村人達との交流①〜カーヴァーじいさんと木彫りの彫刻と黒猫と〜
「おはようございますカーヴァーさん」
「カーヴァーさん、おはよー!」
「元気か、カーヴァーじい! 新しい木彫りが出来たって聞いたから来てやったぞ!」
ルーナとナユタと、ナユタが載っている木製の二輪台車を身体強化のスキルを使って軽々と運んで来たアルトが、切り株に座ってパイプから煙草の煙を燻らせながら薪割り休憩を取っているカーヴァーじいさんに声を掛けた。
「おぉ〜、お前さん達か! おはようさん、よく来たな! ほれ、儂のあとについて来い。新作を見せてやろう」
「はーい! ねえねえカーヴァーさん! 今回は何を彫ったの?」
わくわくした表情でそう尋ねるナユタに向かってカーヴァーじいさんは意地の悪い笑みを浮かべながらこう言った。
「へっ、そいつは見てからのお楽しみだな!」
「えー!?」
「なんだよ? どうせすぐに見せてくれるんだろ? なら今教えてくれたって別にいいじゃん?」
アルトが文句を言うとカーヴァーじいさんは、分かっちゃねえなあ?と言わんばかりの表情を浮かべながら、
「こういうのは事前に情報を知らないほうが見たときに驚きと新鮮さがあって楽しめるもんなんだよ。ほれ、文句を言わず儂について来い」
と言って近くにあったバケツにパイプ煙草を軽く打ちつけて中の煙草をバケツの水にぶち撒けると、座っていた切り株から立ち上がって家の方に向かって歩き始めた。
「ちぇ〜」
「もうアルト? 子どもっぽいわよ? すぐに分かるんだからいいじゃない?」
3人はカーヴァーじいさんのあとを追って歩きながら会話する。
「こないだは木の実を食べてるリスだったけど、今日は何の木彫りだろうねルーナお姉ちゃん!」
「また可愛い木彫りだといいわね!」
「えー? 俺こないだ『ガオー!』って威嚇して来る熊とかグリフォンの木彫りがいいって頼んだんだけど?」
アルトが歩きながら両手を挙げてルーナに威嚇するポーズを取る。
「熊とグリフォンだったらグリフォンのほうがまだマシだけど、グリフォンは無理じゃないかしら?」
「なんでだよ?」
「だって羽根がたくさんあるのよ? 1本1本羽根を彫っていくなんて、すっごく大変そうじゃない?」
「あー、確かに……。じゃあ、熊か!」
「残念だが熊は作ってないぞ。昔作りまくって彫るのはもう飽きちまったからな」
カーヴァーじいさんの無慈悲な回答にアルトが嘆き出す。
「ちくしょー!? 俺のリクエスト全滅じゃねえか!? じゃあ、大角鹿か!?」
「ありゃあ角の部分がすぐにポキッと折れちまうから作ろうとも思わんな。リクエスト出すなら彫りやすそうな生き物にしてくれ」
「彫りやすそうな生き物ってなんだよ!?」
「角が生えてなくて羽根がない生き物……。おっきな亀さんとか?」
「あっ、大きさの違う3匹の亀さん作って3段重ねしたら可愛い置物になりそうね!」
「そいつは名案だな! じゃあ、次は3段亀を彫ってやろう!」
カーヴァーじいさんがナユタとルーナに向かって親指を立てながらその案を採用すると宣言したので、ナユタは諸手を挙げてジャンプしながら全身で喜びを表し、ルーナはカーヴァーじいさんに向かってにっこりと微笑みながらお礼の言葉を口にした。
「わーい♪ 亀さんの木彫りー♪」
「ありがとうございます、カーヴァーさん♪」
「なんの、なんの。亀は彫りやすい造形をしておるからな。気にせんでええよ」
「ちょ、待!? えっ!? えー!?」
アルトはショックを受けてガックリと項垂れた。
「奥の部屋から取って来るから適当に座って待っておれ」
「「はーい♪」」
「はぁ……俺のグリフォン……」
ルーナとナユタは心地よい返事を返しながら、アルトは未練たらたらな言葉を呟きながらテーブルの席に着いてカーヴァーじいさんの戻りを待つ。
「にゃ」
