昔の仲間
孤児院に着くと、色んな子供たちに周りを囲まれた
「女の子が来たー」
「ドレス着てるよ、お姫様かなー」
「お姫様だー」
「お姫様だー」
「ちがうよ、天使様だよ、天使様像と同じだもの」
「天使様だー」
「天使様だー」
周りを囲まれてあたふたしてると、孤児院の経営者らしき女性が慌ててこちらに駆け寄ってきた
「すみません、お姫様、この子達にはちゃんと言っておくので処罰だけはどうか……」
「え、いえ、大丈夫ですわ。来たいといったのは私だもの。このぐらいで不敬扱いなんてことはしないわよ」
「ありがとうございます」
前世ではこの子達より酷い状態になった時もあったのだ、このぐらい気にならない
それよりも……と辺りを見回すと、庭の木の下で寝転ぶ少年を見つけた
(いた)
真っ直ぐにそちらに向かうと、こっそりこちらを確認してたらしい少年は慌てて体を起こした
「こんにちは。少しお話いいかしら?」
「……」
無視か……そんな気はした。前世の頃彼に話を聞けたのも、死の間際だった。あまり話をしない男だった。
「今日はいい天気ね。」
「……」
「本を見ていたの?勉強熱心なのね?」
「……」
「あなたのお名前は?」
「……」
「私はリーシャよ。」
「……」
「……」
「……」
……会話が止まってしまった……
いや、会話にすらなってなかったのだけれど……
「トーマ、ちゃんとお話しなさいって何回も言ってるでしょう?」
「……」
私の後を追ってきた女性が、身振り手振り大袈裟に彼に話しかける。
彼の名前はトーマというのか……前世では名前など捨てたものの集まりだったから、決まった名前がなかったのだ
女性の言葉に気まずそうに顔をしかめるトーマは、話したくないのではなく、話せないと言った雰囲気を感じた
(もしかして……)
私は、手を動かして、手話という方法で会話を試してみる
「(いい天気だね)」
「!んっ。」
反応が帰ってきた
この子は、多分耳が聞こえないんだ。前世で手話を取得しておいてよかった。
まあ、取得した目的は、音を立てずに会話するためだったけど……
それは置いといて、会話をできるようになったので、コミュニケーションをとることにする
「(こんにちは、私はリーシャです)」
リーシャ、と口をハッキリ動かして言うと、
「いーしあ?」
と首傾げで反応が貰えた
「リーシャ」
「いーしゃ」
「リ・い・シ・ャ」
「い・い・し・ゃ」
……どうやら「り」が上手く伝わらないらしい。
仕方ないので、「シアでいいよ」と伝えると、嬉しそうに「シア!」と呼んでくれた
「んっ。トーマ」
自身の自己紹介もしてくれたトーマは、ニコニコと嬉しそうに私の反応を見ていた。「トーマ」と呼ぶと、しっぽを振る犬みたいにとても喜んでくれた
「管理人さん、私この子が気に入りました私の従者として預けていただけないでしょうか?」
「えっ、いや、そうしていただけたらありがたいですけれど、トーマはむかし魔物に襲われた時に鼓膜をやられてしまってまして……」
「……というのは建前で、本当はこの子の未来を救ってあげたいの。」
「トーマの未来……ですか??」
「ええ。このままだと、とても悲惨な未来になってしまうとお告げが出たのよ」
「!?お告げですか??それはまさか……神の……?」
これは嘘である。
でも、教会のものにはこれが一番効くだろう。
実際、不定期にバラバラの人間に神のお告げなるものが下される。
神はいるのだ
「ええ、そうよ。私が救ってあげれるのでしたら、と神に誓いましたの。」
「それなら、まず従者修行からやらせる必要がありますね」
こういってしまえば、ルナも従者にせざるを得ないだろう。という企みもあっての嘘であるが、
案外すんなりと通ったことに、少し驚く
「あら、ルナは反対するかと思ったのに」
「お嬢様の行動は阻害しないようにと、旦那様からことづかっております。」
「あら……」
いつの間に……とも思うが、案外親バカなあの父が邪魔などしないのはゆうに予想できそうなものだった
(予想能力が落ちているな。ここの鍛えた方が良さそうだ……)
一旦思考を辞めると、トーマに向き直る。
「(あなたさえ良ければ、私の家族になりませんか?)」
「……(家族?)」
「(そう、家族。……と言っても、私の従者、になってしまうのだけど……)」
「(従者……)」
んー、と考える素振りをしたあと、コクリとうなづいた
「なる」
「良かった、(じゃあ、このお姉さんに着いてきて)」
ルナを指さして着いてくるように言うと、トーマはやっと立ち上がって、おしりの砂埃を払った
「あっ、髪に葉っぱが…」
私が手を近づけると、トーマがビクッと身体を揺らした
しまった……と思ったが、もう遅い
トーマは手に怯えて固まってしまった
「あの……トーマの親って……」
「ええ、トーマ君に暴力をしていたらしいの。お腹すいて倒れていたところを保護されたのよ」
「ご両親は……」
「しばらく騒いでたけど、こないだ魔物にやられたって聞いたわ。従者にすることに反対するものはいないはずよ」
「分かりました」
トーマに向き直ると、私はそっとトーマを抱きしめた。
一瞬ビクッとしたが、ちょっとづつ力が抜けてくのを感じて、そっと手を動かし、葉っぱをとる。
ついでにと、そっと背中を撫でると、「はわっ……」と声がしたが、嫌がられなかった
トーマの力が抜けきるまでそっと撫でてあげると、
途端にがくん、とトーマの力が抜けた
その衝撃で一緒に倒れてしまうが、庭の草が柔らかくて何とか怪我はなかった
「ルナ、ごめんなさい、トーマが寝てしまったわ。連れて行ってくださる?」
「かしこまりましたお嬢様」
……こうして私は、前世での仲間の1人を救うことが出来た……はずである