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帰宅②〜薬研に魔力を流してみたよ!〜

 コンコンコン!


「おーいルーナ〜! もう飯は食い終わったか〜?」

「あっ、アルトだわ!」


 ルーナは玄関へと移動してアルトのために引き戸を開ける。


「よっ、さっきぶり! 薬研(やげん)模型(ミニチュア)にはもう魔力流してみたのか? 思い出して気になったから来ちゃったんだけど?」

「ちょうどこれからよ。さ、中に入って」


 アルトが家の中へと入り、ルーナと一緒にナユタがいる部屋へと移動する。


「おうナユタ! 『さあやるぞ!』って時に中断させちゃったみたいで悪いな!」

「大丈夫だよ、アルトお兄ちゃん! じゃあ、魔力を流してみるね!」


 と言っても魔力の流し方なんて知らないので、ナユタは床の上に置いた薬研(やげん)模型(ミニチュア)に手を(かざ)しながら『元の大きさに戻ってー!』と念じてみた。


 すると、薬研(やげん)模型(ミニチュア)が徐々に大きくなって元の大きさに戻ったので、3人は驚愕した。


「うわっ!? 本当に大きくなった!?」

「すげーな!? 本当に元の大きさに戻ったぞ!?」

「本当に魔法の道具だったのね! びっくりだわ!」


「おい、ナユタ! 今日袋に入れた薬草はどこにあるんだ? 薬研(やげん)のV字型のくぼみに入れて円盤の車軸を掴んでゴリゴリすり潰してみろよ!」

「ちょっと待っててね! 今取って来るからー」


 ナユタは玄関へと移動し、玄関近くの冷えた場所に置いておいた薬草の束を掴むとすぐに部屋に戻った。


「持って来たよ!」

「どれぐらいくぼみに入れればいいんだ?」

「そんなの知らないわよ? でも、宝箱に入ってた薬草が7束あったことを考えると1束でいいんじゃないかしら?」


「じゃあ、1束くぼみに入れてゴリゴリしてみるね!」


 ナユタは薬草を1束V字型のくぼみに入れて円盤の中央を貫いている車軸を両手で掴み、円盤を前後に動かし続ける。


 その様子を横で見てて疑問に思ったアルトが口を開く。


「なあルーナ? なんか薬草が縦に斬れるだけで全然すり潰されてる感じがしないんだけど、やり方ってあれで合ってると思うか?」

「そうよねぇ……あの調子なら包丁でみじん切りにして、それを布で包んで(しぼ)った方が効率良さそうだし……」


 アルトの問いにそう答えていたルーナがあることを思い付いたのか両手をパンと合わせ、こう言った。


「あっ、もしかしたら円盤を斜めにして刃の横の部分と、V字型の受け皿の壁の部分で薬草を挟み込むような感じですり潰すんじゃないかしら?」

「おっ、そっちの方がすり潰せそうじゃん! ナユタ、今の聞いてたか?」

「うん、聞いてたよ!」


「じゃあ、今ルーナが言ったやり方でやってみてくれ」

「はーい!」


 ナユタはまず薬草をV字型の受け皿の右の壁側に寄せてからV字の底に円盤を置いた。


 それから、円盤を斜めにして薬草をV字型の受け皿の壁に押し付けながらゴリゴリと前後に動かしてみる。


 すると、円盤と壁の間で無数の小さい風の刃が飛び交い始めたかのように、それらの間に挟まっていた薬草がみじん切りにされていき、ナユタが円盤を10往復させる頃には受け皿の中にあった薬草が薬草汁へと変わっていた。


