王との謁見
今の流行りだというゴテゴテした服を着せられて、王都に向かった。
道中の襲撃も視野に入れていたが、そんなことも無く、すんなりと着けてしまったことにち、拍子抜けを食らったが、父は「暗部に嗅ぎつけられて行動できないのだろう」と満足気だった
貴族……それも王に対しての作法は、任務の時に得た方法しか知らない。それでまかり通ればいいが……
(暗殺者時代は、その力量さえ見せつけてしまえば、諦めて話を聞いてくれた。その力量を見せつけるためにも、護衛等の攻撃を避け、くらっても死に戻りして対処し、王の前へと無理やり謁見したのだったな)
そこまで考えると、私の王へ会うための作法はかなり異質な気がする。途端に不安になってきた
王都に入り、王城へと入ってもその不安は消えず、
体調が万全でないまま、控え室へとおくられ、そのまま何も出来ずに王との謁見の時間が近づいてくる
「ちょっとお花摘みに……」
私は、一旦前線()を離脱することにした
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「ふぅ……」
洗面台で顔を洗って、深いため息を吐く。
まったく、こんなに胃がキリキリすることなんて初めてかもしれない。
両親を見習って動けばいいかとも思ったが、反応がワンテンポ遅れることになるのは確実だ。それはいただけない
だからといって、自身の記憶に微かに残ってる作法だけで何とかできるかと聞かれたら無理だと答えるだろう。ボロが出そうな気しかしない。
いっそ母と父に任せて逃げてしまおうか……?
逃げることも作戦の一種ではあるわけだから、選択肢としてはありだろう。
だがしかし、自分のいない場で自分の話をされるというものは、良い話でも悪い話でも良い気はしない。
無礼だと言われないことを祈るか、逃げるか……
選択肢としてはどちらも良し悪しである
トイレを出て、少し歩いたところで、ふと立ち止まる。
「……ここはどこだ?」
キョロキョロと周りを見回しても誰もいない。同じような道が続いている。
完全に道を忘れてしまった。迷子だ
(暗殺者時代はこんなこと無かったのに……逆行した影響か?記憶力が悪くなっている気がする……
……とにかく、気配を探って使用人か誰かを探し出そう。それで場所を聞いて、控え室に戻ればまだ時間は間に合うはずだ)
気配を探ったところ、中庭らしきところに誰かいる事がわかった。私は足早にそちらへと向かったのだが……
やばい、貴族だ。これは話を聞き出せない……
貴族の場合、最初に名前を言わないと失礼にあたる。でも、私は自分のフルネームを過去の記憶に置いてきており、全く思い出せないのだ
仕方ない、ほかの者を探すか……
そう考えてきびすを返したその時、
パキッ
と音を立ててしまった
(しまった……っ)
暗殺者であった私がこんなに初歩的なミスをするなんて!思わず恥ずかしくなるがそれどころじゃない。
完全に存在が気づかれてしまった私は、例の貴族が、「誰かいるのか?」と声をかけられてしまった
(誤魔化してもいいが、不敬になる可能性を考えたらここは反応を返すべきだろう)
私は貴族の方に向き直り、お辞儀をした
「お邪魔してしまいすみませんでした。王との謁見に参ったのですが、恥ずかしながら迷子になってしまい、さまよっていたのでございます」
先手必勝、とばかりに事情を説明して、そのまま「ごきげんよう」と去ろうとすると、
貴族に止められた
「貴様、名前はなんという」
「リーシャです。恥ずかしながら、家名はまだ名乗れません」
「……それは何故だ?」
「知らない方に名前を教えてはならないとお父様に教わったので」
そう言うと、何故か相手は笑いを堪えた
「そうか。ならば、どうすれば聞いても良いのかな?」
「そうですね……両親とお知り合いでしたら名乗っても大丈夫ではと思っております」
両親と一緒なら、両親が勝手に自己紹介をしてくれるだろう。そしたらフルネームもわかるし一石二鳥だ
「ハハハハハッなるほど、お知り合いだったらか。
それは、面白いなハハハハハッ」
「何故笑うのですか?」
「ふむ、なぜと言われると……この国に私と知り合いじゃない貴族など居ないからな。」
その言葉に、反射的に傅く。
全ての貴族と繋がりを持った、王城にいる者など、一人しかいないではないか
「失礼致しました国王陛下」
「よいよい。子供を傅かせる趣味などない表を上げよ」
恐る恐る頭を上げると、王はニコニコとしていた
「今日謁見があり、迷う可能性のある子供がいるのはロダンだ。そうだろう?」
