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村人達との交流②〜カーヴァーじいさんと木彫りの彫刻と黒猫と〜

「あっ、カーヴァーさん! カーヴァーさん! いつから猫ちゃん飼い始めたんですか!?」


 大きな箱を抱えながら戻って来たカーヴァーじいさんにルーナがそう尋ねると、カーヴァーじいさんは首を傾げ、こう答えた。


「はあ? 儂は猫なんか飼っておらんぞ?」

「えっ、そうなのか? あの黒猫、てっきりカーヴァーじいの飼い猫かと思ったのに」


 アルトがそんな言葉を漏らすと、カーヴァーじいさんは、


「それは儂のセリフだな。ナユタが今なでてる黒猫のことを言っておるんだろうが、その黒猫、お前さん達が来た時、お前さん達のすぐ後ろを歩いておったぞ?」


 と言ってルーナとアルトを驚かせた。


「嘘っ!?」

「マジか!? 全然気付かなかったぞ!?」

「だからてっきりお前さん達が飼い始めた猫だと思っておったんだが、まあ大人しい猫みたいだから別に追い出さなくても構わんがな。ただ、急にその猫が暴れて木彫りの彫刻を壊してしまっても儂ゃあ責任取れんから、そこら辺は自己責任で頼むぞ?」


 カーヴァーじいさんはそんなことを言いながら持って来た大きな箱を床の上に置いて、中に入っていた3つの箱を取り出し、テーブルの上に1つずつ載せていく。


 ナユタは多分大丈夫だと思ったけど、念のため黒猫にお願いをすることにした。


「黒猫ちゃん、木彫りの彫刻見ても爪()いだり、前足でペシッと叩いて遊んだりしないでね?」

「にゃ」


 黒猫はナユタの言葉に首を縦に振って頷いた。


「ほお? まるでナユタの言葉が分かってるような反応だな? なら箱から出しても問題なさそうだな」

「待って待って!? 俺が箱開けていーい!?」

「もう、ほんとアルトってちっちゃな子どもみたいね♪」


「う、うるさいな!? いいだろ!? 楽しみにしてたんだから!?」

「ほれ、お前さんの箱はこっちだ。開けてみるといい」


「どうかカッコいい木彫りでありますように! どうかカッコいい木彫りでありますようにー! えいっ!」


 アルトはテーブルの上に置かれた箱の蓋を持ち上げ、中を見る。


「おお!? おぉおおおおお!!!」

「アルト、箱の中に何の木彫りが入ってたの?」


「よっしゃー! グリフォンの木彫り来たぁあああ!!!」


 アルトは箱からグリフォンの木彫りを取り出して、それを両手で天井に向かって掲げ、歓喜の声を上げた。


「うわぁ、グリフォンだぁ〜!? 本物みたーい! すごーい!」

「うにゃうにゃ」


 ナユタの感嘆と称賛の言葉に黒猫もうんうんと頷いた。


「はっはっは! 気に入ったか! そりゃあ良かっ、あがっ!? こ、腰が……!?」


 激痛が走ったであろう腰を右手で押さえながら、左腕をテーブルの上に置いてそこに崩れ落ちるように寄り掛かるカーヴァーじいさんの姿を見て、ルーナとアルトが慌てて声を掛ける。


「カーヴァーさん大丈夫ですか!?」

「おいカーヴァーじい、大丈夫か!?」

「ルーナお姉ちゃん! ルーナお姉ちゃん! 魔法だよ魔法! カーヴァーさんに魔法使ってあげて!」


「ナユくん、ありがとう! お姉ちゃん、魔法のことすっかり忘れてたわ! カーヴァーさん、ちょっと待っててくださいね! すぐに治してあげますから!」

「お、おう、なんかよく分からんが治せるのなら治してく、あいたたた!?」


 ナユタの的確な指示のおかげで癒しの魔法が使えるようになったことを思い出したルーナは魂の黒板(ステータスボード)を開いて癒しの光(ヒーリング)を発動させるための呪文を確認すると、即座に詠唱し始めた。