「なんか、あっという間に液体になっちゃった」

「凄いわナユくん!? ナユくんは薬草汁作りの天才だったのね♪」

「いやいやいや!? 絶対その魔法の道具のおかげだろ!? 俺だってその道具を使えばあっという間に作れると思うぞ!?」


 ナユタに抱き着いて褒めるルーナの姿を見て嫉妬したアルトがそう叫ぶ。


「もう、アルトはすぐそうやってナユくんに嫉妬するんだから……。はいはい、じゃあ今薬研(やげん)の薬草汁を瓶に入れてあげるから──」

「ルーナお姉ちゃん、はい瓶あげる♪」


「ナユくんありがとう♪ えっ、何この透明で綺麗な瓶!? ナ、ナユくん? これどうしたの? うちにこんな瓶なかったよね?」

「んとねー、なんか薬研(やげん)の横にいつの間にか置いてあったの!」

「ほら、やっぱり魔法の道具が凄いんじゃんか!」


「そ、そうみたいね……。と、とりあえず薬草汁をこの瓶に……」


 ルーナは薬研(やげん)の受け皿が重そうに見えたので男の子の力に頼ることにした。


「アルト、私瓶押さえてるから受け皿の薬草汁を瓶の中に入れてくれる?」

「おう! 力仕事は俺に任せてくれ!」


 アルトはルーナのお願いを快く受け入れ、薬草汁が入った受け皿を持ち上げようとする。


「これ結構重いな?」

「じゃあ、今日手に入れた身体強化のスキル使ったら?」


「おっ、そうだな!」


 ルーナの助言を受けてアルトはスキルを発動した。


「うし! これで余裕余裕! じゃ、入れるぞー」

「うん、お願いね!」


 アルトは、倒れないようルーナが手でしっかりと固定している床上の瓶の中に薬草汁を注いでいく。


「これ、俺みたいに身体強化のスキル持ってなかったら瓶に汁いれるの大変じゃないか?」

「きっと段差がある所で受け皿の端っこだけ持ち上げて傾けるんじゃないかしら? 薬師(くすし)の人が身体強化のスキル持ってるなんて思えないもの」


「だよな? 受け皿がもっと軽かったら、いや、受け皿が軽いと薬草をすり潰してる時に動いちゃうのか。薬師(くすし)の人って大変なんだな」

「ねー。あっ、全部入ったみたいだからもう降ろしていいわよ。助かったわアルト」


「これぐらい大したことないから気にすんな! じゃ、今度は俺の番って、おいおいマジか!? 受け皿に付いてた薬草汁が受け皿に吸収されたみたいに消えて乾いちゃったぞ!?」

「本当だわ!? 全然濡れてない!?」

「ルーナお姉ちゃん、受け皿がなんかさっきより色が綺麗になった気がするよ? 残り汁を吸収して元気になったのかな?」


 ナユタの可愛い発想にルーナは頬を緩ませて「くすくす♪」と笑い、


「そうかもしれないわね♪」


 とにっこりナユタに微笑んで、その意見に同意した。


「にしても、薬()ぎが終わったら瓶を出してくれて、その上、拭き掃除しないでもすぐに別の薬()ぎが出来るとか、ほんと色々とすげえ魔法の道具だな?」

「ほんとよね! ナユくんのガチャスキルの凄さを改めて実感させられたわ!」

「えへへ〜♪」


 ルーナに褒められてナユタは嬉しそうに照れた。


「でもねナユくん、凄いからこそ、みんなには秘密にしておかないとダメよ? この村の人達はみんな良い人達だけど、うっかり口が滑って他の村や他の町の人に喋っちゃって、それが原因で悪い奴らがナユくんを(さら)いに来ちゃうかもしれないから!」

「うん分かったー! 僕みんなに自慢したいけど、頑張って秘密にするね!」


 そんな健気(けなげ)な発言をするナユタが可愛くてという気持ちもあったが、それ以上に申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになってしまったルーナはナユタを優しく抱き締めながら謝罪とお願いの言葉を口にする。


「ごめんね、ナユくん? お姉ちゃんもホントはナユくんのスキルのこと、みんなにすっごく自慢したいんだけど、ナユくんが(さら)われちゃったら嫌だから、お姉ちゃんと一緒に我慢してね?」

「うん! 僕、我慢するー!」

「ナユタはほんと良い子だよな! この村にナユタと同じぐらいの歳の女の子がいれば、めっちゃモテてるはずなのに、なんでこの村には俺達以外、子どもがいないんだろうな?」


 アルトが何気なく口にしたその言葉に、ブラコンのルーナがマジ切れして怒り出す。


「はあ!? いなくていいわよ!? いたら私がナユくんを独り占めできないでしょ!? いても渡さないけど!!」

「いや、いたら渡せよ!? ナユタが可哀想だろ!?(そうしないと俺が困るし!)」


 ちなみに、ここでアルトが憤慨したのはナユタが可哀想だからではない。そういった気持ちも多少はあったが、それは建前で本音はこうである。


 ナユタにガールフレンドが出来れば、ルーナが寂しがるだろ? そこを俺が慰めていい感じになってゆくゆくはゴールインだぜ! あーあ、他の村から子連れの家族が引っ越して来ねえかなぁ〜?


