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報仇雪恨②〜愛別離苦〜

 ──神に叛逆する地上の愚か者どもを吹き飛ばせ。流星雨(メテオレイン)──


 幻想的な夜空に炎を纏った巨岩が数えきれないほど出現し、次々とホワイトパール伯爵領とスファレライト公爵領の連合軍目掛けて斜めに落下していった。


「あのクソ王子、あんな魔法使えたのかよ!?」

「みんな逃げてー!」

「ルーナ、これは過去の記憶が映し出されておるだけじゃから叫んでも無駄じゃ。悲しいことじゃがな……」


 ──くっ!? 王家の者達がカイザーにやりたい放題させていたのはカイザーがこの力を持っていたからか!──

 ──お、お養父(とう)様! お養母(かあ)様!──


 ハミュエルの侍女メアリーはホワイトパール伯爵家夫妻に急ぎ目で指示を仰ぐ。


 すると、オスカーとグリシーヌが『2人のことを頼んだぞ/頼みましたよ』と目で訴え、笑みを浮かべながらメアリーに頷いたので、メアリーは、


 ──ごめんなさいお養父(とう)様、お養母(かあ)様!──


 と涙を振り切って断腸の思いで愛する育ての両親に背を向け、側にいたペチュニアとハミュエルに両手を広げて抱き着いた。


 ──何をするのメアリー!?──

 ──待ってメアリー!? オスカー様達も──


 メアリーは2人の抗議と制止の声に耳を貸さず、即座に転移した。


 ──さらばだ我が娘達よ、さらばだハミュエル君……──

 ──まさか一矢報いることさえできないなんてね。さようなら私の愛しい子ども達……──


 そう言ってホワイトパール伯爵家夫妻は抱き合ったあと、付近にいたホワイトパール伯爵領とスファレライト公爵領の決起した民達と共に、夜空から落ちて来た炎の巨岩の餌食になった。


「ああ!? シャルローナさん達のお父さんとお母さんが!?」

「無念じゃったろうな……」

「俺達には見ていることしかできないなんて、つら過ぎるぜ……」


 ──ひぃいいい!?──

 ──お、お助けぇええ!? ぎゃあ!?──

 ──伯爵様お役に立てず申し訳ありません──

 ──公爵様、仇討てなくてごめんよお──

 ──シャルローナ様、今から私もそちらに……──

 ──何だよこれ!? 何だよこれー!?──

 ──こんなところで! こんなところで! ちくしょー!!!──

 ──どうかペチュニア様が無事に逃げられますように……どうかペチュニア様が無事に逃げられますように……。どうか、あっ──

 ──聞いてない!? 相手がこんな化け物だったなんて聞いてぎゃあああ!?──

 ──公爵領ばんざーい! 伯爵領ばんざーい! 王家の者どもは呪われて死んじまえー! ぎゃあ!?──

 ──ハミュエル様どうか俺達の仇を取ってくだせえ!──

 ──王家の奴らに死を! 俺達からシャルローナ様を奪ったクソ王子カイザーに死の制裁を! 伯爵領ばんざーい! 公爵領ばんざーぎゃああああ!?──


 ある者達は落ちて来た炎の巨岩の下敷きに。


 かろうじて下敷きにはならなくても巨岩が纏う炎に焼かれ、犠牲になる者もいた。


 幸運にも下敷きを免れ、炎にも焼かれなかった者達がいたが、彼らは次なる災厄に巻き込まれて死亡することになる。


 ──散りぢりになったか。ならば、この魔法を使ってやろう。地を這う全ての愚かな生き者達に神の裁きを。審判の(ジャッジメント)万雷(サンダー)──


 そして、地上は炎を纏った巨岩が落ち続けるだけでなく、至る所に絶え間なく雷が落ち続ける地獄と化した。


 ──ふっ、たわいもなかったな。これなら兵士達に戦わせて経験を積ませたほうが良かったのではないか? まったく父上の弱腰にも困ったものよ──


 カイザーが上空から地上を見下ろしながらそんなことを独りごちていると、花火に夢中になっていたはずのラヴァテラが隣にいて、両手で頭を抱えながら顔面蒼白の表情で独り言をぶつぶつと呟き狼狽(うろた)えていた。


