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宝箱に入ってた刀のスキルと勇者の3つのスキル

「もー! 猫ちゃん戻って来ないじゃない! アルトの馬鹿ー!」


 ルーナが『騙されたー!』と怒ってアルトのことをポカポカ叩き出す。


「だー!? 元はと言えばルーナが大声出したから逃げちゃったんだろ!? 俺のせいにするのはやめろって!?」

「はぁ、やっぱり呼んでも戻って来ないや……。でも、ルーナお姉ちゃんはアルトお兄ちゃんにしか怒ってないみたいだし、このままこっそり避難しようっと」


 ナユタは忍び足で2人から離れていく。


 そこで、ふと手に持っている宝箱に入っていた刀のことが気になったので、ナユタは鞘から刀を抜いてみた。


「この刀って振ったらなんか必殺技とか出るのかな?」


 ナユタは抜き身の刀を「えぃ」と振ってみた。


「うわぁ!? すごーい! 刀振ったら、ちょうちょさんがいっぱい出て来たよ〜!」

「おっ!? なんだなんだ!? 必殺技でも出たのか!?」

「うわぁ〜♪ 炎のちょうちょさんがいっぱいヒラヒラ飛んでるよぉ〜♪ 赤く透き通っててとっても綺麗だね〜♪」


 怒ってたはずのルーナが幻想的な光景に見惚れて暴れるのをやめてくれたので、ナユタはちょうちょさん達に感謝した。


「あっ、ルーナお姉ちゃんの機嫌が直ってる。ちょうちょさん達ありがとう! でも、この炎のちょうちょさん達って全然熱くないや。なんでだろう?」

「ナユタ、炎のちょうちょ達の中に手を突っ込んで熱くないのか?」


「うん、熱くないよ。アルトお兄ちゃんも手ぇ突っ込んでみる?」

「本当だ。全然熱くない……。いっぱい滞空してるこのちょうちょ達が見た目通り火で出来てるなら、ナユタが空振りしちゃった時に間合いを詰めて来ようとする魔物に牽制ができて良いと思ったんだけど、これ、何の役に立つんだ? 魔物の注意を引き付ける用か?」

「ねぇ、アルト? その幻想的な赤い光を放ってるちょうちょさん達が(さわ)れなくて熱くもない幻みたいな存在なら、ナユくんの≪ガチャをする者≫って称号を誤魔化すのに使えるんじゃないかしら?」


 ルーナがアルトにそう声を掛け、ナユタが魔王討伐に徴兵されないようにするための内緒話を開始する。


「誤魔化すってどうやって誤魔化すんだよ、ルーナ?」

「誤魔化すのなんて簡単じゃない? ナユくんがスライムを倒して手に入れた称号は≪幻影使い≫だったことにしちゃえば良いのよ。刀を振れば触れないちょうちょさん達がいっぱい出て来るんだから」


「ルーナ、お前あったま良いな! でも、≪幻影使い≫なんて称号あるのか?」

「そんなの知らないけど、≪ガチャをする者≫なんて称号があるんだから言った者勝ちで良いと思わない?」


「それもそうだな! じゃあ、あとはナユタに村のみんなに聞かれたら、スライム倒したら≪幻影使い≫の称号もらったって言うように言っておけばって、おいおいマジかよナユタ!? なんでちょうちょの色が変わってるんだ!?」


 アルトがナユタに言い聞かせようと思って顔を向けたら、ナユタが刀を振った時に出て来たちょうちょ達の色が赤じゃなかったので驚きの声を上げた。


「あっ、アルトお兄ちゃんもルーナお姉ちゃんも見て見てー! ほら! 刀を振るたんびに違う色のちょうちょさん達がいっぱい出て来るんだよぉ〜♪」

「ナユくんがすっごくはしゃいでる!? なんて可愛いのかな!?」


 ルーナは楽しそうに刀を振ってはしゃぐナユタの姿にキュンとなって身悶えた。


「あれ見て出て来る言葉がそれかよ!? ほんと、ルーナの弟好きは極まってるな!?」

「色とりどりの幻想的なちょうちょさん達と(たわむ)れてるナユくんなんて最高じゃない!? アルトはあれを見てなんとも思わないの!? あんなに可愛いのに!」


 自分を見て呆れてるアルトにルーナが力説しながらそう反論すると、


「まあ可愛いのは同意するけどな?」


 とアルトから同意を得られたので、ルーナは、


「でしょ!?」


 と言ってアルトの不敬を許したあと、再び視線をナユタに戻し、


「はぁ〜♡ なんて可愛いのかしら……」


 とうっとりする。


 両親を野盗に殺されてしまったルーナにとってナユタはたった1人残された血の繋がった大事な家族ということもあって、その溺愛ぶりは凄かった。


 ナユタが何をしても可愛く見えてしまうらしく、ルーナがいつもナユタに見惚れているので、ルーナが大好きなアルトはいつもナユタのことが羨ましくて仕方がなかった。


 けれど、ナユタに見惚れて身悶えてるルーナの可愛い姿を側で(ほう)けて見ていられるのもナユタのおかげなので、アルトがナユタを嫌ったりするようなことはなく、むしろ、しっかりと面倒を見てあげることでルーナの好感度稼ぎが出来るので、アルトはルーナと一緒になって甲斐甲斐しくナユタに世話を焼いていた。


