが頭なでなでしてあげるわね!」
「えへへ〜♪」
ナユタは抱き着いて来たルーナに頭を撫でてもらいご満悦だった。
「じゃ、今度こそダンジョンの奥に出発だー!」
「出発だー!」
「はぁ〜、ナユくんがおてて突き上げてて可愛いよぉ〜♡」
こうして3人はダンジョンの奥へと進んでいった。
「………………」
そして、そんな3人の後ろ姿を息を潜めてジッと見つめている者がいた。
ナユタがガチャで召喚した宝箱の中で眠っていたあの黒猫である。
黒猫は宝箱から飛び出して逃げ出したあと、実はこっそりと戻って来ていて3人の様子を窺っていた。
「にゃあ……」
ダンジョンの奥へと進んでいく3人の後ろ姿を見て黒猫は溜め息をつくと、3人に気取られないよう岩の後ろに隠れたり石筍や石柱などの物陰に隠れたりしながら、そのあとを追い掛けていく。
黒猫にとってナユタは守るべきご主人様。
できれば首根っこを掴んでダンジョンの外に連れていきたい黒猫であったが、そんなことをしたらご主人様の家族らしき人物2人と敵対関係になってしまう恐れがある。
それゆえ、黒猫は渋々3人に付かず離れずついていくしかなかったのであった。