 ──う、嘘よ……。こんな展開、私知らない……。夜会で悪役令嬢のシャルローナ様が殺されちゃったら、元婚約者のハミュエル様が悪魔に魂を売ってドラゴンになって王都を火の海に変えちゃうから、カイザー様好みの女を演じて必死に媚売って体まで使って仲良くなったのになんで!? 悪役令嬢のシャルローナ様を北の修道院に送れば、カイザー様と結ばれてハッピーエンドになるはずでしょ!? なのに、なんでこんな、ひ、人が大勢死ぬような展開になってるの!? カイザー様が花火見せてくれたんだからハッピーエンド迎えたはずなのに、なんでよ!? おかしいじゃない!?──


 まるで天変地異でも起きているかのような凄まじい魔法の攻撃によって17万もの人間が大虐殺されている光景を目の当たりにして、桃色髪の男爵令嬢ラヴァテラは激しい混乱に陥った。


「あいつ、何わけのわかんねーこと言ってるんだ?」

「あやつの前世が日本人だったんじゃろうな。昔、異世界にある日本という国から転生して来た者が書いたという本をもらったことがあるのじゃが、その悪役令嬢物の本の内容と言っておることがよく似てるのじゃ。まあ、お主達はとりあえず、あやつが未来予知ができると思っておけば良いのじゃ」

「じゃあ、瑠璃ちゃん。展開がどうのこうの言って狼狽(うろた)えてるのは、未来が複数あって進みたい未来とは違った未来に進んでるから狼狽(うろた)えてるってことでいいのかな?」


「うむ、その解釈で問題ないのじゃ。まあ、自分の言動によって大勢の人間を死に追いやってしまったという激しい後悔と懺悔の気持ちからの狼狽(うろた)えのほうが強いと思うがの」


 ──ほーおぅ? 夜会でシャルローナを殺しておけば、そんな面白い展開が待っていたのか? 俺の可愛いラヴァテラよ、どうしてそんな面白そうなことを黙っていたんだ? 駄目じゃないか?──


 飛行魔法で空に浮いているカイザーは、同じくカイザーが飛行魔法を掛けたことによって空を自由に飛べるようになった桃色髪の転生者ラヴァテラに向かって甘い笑みを浮かべながら微笑んだ。


 けれど、カイザーの面白い展開という言葉を聞いてラヴァテラがブチ切れた。


 ──面白い展開!? ドラゴンが王都を火の海に変えるのが面白い展開!? そんなわけないじゃない!? もしそんな展開になったら私の本当の実家のお菓子屋さんにいる私の弟や妹が死んじゃうのよ!? そうならないようにするために嫌なの我慢してあんたに抱かれたのに! あんたに媚売ってたのに! なのに、なんで誰もがハッピーエンドになる展開になっていないのよ!?──


「ビッチ女がビッチじゃなかったのじゃ!? 弟妹が死んでしまう未来が来ないようにビッチ女を演じておったとは畏れ入ったのじゃ!?」

「王都を火の海に変えないために頑張ってたんだね……。ちょっと同情しちゃうかも」


 ──シャルローナ様が北の修道院に行けばハミュエル様が侍女のメアリーと協力してシャルローナ様を脱獄させてみんなハッピーになる展開はどこ行っちゃったのよ!?──

 ──ふむ、それは俺が破落戸(ならずもの)達に北の修道院へ向かう王家の紋入りの馬車を襲って、俺の愛する可愛いラヴァテラを毎日いびった(にっく)きシャルローナを殺して魔物の森に捨てて来るよう依頼したことが何故かホワイトパール伯爵家にバレてしまったからだろうな──


 ──な、なんで殺しちゃったのよ!? 私、夜会で殺しちゃうのは可哀想だからやめてって言ったじゃない!? 北の修道院に送るだけで許してあげましょうって言ったじゃない!? 待って? じゃあ私が嘘をついたことで何の罪もないシャルローナ様が破落戸(ならずもの)達に殺されたってこ、と? そんな、そんなことって……──