 そのおかげもあって、アルトはナユタにアルトお兄ちゃんと(なつ)かれ、ルーナにも弟のことを可愛がってくれる大好きな幼馴染と思ってもらえているのである。まだ大好きと告白されてはいないけれど……。


 それはさておき、ナユタが上段に構えた刀を真下に振り下ろすと先程とは違った変化が発生した。


「あっ、上から、えいって刀を振り下ろしたら、洞窟の天井から水色のなんか角が生えた巨大な蛇みたいなのが落ちて来たよ!? ルーナお姉ちゃん達、今の見た!?」

「な、なんだ今の!? 水の、龍?」

「ナユくん今の何!? 今の何!? もっかいやって!」


 ルーナがそうせがんで来たので、ナユタはもう1回刀を頭上に振りかぶって「えいっ!」と振り下ろしてみた。


 けれど、今度出て来たのは水の龍の幻影ではなく、紫色のちょうちょさん達の群れだった。


「あれー? おんなじ振り方したのに、なんでちょうちょさん?」

「出て来る幻影はランダムなのかしら? おんなじ振り方をしたら同じ幻影が出てくれると良いのにね!」

「でも、刀を振るたびにああやって色とりどりの幻想的な幻影が出て来るなら、ナユタが≪幻影使い≫の称号を手に入れたって村のみんなに嘘ついても簡単に信じてもらえそうだよな!」


「でしょう? これでナユくんの王都行きは絶対阻止できるわよね!」

「ああ! 阻止できると思うぜ! はぁ〜、なんか肩の荷が降りた気分だぜ……」


 そう言ってアルトは洞窟の地面に座り込み、魂の黒板(ステータスボード)を探し始める。


「あれ? さっきの黒い板どこ行ったんだ? おーい、黒い板! もう1回出て来てくれよー?」


 アルトがそう周囲に呼び掛けると再びアルトの眼前に魂の黒板(ステータスボード)が出現した。


「おっ、出た出た。勇者には何のスキルがあるのかなっと。ふむふむ。≪神魔覆滅剣≫と≪身体強化≫と≪回転斬り≫か。身体強化は普通に腕力とか脚力なんかが強くなるやつで回転斬りは狩りで父ちゃんが──」

「おじ様がよく使ってるやつだよね! ジャンプ力がなくても、そのスキル使う時だけジャンプ力が上がって、魔物に向かってジャンプすると回転しながら魔物の体を切っちゃうやつ! 良かったわねアルト! 『俺もそのスキル使えたらなぁ〜』って、おじ様にしょっちゅう愚痴こぼしてたでしょ?」


「だって、あれかっこいいじゃん? でも、≪回転斬り≫が俺も使えるようになるのかぁ……。くぅ〜〜〜、やったぜ!」

「良かったわね♪」


 嬉しそうにガッツポーズを取るアルトにルーナが改めて祝福の言葉を掛けながら微笑むと、アルトも、


「ああ!」


 と言って破顔した。


 そんなアルトに向かってルーナが残りのスキルについて質問する。


「それであともう1個の神魔……何だっけ?」

「≪神魔覆滅剣(しんまふくめつけん)≫だな。多分これが勇者の固有スキルになるんだと思うけど、詳しい説明はスキル名を指でずっと触ってればって、なんだよ。ちょっと触っただけで詳しい説明でるじゃん!」


「説明、なんて書いてあるの?」

「ちょっと待ってろよ……。えっと何々? 剣に勇者の魔力を込めると剣が神魔覆滅(しんまふくめつ)の力を纏って魔物の体を一刀両断できるようになる? へ〜すげーな?……ん? おいおいマジかよ!? 込めた魔力の量によっては魔王だけじゃなくて神様の体もぶった切れちまうのかよ!? やべーじゃん、このスキル!?」


 魔王だけでなく神の体さえも斬り裂いて消滅させることが出来るという文面を読んでアルトはそのヤバさに(おのの)き、それを聞いていたルーナも激しく動揺する。


「き、きっと悪い神様用なんじゃないかしら? でも、そのスキル使えばちゃんと魔王も倒せるみたいだし、良かったじゃない?」

「ま、まあそうなんだけど、でも今の俺の魔力量じゃ絶対魔王の体なんてぶった切れないと思うぞ?」


「そんなの当たり前でしょ? まだ勇者レベル1なんだから」

「それもそうだな。レベル1だもんな」


「これからいっぱい魔物倒してレベルを上げて魔力量を増やしていきましょ? 私も一緒に頑張るから!」

「おう! 一緒に頑張ろうな!」


 ルーナが握った両手を大きな胸の前へと運んで頑張るポーズを取りながら笑顔で励ましの言葉を掛けて来てくれたので、アルトも笑顔で言葉を返し、右手の拳をギュッと握って頑張るポーズを取りながら頑張る宣言をした。


「ちなみにルーナのはどんなスキルだったんだ?」

「大聖女の称号見てびっくりして手で板を弾き飛ばしちゃったから知らないわ。そのあとはナユくんのスキルでみんなして大騒ぎしてたし?」


「じゃあ、『黒い板でろー!』って言って、もっかい黒い板出して見てみろよ」

「黒い板でろー!」


「「…………」」


 魂の黒板(ステータスボード)は出て来なかった。

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