急に父の名前を呼ばれて、慌てて頷くと、王はまた笑いそうになっていた
「ちょうどいい、謁見の目的を話してみよ」
「えっと……」
私は困惑してしまった。たまたま子供にあったからと、子供に来た目的を来言わせるやつがどこにいるのだろうか……いや、目の前にいるのだが……
とにかく、ここで答えなくては不敬だと言われかねない。
口調に気をつけつつ口を開いた
「私に、未来予知のスキルが宿ったのです。そして、そのスキルによって、未来に戦争が起こることを予知しました。
その為、国王陛下の意向を聞くとともに、可能であれば国王陛下からの命で国同士の協力関係を築くお手伝いをと思い、馳せ参じた次第でございます。」
「ふむ、なるほどな。それを証明するものはあるか?」
「はい。本日から約5日後、アスバル様が暗殺者に狙われます依頼主は、ヘレック様です」
これは、暗殺者時代に一番最初に請け負った仕事だ。
本来ならベテランが行く予定だったが、ちょうど行ける人がおらず、捨て駒のごとく私が使われたというわけだ。
(まぁ、その時にタイムループできることを知って、何とか依頼をこなしたのだけれど。)
依頼の内容としては、違法奴隷を所持してる貴族の一掃、だったはずだ。
だが、これも裏切り者から聞いた依頼である。嘘の可能性が高い。
実際、アスバル様は民衆からの評判の良い貴族だ。これは今世になってから調べたことなので、間違いは無い。
逆にへレック様は、アスバル様を妬んでるという情報も掴んでいる。ここは確実に激突するだろう。
(タイムループが存在したおかげで私は生き延びたが、本来なら失敗する可能性の方が高かっただろう。裏切り者は何故私を抜擢したのだろうか……
もしや、私が死んでしまった方が、裏切り者にとって得だったのかもしれない。)
そんな思考をしていると、王が口を開いた
「貴族が暗殺されるとなると話が大きいな。もし嘘だった場合、お前が処刑されることになるが、覚悟はいいんだな?」
「覚悟はとうにしております。それに、アスバル様だけでなく、他にも数名襲われると予知しました。アスバル様以外の方のお名前までは分かりませんでしたが、恐らく、へレック様にとって都合の悪い方が狙われるかと思われます。」
「アスバルだけでないと申すか……ならば、その貴族にも、警戒するよう指示を出さねばなるまい……本当に誰なのか分からないのか?」
「はい。アスバル様は顔をしっかりと見れたのですが、他の方はうっすら襲われてる影を見るのみでしたから……」
後半は嘘だ。でも、そうしないとどうやって予知で見たのかと聞かれると思ったのと、言わないでいて他の貴族が亡くなってしまっては問題があるので、「どうしても分かりませんでした」と悔しそうに零した
「ですが、家紋を見ればもしかしたら数名、分かるかもしれません」
これは本当だ。
……というのも、初めての依頼をこなした後は、多くの貴族が同時に亡くなったと大騒ぎになり、亡くなった者の家紋入りの新聞が発行されたのだ。
その新聞を見て覚えているため、亡くなる貴族はわかる、という訳だ
「そうか、ならば、話し合いの後、今ある家紋の一覧を見せるとしよう。少しでも情報がある方がこちらも動きやすい。」
「ありがとうございます」
「そうと決まれば、謁見の間に行こうではないか。両親が待っておるのだろう?」
「あっ!そうでした!」
完全に記憶から飛んでいた
どうも、この幼い体はまだ記憶力が良くないらしい……
暗殺者になるためにした特訓を模倣して、記憶力をあげる特訓をした方がいいかもしれない……
では、と王が歩き出すと、私もそれに追従する。
だが……
「……ふむ、そなたの歩幅では、日が暮れてしまいそうだな……」
「はぁ……申し訳……ございません……はぁ……」
体力も、まだついてない身体のままだ。スキルで追いつけはしたが、いかんせん体力は上がっていなかったらしい。すぐに息切れしてしまった
王は、少し考え事をした後、なんと、私を抱き抱えてしまった。
「お、おおおおお王様!これは流石に無理があるのではないでしょうか?!」
「なんだ、国王陛下と呼ばないのか?」
「問題はそこではありません!!私歩けますから下ろしてくださいませ!!」
「子供は黙って大人に甘えなさい。
おお、そうだ。予知能力が本物だったら、私の息子と婚約するのはどうだろう?面白そうだ」
(面白そうで人の人生を左右させないでください!)
思わずツッコミを入れたくなったが、流石に国王陛下へのツッコミは不敬だと言われそうで口を噤むと、
国王陛下は満足したように私を抱えたまま謁見の間へと歩き出したのだった