「あっ、猫ちゃんだ!?」
椅子に座っていたら黒猫が膝の上に飛び乗って来たので、ナユタはいきなりの出来事にびっくりしてしまう。
「きゃー♪ 猫ちゃんだわ!? カーヴァーさんが飼い始めたのかしら!?」
「待てルーナ!? 興奮してるお前が近寄ったら昨日みたいにまた逃げられちゃうぞ!?」
ガタンと椅子から立ち上がってナユタの方に向かわんとするルーナに、アルトがそう言って強めに制止の言葉を投げた。
すると、ルーナはビクッとその場で硬直したが、黒猫に触れることを諦めきれないのか、
「うぅう……私の猫ちゃんがぁ……」
と言いながら、そこからは絶対に届かないのにもかかわらず、ナユタの膝の上で丸くなっている黒猫に向かって手を伸ばす。
「黒猫ちゃん? ルーナお姉ちゃんがね、黒猫ちゃんのことをなでなでしたいんだって。1回なでさせてあげたら気が済んで落ち着いてくれるか、も?しれないから、ルーナお姉ちゃんになでなでさせてあげてくれると嬉しいな?」
ナユタが自分の膝の上で丸まってる黒猫の頭や背中を優しく撫でながらそんなお願いをすると、黒猫は嫌そうな表情で、
「ニャー……」
と鳴いた。
「どうしてもだめ?」
ナユタが小首を可愛く傾げながらもう1度お願いしてみると、黒猫は溜め息をつくように、
「ニャー……」
と鳴いたあと、ナユタの膝から飛び降りてルーナの方に向かってテーブルの下を歩いていく。
「ナユくん、ありがとぉ〜〜〜!!!」
「マジかよ!? ナユタ、お前すげえじゃんか!?」
「えへへ〜♪ あっ! でも、ルーナお姉ちゃん? 優しく撫でてあげないとダメだからね? ムギューって抱き締めるのも無しだよ?」
「う、うん! 分かってる! 分かってるから! ああ、猫ちゃんが!? 猫ちゃんが膝の上にぴょんって乗って来てくれたよぉ〜!?」
「ルーナ落ち着けって! 興奮し過ぎると猫が逃げちまうぞ!」
「ルーナお姉ちゃん、優しくだからね! もふりまくっちゃダメだからね!」
ルーナはもふりまくりたい衝動をなんとか自制して、黒猫の気分を害さないように細心の注意を払いながら優しく優しく黒猫の頭や背中を撫でていく。
「そーっと、そーっと……。はぁ〜♡ 猫ちゃんが逃げずに撫でさせてくれるなんて幸せ過ぎるよぉ〜♡」
「にゃ」
「えっ? 顎の下も撫でていいの?」
「にゃ」
黒猫がなんの気まぐれか顔を上げて喉を差し出して来たので、ルーナは感激して顎の下も恐る恐る撫でてみた。
「ごろごろにゃ〜♪」
「ねえナユくん!? アルト!? これって嫌がってる鳴き声じゃないよね!? 喜んでくれてる鳴き声だよね!?」
「さっきの嫌そうに鳴いてた声とは全く違うから喜んでるんじゃないか? 良かったなルーナ!」
「僕も喜んでると思うよ。良かったね、ルーナお姉ちゃん!」
「うん! 猫ちゃん撫でさせてくれてありがとぉ〜♪」
ルーナが最後に頭を撫でながらお礼を言うと、黒猫は『どういたしまして』とでも言っているかのように、
「にゃ」
と鳴いてからルーナの膝から飛び降りて床の上を歩き、ナユタの膝上へと戻って来た。
「黒猫ちゃん、お願い聞いてくれてありがとう♪」
「にゃ〜お」
ナユタがお礼を言うと、黒猫はご褒美を寄越せと言わんばかりに顔をナユタの体にスリスリ擦り付けて来たので、
「僕に撫でて欲しいの?」
とナユタは聞いてみた。
すると、黒猫が、
「にゃ」
と鳴きながら頷いたので、ナユタは黒猫の頭や背中、顎の下をいっぱい撫でてあげた。
「うぅう〜、ナユくんが羨ましいよぉ〜!」
「ルーナはさっき撫でてただろ? 俺なんか1回も撫でてないぞ?」
「アルトも撫でたいの?」
「いや、別に?」
「随分と盛り上がってるようだが何の話で盛り上がってるんだ?」
大きな箱を両手で抱えたカーヴァーじいさんが奥の部屋から戻って来た。




