苗字
王に連れられ、控え室まで行くと、父も兄もギョッとした目をした
「兄上!リーシャを離してください!」
「良いだろう?ロダン。私だって姪っ子を可愛がりたいと思う気持ちがあるのだよ」
「リーシャが減るのでやめてください」
「減らぬだろうが、何を言っている……とんだ親バカになったな」
……兄上??国王陛下は父の兄だったのか?王族に近しい者だとは思っていたが、これは予想外だ
それともうひとつ
「姪っ子って気づいていたのですか……??」
「ふむ、今日は弟の一家しか呼んでいないからな。概ね予想はできる。」
「苗字を聞いたのは?」
「名乗って貰えないのが何故か興味があっただけだ。思った以上に親バカな返答で笑いをこらえるのが大変だったぞ」
笑いこらえてなかったですよとは言えず、降参とばかりに手を上げると
「時に、知り合いだったら苗字を教えてくれるのであろう?」
「そ、それは……」
困った、苗字を思い出せていない王族にあたるのだから、国の名前が苗字の可能性もあるが、もしそうでなかった場合不敬にあたる
なるべく不敬になって死ぬのは避けたい
(ここは正直に話すか……)
「あの。スキルを手に入れた反動か、手に入れる前の記憶が曖昧なところがありまして。本当は、苗字を忘れてしまったのです……申し訳ございません」
「なんと、スキルを得るのにそんな反動が……」
私の発言に反応したのは父だった
「リーシャ、そういう大事なことは先に話しておくんだ。そうすれば、今困らずに済んだだろう?」
「はい……申し訳ございません……」
「アルマテルグだ。」
「お兄様?」
「苗字はアルマテルグ。リーシャは、リーシャ・アルマテルグだ。」
「ありがとうございます。アルマテルグ。覚えました」
私は、未だに私を抱き抱えている王に向き直ると、形だけでもと、スカートをつまみ、
「リーシャ・アルマテルグと申します。自己紹介が遅れてしまい申し訳ございません。国王陛下」
と、頭を下げた
「……ロダン」
「なんだ、兄上」
「うちの息子に嫁がせる気は……」
「無いな。娘が減る」
「減りはしない……いや、一緒の時間は減るか」
「あの……」
「「どうしたリーシャ」」
話がおかしな方向に向いてると思って声をかけたら、同時に返事を返された
王子に嫁ぐつもり?あるわけないでしょう、そんなの
「失礼ですが、先程のように私の記憶は欠損しており、礼儀作法もままなりません。嫁ぐというのは無理な話かと……」
「いや、まだ時間はある。必死に勉強すれば、届かない場所ではあるまい。」
「しかし……」
「会ってみてからでも遅くないだろう?」
「その前に、今回の件の真偽がつかないと無意味なのでは……?」
「何を言っている。そこは弟の直感を信じている。君が嘘をついている訳では無いという事を」
……そんなに簡単に信じられてしまうとなんかちょっとむず痒い
それと同時にちょっと国が心配になった
「それとも我の目が信じられないか?」
「そうですね…心配になってます」
「はっはっはっはっはっ!脅しに面と向かってそうですねと返されたのは初めてだ!」
脅しだったのか…そうとは知らず反応してしまった…
やっぱり嫁に、なんて喋っている国王陛下を見て、嫌な気はしないけどなんかむず痒いな…と思った
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その後、家紋を見せてもらい、記憶と一致した数名の者には気をつけるようにと注意を促す密書が送られたらしい。
らしい、というのは、私は家紋を見て数個の家紋を記憶を頼りに一致させただけだからだ。
(これで少しでも死者が減ってくれれば良いのだけど)
前世では良いように使われたのだから、このぐらい神に願ってもいいだろう
今世で初めての教会で祈りを捧げた
「随分熱心に祈ってましたね」
お着きのメイド件護衛になった、猫人のルナがそう声をかけてきたことで、祈りを辞める
「ええ。私の見た未来は告げましたが、行動して変えたあとの未来までは分かりませんから。それこそ、神のみぞ知る世界になるでしょうね」
私はルナに向き合うと、その猫耳を撫でた
「んにゃ……やめてください、擽ったいです」
「ごめんなさい、なんか落ち着くのよ。こうしてると」
前世では動物は邪魔になるので始末することが多かった。獣人の仲間も居たが、触らせて貰えたことはない。
1度好奇心で触ってみてから、なんだか癖になってしまったのだった
「それで、今日はどうするんですか?」
「教会の孤児院を見せてもらうことになってるの。
未来予知によると、ここの孤児から裏稼業に入ってしまう者が出るらしいのよ。」
これは半分本当で半分嘘である
前世で仕事を共にした者が、ここの孤児院出身だと話していたのを覚えていただけだ。
……だから、「お嬢様はお優しいのですね。」なんて微笑ましそうに見つめられると少し照れてしまう
「それで、その孤児をどうするおつもりですか?」
「それは内緒っ」
精一杯のぶりっ子ポーズでそう言えば、そこからは追求されなかった。
(従者にしたいなんて言ったら、気が触れたと思われちゃうものね)
私は教会を後にして、孤児院へと向かった