「なんであのぶりっ子、シャルローナが殺されたこと知らなかったんだ? 新聞の記事になってたんだろ?」

「クソ王子があの女に偽の新聞を渡すなり、周りにいる者達にそのことを話すなと命令するなりしておったんじゃろうな」


 ──ただ殺されたわけじゃないぞ? 破落戸(ならずもの)達に好きに犯してから殺せと命令したからな。もっと悲惨な目に遭ってから殺されたはずだ──


 ──なんでそんな命令出したのよ!? この鬼! 悪魔! 人でなしー!──

 ──必死に媚を売って甘えて来るお前も良かったが、嫌悪の表情で感情を剥き出しにして罵倒して来るお前も実に俺好みだ。さあ、いつものように俺に抱かれろラヴァテラ! 大魔法を使ったせいで気分が(たかぶ)って(たかぶ)って仕方がないのだ! 俺のこの(たかぶ)りをお前の体で鎮めてくれ!──


 ──はっあああ!? 嫌に決まってるでしょ!?──

 ──ああ、分かってるさ! 今回の趣向は嫌がるお前を無理やり犯して楽しむことだからな!──


 ──死ね変態! えっ、嘘!? どうして逃げられないの!? さっきまで自由に飛べたのに!?──

 ──俺が飛行魔法を掛けてやったのを忘れたのか? 俺が制限を掛ければ自由に飛べなくなるのは当然ではないか? さあラヴァテラよ、星が綺麗なこの夜空の下で盛大に愛し合おうではないか!──


 ──ばっかじゃないの!? 愛し合うわけないじゃない!? 私のせいで大勢の人が死んじゃったのよ!? それを防ぐために頑張ってたのにそれが全部無駄に終わっちゃったんだから、もうあんたなんかに抱かれてなんかやらないわ!──

 ──まあ、愛し合うというのは言葉の綾だ。お前はただ全力で嫌がって叫んでいればいい。俺はお前が嫌がるさまを見ながら、いつものようにお前を抱くだけだ──


 ──だから抱かれてなんかやらないって言ってるでしょ!?──


 キュポン、ゴクゴク。


 ──そう言いながら避妊ポーションを飲んでいるではないか? 本当は俺に抱かれるのが好きなんだろう?──

 ──お生憎様(あいにくさま)! これは自害用の猛毒ポーションよ! ごふっ──


 ラヴァテラは苦しそうに胸を押さえながら口から大量に吐血した。


 ──なん、だと?──

 ──ふふ、これで分かったでしょう自意識過剰の王子様? 大体あなた沢山の女抱いてる癖に下手くそ過ぎるのよ。独りよがりだから全然気持ち良くなかったし。じゃあね、カイザー様。お顔だけは綺麗で大好きだったわ──


 ラヴァテラはそう言って目を閉じた。


 そして、薄れゆく意識の中で、


『シャルローナ様ごめんなさい。北の修道院に行けば、あなたが愛してたハミュエル様が助けに来てくれて、そのあと逃げた先の隣国で産むことになる双子の女の子達に囲まれて幸せな暮らしができると思ったんです。謝って許されることじゃないのは分かってます。だから来世で会えたら償わせてください。メイドでも奴隷でもなんでもしますから……。お母さん、ルーク、リーチェ、ごめんね。お姉ちゃん失敗しちゃった……。元気で、ね……』


 と懺悔(ざんげ)したあと、そのまま息を引き取った。


 ──興醒(きょうざ)めだ。たかが有象無象(うぞうむぞう)が死んだくらいで自害するとは……。チッ、この俺があんなにも心を砕いてやっていたというのになぜ死んだのだラヴァテラよ……──


 カイザーは、目を瞑って永眠したラヴァテラを見つめながらしばらく放心したあと、持ち帰って蘇生できないか試みるため、ラヴァテラの死体を収納魔法で収納した。

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