ダンジョン攻略⑤〜ナユタとルーナとアルトとお風呂〜
「むっ、戻って来たようじゃな」
ルーナとアルトが近くまで戻って来ていることを感知した黒猫の瑠璃がそう告げたので、ナユタは歓喜の声を上げた。
「瑠璃ちゃん本当!?」
「うむ、本当じゃ。では、わらわに話し掛けてもよいが、わらわは『にゃ』と『にゃーにゃ』しか喋らぬからな?」
「『はい』なら『にゃ』で『いいえ』なら『にゃーにゃ』だったよね? うん、大丈夫だよ! それで『はい、いいえ』で答えられないことを聞きたい時は刀に聞くふりをすれば良いんだよね?」
「うむ、それでよろしく頼むのじゃ!」
「はーい♪」
瑠璃とナユタがそんなやり取りをしているとダンジョンの奥からルーナとアルトが姿を現した。
ちなみに、瑠璃が倒した3匹の狼達は、倒すと初回だけ称号とスキルをくれる最弱のスライム達が綺麗に平らげてくれたので証拠隠滅はバッチリである。
「ナ〜ユく〜ん! お姉ちゃんが帰って来たわよぉ〜!」
「ルーナお姉ちゃんお帰りなさーい♪」
ナユタはルーナの元に走り寄って抱き着いた。
今までにこんなにもルーナと長時間離れていたことはなかったので、実はルーナが側にいなくて寂しくて寂しくて仕方がなかったのである。
「きゃああああ♡ ナユくんが!? ナユくんから抱き着いて来てくれたわ!?」
「えへへ〜♪ ルーナお姉ちゃんだぁ〜♪」
抱き着いてスリスリと甘えて来る普段とはまったく様子の違うナユタにルーナの心は打ち震えた。
「ナユくんと離ればなれになってとっても辛かったけど、その代償を払ったご褒美がこれなら毎日なんとか頑張れるかも!?」
「道中、ナユくんがいない、ナユくん成分が足りない、ナユくんがいないと死んじゃうってずーっとブツブツ言ってたもんな? こんなご褒美があれば明日からはもっと普通に戦えるよなルーナ?」
「ええ、こんなご褒美が待ってるなら、多分だけど頑張れると思うわ!」
ルーナはにこやかにそう言った。
その笑顔を見てアルトは『頼むから本当であってくれよ?』と心の中で神に祈った。
なぜなら、今日はせっかく2人っきりでダンジョンデートが出来ると思ったのにルーナのテンションが低過ぎて楽しい会話がまったくできず、ただ黙々と魔物を倒すだけになってしまったからである。
もちろん、本来の目的は魔物の解放日がやって来ても大丈夫なようにダンジョン内の魔物を一掃することなので今日のように黙々と魔物を倒していくことこそが正解なのであるが、戦いを通してルーナと絆を深めてもっと仲良くなりたい、カッコよく魔物を倒す俺にべた惚れして欲しいと思ってるアルトにとって今日のようなキャッキャうふふのない戦いは願い下げだった模様。
お前は勇者なのだから、もっと真面目に戦えと思わないでもないが、ここでそれを言っても詮無いことなので愚痴をこぼすのはやめることにしよう。
「ルーナお姉ちゃん達、怪我とかしなかった?」
ナユタがそう尋ねると、
「アルトの馬鹿が毒蛇に咬まれちゃったくらいかしら? でも、大聖女の初期魔法に≪浄化の光≫があったから大丈夫よ♪」
とルーナがウインクしながら言ってきたので、ナユタは『あれ?』と思って、
「ルーナお姉ちゃん、宝箱から持っていった解毒ポーションは使わなかったの?」
と聞いてみた。
すると、横からアルトが、
「馬鹿だなぁナユタは! 解毒ポーションを俺に使っちゃったら、ルーナが毒蛇に咬まれた時どうにもならなくなっちゃうだろ? だから基本、解毒ポーションはルーナ用に取っておかないといけないんだよ!」
と言って来たので、純粋なナユタは素直に感心してアルトを笑顔で褒め称えた。
「そっか〜。アルトお兄ちゃん、頭いいね♪」
「だろ? ルーナの奴、俺が毒蛇に咬まれたら慌てて解毒ポーション使おうとするから今と同じこと言ってやったんだよ! 俺って偉いと思わないか?」
「何言ってんのよ馬鹿アルト! そもそも私が『蛇がいるわ!』って注意してあげたのに『ただの蛇だろ? こんなの怖くないぜ!』とか言ってカッコつけて手で掴もうとしたら失敗して咬まれたんじゃない!」
最初はアルトの誇りのため黙っておいてあげようと思っていたルーナであったが、最愛の弟ナユタを馬鹿にしたことが許せなくて、アルトが全てを語らず自分に都合の良いことだけしか言わなかったことを盛大に暴露した。
「ちょ、ルーナそれは言わない約束じゃ!?」
と焦るアルトにナユタは白い目を向け、こう言った。
「えぇー? アルトお兄ちゃんカッコわるー……」
「うにゃうにゃ」
ナユタの言葉に瑠璃も、うんうんと頷いた。
「ぐはっ!?」
アルトはナユタに「カッコわるー」と言われて精神に大ダメージを受け、地面に崩れ落ちた。
「はいはい、馬鹿やってないで帰りましょ?」
「うん、帰る帰るー♪」
今日1日で寂しがり屋さんになってしまったナユタは、帰ると聞いて『今日はもうずっとルーナお姉ちゃんと一緒にいられるのー♪』と喜び、ぴょんぴょん飛び跳ねる。
そんな微笑ましいナユタの姿を見てルーナは頬を緩めながらも、こう思った。
こんなにも帰ることを喜んじゃうなんて、猫ちゃんがいてもやっぱり寂しかったのね。ごめんねナユくん、寂しい思いさせちゃって。
そして、こうも思った。
でも、私がいなくて寂しい思いをしていた今なら、いつものあれを言っても普通に笑顔でオッケーがもらえるかも♪
至福の蕩けた笑みを浮かべている自分が心の中にいたが、ルーナはそれを表に出さないように気を付けつつ、言うといつも「もうルーナお姉ちゃんはしょうがないなぁ?」と呆れた顔で言われてしまうセリフをナユタにさりげなく言ってみた。
「ナユくん、おうちに帰ったらすぐ晩御飯にしたいから、お風呂一緒に入っちゃおうね♪」
また呆れた顔されちゃうかな? 普通にいいよって言ってくれるかな?