「癒しの光よ、かの者の傷を癒し(たま)え、ヒーリング!」


 ルーナが両手を(かざ)しながらそう言うと、カーヴァーじいさんの腰が柔らかいオレンジ色の光に包まれた。


「おおう!? あ、あんなに痛かった腰の痛みが嘘みたいに消えちまったぞ!?」

「腰の痛みにも効くのかちょっと不安だったけど、ちゃんと効いたみたいで良かったです」


「いやあ、たまげたなあ。ありがとうよ、ルーナ。ここんところ腰が痛くて痛くて堪らなかったから助かったわい」

「どういたしまして。でも、今の魔法って昨日使えるようになったばかりでレベルがまだ低いんです。だから完治できてない可能性もあるので、もしまた痛くなったら教えてくださいね? 治しに来ますから」


「悪いなあルーナ。そうしてくれると助かるよ」

「いえいえ、いつも木彫りの彫刻いただいてますから、これぐらいお安いご用です♪」

「良かったな、カーヴァーじい!」

「良かったね、カーヴァーさん!腰の痛みが治って!」


「おう! これで薪割りも余裕だわい!」

「薪割りなら帰る前に俺が大量に割っておいてやるよ! 昨日ダンジョンで身体強化のスキル手に入れたからさ!」


 アルトのその言葉を聞いてカーヴァーじいさんは合点がいったように、こう口にした。


「ああ、ルーナが癒しの魔法を使えるようになったのもダンジョンに行ったからか。お前さん達、危ないことはしておらんだろうな?」

「大丈夫だよカーヴァーさん! アルトお兄ちゃん剣士の称号手に入れてすっごく強くなったから全然危険じゃなかったよ!」


 嘘をついているようには見えない無邪気な笑顔でナユタがそう言って来たので、カーヴァーじいさんは杞憂(きゆう)だったなと思い、破顔する。


「そうかそうか、ならいいんだ。ナユタとルーナはダンジョンで何の称号を手に入れたんだ?」

「僕は幻影使いでルーナお姉ちゃんは治癒師だよ!」


「幻影使い? 聞いたことがない称号だな? どんな幻影が出せるんだ?」

「ちょっと待ってね? 今、刀取って来るのー!」


 そう言ってナユタは部屋の壁に立て掛けておいた刀を取りにいく。


「魔法で出すんじゃないのか?」


 ナユタの後ろ姿を見ながら首を傾げるカーヴァーじいさんに向かってルーナが誤魔化しを開始する。


「え、えっと、称号を手に入れたときに使える魔法を使ったら幻影刀って刀が出て来たんです! それでその刀を振ると幻影が出せるんですよ! レベルが1だから出せる幻影の種類は2つぐらいしかないですけど!」

「ほお? そうなのか? 聞いたことがない称号だから魔法の使い方も変わっとるのかのう?」


「か、かもしれないですね! 私達もまだよく分からないんです! あは、あはははは」


 ルーナが冷や汗を流しながら笑って誤魔化していると、刀を持ったナユタが戻って来た。


「じゃあ、今から幻影出すから見ててねー、カーヴァーさん!」

「おう! 何が出るのか楽しみだわい!」

「ナユタ! 家の中のもん壊さないように気を付けて振れよ?」


「うん! じゃー、いっくよー? えいっ!」


 ナユタは腰に構えた鞘から刀を抜いて右上に切り上げた。


 すると、刀が通った空間に青く透けて光る幻想的な蝶々達が出現した。


「ほお、こいつはなかなか綺麗だな!」

「でしょー♪ 色も変わるんだよ! えいっ!」


「今度は赤か! こいつはなかなか目を楽しませてくれる魔法だな!」

「うん! でもね、綺麗なだけでちょうちょさん達は魔物を攻撃してくれないの……」

「にゃっ!?」

「ああ!? ナユくんが落ち込んじゃったわ!? ナユくん元気だして!? お姉ちゃんが抱き締めてあげるから!?」


 そう言ってルーナはナユタを抱き締め、頭をなでなでしてあげた。


「ニャー……」


 黒猫はごめんなさいと謝っているのか、シュンとなって(うな)垂れた。


「なんだ、この幻影は魔物を攻撃してくれないのか?」

「ナユタのレベルが上がれば攻撃してくれるようになるかもだけど、今のところは魔物の気を引くぐらいかな? でも、ナユタが魔物の標的にされるのはマズいだろ? だから、ダンジョンで幻影出すのは禁止にしようって話をここに来る前にしてたんだけど……」


