出発
「村の近くにある洞窟がダンジョンになってたって昨日父ちゃんが言ってたから、ちょっと行ってみようぜ! スライム倒すと最初の1回だけ必ずスキルがもらえるらしいぞ!」
「スキルがもらえるの!? じゃあ、僕も行くー!」
「だめよ、ナユくん。ダンジョンは危ない場所なのよ? そんな所に行くなんてお姉ちゃんは許しません!」
近所に住む6つ歳が離れたお兄ちゃんのアルトに誘われて元気良く参加を表明したら同じく6つ歳が離れた自分の姉ルーナにダンジョン行きを却下されてしまったので、幼な子ナユタ(9歳)は、
「えー」
と不満の声を上げた。
「心配しなくても大丈夫だってルーナ! ダンジョン入ってすぐの所にいるスライムは最弱で、木の棒で軽く叩くだけで倒せるって話だから、みんなでスライム倒してスキル手に入れようぜ! そうすれば普段の狩りも楽になるだろ?」
「本当に木の棒で軽く叩くだけで倒せるの?」
ルーナが目を細めて疑わしそうに尋ねると、ルーナの幼馴染みのアルトは自信満々の表情でこう答えた。
「だって父ちゃんがそう言ってたもん。だから大丈夫だって! もちろん俺は狩りで使ってるいつもの剣持っていくけどな!」
「今の話は本当だぞ、ルーナちゃん。ダンジョン入ってすぐの所にいるスライムと戦うだけだったら、アルトがいれば問題はないと俺が約束しよう」
斧を肩に担ぎながら裏庭にアルトの父親フランクがやって来たので、ルーナとナユタは元気良く挨拶をした。
「あっ、おじ様おはようございます!」
「おじちゃん、おはよー!」
「ああ、2人ともおはようさん。今日も元気で大変結構!」
フランクがそう挨拶を返した時、勝手口の扉が開いて中から籠を持った女性が2人に声を掛けてきた。
「ルーナ、ナユタ、おはよう。これ今日のお昼だから持っていくんだよ」
「おはようございます、おば様! いつもお昼ありがとうございます!」
「おはようございます! おばちゃん、いつも美味しいサンドイッチありがとー!」
「お礼なんて良いよ。あんた達のご両親が亡くなった今となっちゃあ、私達があんた達の親も同然なんだから。ほら、これ持って早くうちのバカ息子の所に行っておやり。昨日はいつになく早寝したと思ったら朝一番に起きて朝からダンジョンに行く行く騒いでたからねえ。まったくやれやれだよ」
「あはは。ダンジョンに行きたいから早起きするなんて、まるでちっちゃな子どもみたいですね!」
「まあ、探険は男のロマンだからな。生暖かい目で見てやってくれ」
「はーい」
親だからか早くダンジョンに行きたい息子の気持ちがよく分かるらしいフランクのお願いをルーナが快く受け入れていると、痺れを切らしたアルトが声を掛けてきた。
「おーい、いつまでそんな所で喋ってるんだよー?」
「アルトお兄ちゃん、もうあんな所に移動してる……」
いつの間にか裏庭の柵の外側にある、路傍に曼珠沙華が咲き乱れる村道へと移動していたアルトを見てナユタはちょっと呆れていたが、ダンジョンに一刻も早く行きたいアルトは呆れているナユタに気付くことなく催促の言葉を投げてくる。
「早くダンジョンに行こうぜー?」
「はいはい、今行くからそこで待ってなさい。じゃあ、おば様、おじ様、行ってきまーす!」
「行ってきまーす!」
ルーナとナユタの姉弟はアルトの母親イリーネと父親のフランクに別れの挨拶を告げてからアルトの元に向かって走り出す。
「気を付けて行ってくるんだよ」
「強いスキルが手に入っても1階層より下には行くなよー? 俺は1階層しか確認してないからなー?」
後ろから2人を心配するイリーネとフランクの声が聞こえて来たので、ルーナとナユタは後ろに振り返りながら、
「「はーい!」」
と仲良く声をハモらせつつ手を振った。