 そんなことを日頃から夢見ていたので、アルトはルーナの言い分に憤慨したのである。


 けれど、ルーナも負けてはいられない。


 愛しの弟を(とんび)()(さら)われてなるものかとナユタに脅しを掛け始める。


「ナユくんはお姉ちゃんがいれば良いよね!? 他の女の子なんていらないよね!?」

「お前は鬼か!? そんなこと言ってるとナユタに嫌われちまうぞ!?」


 アルトが即厳しい突っ込みを入れると、ルーナは両手を頬に当てて絶叫した。


「それはイヤー!? ナユくん! 今のはちょっとした言葉の綾なの! お姉ちゃんと同じぐらいナユくんのこと大切にしてくれる女の子がいたらお姉ちゃんも流石に諦めるからお姉ちゃんのこと嫌わないでー!?」

「大丈夫だよ、ルーナお姉ちゃん! 僕ルーナお姉ちゃんのこと大好きだから嫌ったりしないよ!」


 ナユタの慈悲深いお言葉を聞いて、ナユタにしがみついて号泣していたルーナが泣き止み、口を開く。


「本当? ぐすん」

「うん! それに、そもそもこの村にルーナお姉ちゃん以外の女の子いないし……」


 ナユタはそう言ってちょっと遠い目をした。


 お姉ちゃん大好きっ子に見えたナユタも実は可愛い女の子と仲良くしたいな〜と夢見る立派な男の子だったのである。


「ナユタにもそういう感情がちゃんとあったんだな。ちょっとびっくりだぜ」

「だっていつかルーナお姉ちゃんとアルトお兄ちゃんが結婚したら僕1人になっちゃうでしょ? だから僕、女の子連れの家族が引っ越して来たらいいなっていつも思ってるの」


「そっか。引っ越して来るといいな、女の子連れの家族」


 ポンと肩に手を置いてしみじみとそんな言葉を口にするアルトにナユタは、


「うん」


 と頷いた。


 流石は兄貴分と弟分。


 考えることは一緒であった。


「もうやだ//// ナユくんは何を言ってるのかしら!? お姉ちゃんとアルトはまだそうゆー関係じゃないのに//// ま、まあアルトにお相手が見つからなくて? どうしてもって言うなら、か、考えてあげてもいいけど? でもでも、すっごく綺麗なウェディングドレスと赤か青の高そうな宝石付きの指輪をプレゼントしてくれなきゃ、けけ、結婚なんて結婚なんて、うぅうう、でもアルトがお金いっぱい稼げないなら別にそんなプレゼントくれなくても結婚してあげるけど、でもでも──」


 そんな独り言をブツブツ言っている妄想中のルーナを横目にナユタがこんな言葉を口にする。


「アルトお兄ちゃん、ルーナお姉ちゃんと結婚するにはすっごく綺麗なウェディングドレスと赤か青の高そうな宝石付きの指輪が必要みたいだよ? 大丈夫?」

「ま、まあ、なんとかなるんじゃないか? 今から頑張ってお金貯めてけば……」


「頑張ってねアルトお兄ちゃん! 僕、応援してるから!」

「おう! 頑張っていつかナユタの本当のお義兄(にい)ちゃんになってやるからな!」


「うん!」

「さてと、ルーナは妄想の世界に入っちまったから、とりあえず俺にも薬研(やげん)使わせてくれ!」


「うん、いいよー! はいどうぞ、アルトお兄ちゃん!」

「うおっ!? 薬研車(これ)、めちゃくちゃ重いじゃんかよ!? えっ、なんでナユタ薬研車(これ)を軽々持てるんだ!?」


「えっ、だって僕が持った時、全然重くなかったし?」

「マジかよ……」


 そしてこのあと、アルトが薬研(やげん)を使って薬草汁を作ってみたことで、薬研(やげん)はナユタが使う時にだけ各種魔法が発動してひ弱なナユタでも楽に薬草汁が作れて、それを瓶に入れるのも1人で楽々できると言うことが判明したのであった……。

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