「それを今思い出しちまったってことか。難儀な話だが、しゃあねえわなあ?」

「そうなんだよ。まったく頭の痛い話だぜ……」


「ほらナユくん、元気出して? あっ、カーヴァーさんの新作まだ見てなかったでしょ? 箱を開けてお姉ちゃんと一緒に中を見てみましょ? ね?」

「うん……」


 ルーナはテーブルの上に置いてある箱の蓋を取ってみた。


「あっ、ナユくん見て見て! すっごく可愛いわよ!」

「あっ!? うさぎさんだー!? 耳が垂れてて可愛いねルーナお姉ちゃん!」


 ルーナは立ち上がった垂れ耳うさぎを、ナユタは四つん這いの姿勢で普通に座っている垂れ耳うさぎを手に取ってテーブルの上に置き、わーきゃー言いながら鑑賞し始める。


 そんな光景を眺めながらアルトが疑問に思ったことをカーヴァーじいさんに質問する。


「なあ、カーヴァーじい? なんであのうさぎ達、耳が垂れてるんだ?」

「最初は普通に耳をピンと立ててるうさぎを彫ってたんだが、腰が急に痛くなって落としちまった時に耳が折れちまったんだよ。だから、落としても何かの拍子に倒れても耳が折れないように垂れ耳にしたってわけだ。この辺には住んでない種類のうさぎだから珍しくて新鮮味もあって丁度いいんじゃねえかと思って彫ってみたが、儂の見立ては間違ってなかったな! 見ろ、あの2人の喜びようを!」


 両腕を組んだカーヴァーじいさんがご機嫌な表情で顔を動かし、ルーナとナユタを見る。


 それに釣られてアルトも顔を向けると、幸せそうなルーナと笑顔になったナユタの姿が目に入った。


「はぁ〜♡ 2匹とも、なんて可愛いのかしら♡」

「僕、垂れ耳うさぎさん見たことないんだけど、木彫りでこれだけ可愛いんだったら本物はもっと可愛いのかな?」


「ええ、本物はもっと可愛いわよ! でも、この木彫りの垂れ耳うさぎも味があって、とっても可愛いわ! なでなでしてもスリスリしても逃げられないし!」

「あー、うん! 良かったねルーナお姉ちゃん! カーヴァーさんが垂れ耳うさぎさん彫ってくれて!」


「ええ! もう最高よ! さすが村1番の木彫り師だわ♪」

「お褒めの言葉ありがとうよ! そいつが儂への最高のご褒美だ!」

「カーヴァーさん、いつも可愛い木彫り彫ってくれてありがとー♪」

「カーヴァーじい、俺のグリフォンもありがとな! めっちゃカッコよくて超気に入ったぜ!」


「おう! 次も良いもん彫ってやるから楽しみにしてろよ!」

「はい、次も楽しみにしてますねカーヴァーさん♪」

「じゃ、俺達はそろそろ帰るな! 薪割りはやっておくから今日はのんびり休んでろよ!」

「またねー、カーヴァーさん!」


「おう、また来てくれや!」


 ナユタ達は木彫りの彫刻をしまった箱を持ってカーヴァーじいさんの家から外に出た。もちろん黒猫も一緒である。


 外に出たナユタ達は荷物を台車に載せてから庭へと移動すると、身体強化のスキルを使ったアルトが玉切り丸太を切り株の上に載せ、斧で楽々と割っていく。


 次々に作られる薪はナユタによって(薪を乾かして保管する)薪棚の前へと運ばれる。


 すると、今度はそれをルーナが薪棚に井桁(いげた)状に積んでいく。


 ちなみに黒猫はその作業を木に登って枝の上に寝そべりながら、のんびりと眺めてた。


 そして、うとうとと眠くなり、過ぎ去りし遠き日々の夢を見始める。

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