ルーナはドキドキしながらナユタの返事を待った。
結果は、
「うん、いいよー♪」
と笑顔で即答だった。
ルーナは『やったわ! ナユくんに笑顔でオッケーしてもらえたわ!』と心の中でガッツポーズを取った。
けれど、今までにない笑顔でオッケーしてもらえた勝利の喜びの余韻に浸る間もなくアルトがガバッと顔を上げて、
「なっ!? 俺も一緒に入りたいぞー!?」
と本能のままに叫び出したので、ルーナはフンッと鼻を鳴らして仁王立ちし、
「さっきナユくんを馬鹿にしたから却下ね!」
とアルトを地獄に叩き落とすセリフを口にした。
もう少し勝利の余韻に浸っていたかったのに、このお馬鹿はー!
とルーナは怒っていたのである。
けれど、ルーナのセリフを聞いてもアルトがガクリと崩れ落ちることはなく、むしろそのセリフに希望があったかのように目を輝かせながら、こう聞いてきた。
「えっ、馬鹿にしてなかったら一緒に入らせてくれたのか!?」
と……。
実に自分に都合が良過ぎる解釈であった。
しまったわ!? 馬鹿アルトはエッチだから、そっちに反応しちゃったのね!?
とルーナは若干発言を後悔したが、
一昨日アルトを下僕にすることに成功したし、専属執事みたいに身の回りのお世話(お風呂含む)をやらせる布石を打っておくのも有りかもしれないわね。それを理由にすれば昔みたいにまた3人で一緒にお風呂に入れるようになるし……////
と思い直し、ちょっと恥ずかしかったけど、こう言ってみた。
「そ、そうね! 私の機嫌が良かったら入らせてあげたかもしれないわね! だってアルト、わわわ、私の下僕やってくれるって言ったでしょ? だから私の背中とか腕とか脚を洗わせてみようかなぁ〜? なーんて考えてあげてたんだけど、でもアルトが私のナユくんを馬鹿にして私の機嫌を損ねたから、せっかくの機会が不意になっちゃったわね? お可哀想に♪」
すると、アルトは頭を両手で抱えながら、
「ぐぁああああ!? 俺はなんて馬鹿なことやっちまったんだぁあああ!?」
と絶叫したあと、
「ちっくしょおおおお!!!」
と目から大量の涙を流しながらダンジョンの外に向かって走り去ってしまった。
「あっ、ちょっとアルト!? もー、なんで肝心なところで食い下がってくれないのよ……そこは泣きすがって懇願して来るところでしょ……アルトのばか……」
当てが外れてがっかりしていると、ナユタが声を掛けて来た。
「ルーナお姉ちゃん、アルトお兄ちゃんがなんか可哀想だったよ? 今度一緒に入ってあげたら? 昔は3人で一緒に入ってたよね?」
「そ、そうね? 気が向いたらね?」
ナユタの言葉にそう返したあと、ほてった頬を冷ますように手で扇いで風を送るルーナであった。
翌日ダンジョンに行ったらアルトのやる気が萎え萎えで全然先に進めず、ダンジョンの出口付近に戻って来たら「ナユタはお留守番ができて偉いな!」とか「退屈じゃなかったか?」などと言ってやたらとナユタを褒めたり気遣ったりする行動に出たので、ルーナが一緒にお風呂に入ってあげること(条件付き)を餌にしてアルトにやる気を出させたことを記しておこう。
ちなみに、ルーナから出された条件とご褒美の内容はこうである。
・もし、無傷でダンジョンが制覇できたら目隠し無しでもいいわよ?
・ダンジョンが制覇できても無傷で制覇できなかったら、お風呂には一緒に入ってあげるけど目隠し有りだからね!
これを聞いて思春期真っ只中の男の子アルトが超絶やる気になったのは言うまでもないだろう。リア充爆発しろである。




