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【たった一人の異世界侵略〜特殊スキル《弾幕》と《無限チュートリアル》でハンパな異世界を分からせに来た〜】番外編 竜に挑む騎士

作者: アマノヤワラ

「……多分、『ほんとに竜と戦った人』って、こんなだろうな」

と思いながら書きました。

 夕刻。

 赤と黒が大地と天空を染め上げる逢魔が刻。


 霊峰レオ山の山頂、【竜の御座石(みくらいし)】と呼ばれる大きな磐の上に二つの影が立っていた。


 一方は、大マクシム帝国にその人あり、と謳われる強者。『月光騎士(ルナリス)』の称号を持つ、当代有数の騎士。

 その名をジークハルト・ディオアンブラ。

 18歳。


 もう一方は、過去現在未来のすべての時空に存在し、すべてを識り、すべてを視、すべてを語るという無敵の存在。

 【竜】。

 年齢不詳。


 大磐の上で向かい合う両者は、ピクリとも動かない。

 世界を染め上げる赤と黒の中で、ただ(とき)だけが両者の間を静かに流れている。



 元々、両者には何の縁もゆかりもない。

 ジークが、主君であり、剣の師でもある皇帝から、


「レオ山に巣食うという“巨大なる魔物”の様子を見てこい。もし、必要なら(……()れ)……」

 

 と、一方的に命じられて嫌々(イヤイヤ)来ただけだった。

 大マクシム帝国の皇帝は、家臣にして弟子でもあるジークに対してなんの容赦もしない。


 そもそも【竜】がなんなのかさえも、人類にはよく分かってはいない。ジークとしては、内心では『……嫌だな。こわいし』としか思っていない。

 そして、【竜】自身は、目の前に立つ人類のことなど、おそらく歯牙にもかけてはいない。せいぜいが、『なんだか、“すごく小さい者”が自分と向かい合っているな……』くらいにしか思ってはいないだろう。

 それくらい【竜】と人類には圧倒的な差がある。

 


 だから、両者には戦う理由が特にない。


 ジークは、近くで見ても大きさや形が分からない【竜】を見ながら、心の中だけで独りごちた。


(……うわぁ。『どうにも出来なさそう』。なんか真っ黒で輪郭もボヤけてるし、体の大きさも分かんないし、ていうか『間合い』が分かんない。そもそも人間と【竜】戦わせるって何?鬼……?鬼なのかな、うちの師匠……)


 すべての時空に同時に存在する【竜】は、その外殻である『竜鱗』の表面で空間を捻じ曲げている。だから、ジークから見れば【竜】は、天を衝く程の巨体にも見えるし、人間程度のサイズにも見える。


 それは別に【竜】がそうしようとして起こしている訳ではなく、言うなれば『自然現象』だ。

 人間的に言えば、“強い人にはオーラがある”くらいの現象でしかない。


 【竜】は黙って久々の“来訪者”を見つめている。

 ……尤も、ジークからは【竜】の目の動きすら確認できない。ジークからすると、【竜】は『巨大な翼を持った真っ黒いなにか』にしか見えない。


(……闘い(やり)たくねぇなぁ。オレ死んじゃう?『愛の告白』とかも、まだしてないのに?)


 恋人の顔を思い描きながら、ジークは心の中だけで独りごちた。ジークと恋人は、まだ付き合い始めたばかりである。

 恋人とろくに手も握らない内に、ジークは恋人の親戚である師匠兼皇帝に【竜】の様子を見てくるように言われたのだ。


(……もしかして師匠(じいさん)、オレ達の付き合いに反対だったのかな?だったら口で言えばいいのに……)


 ジークは【竜】の顔の辺りを見つめながら、心の中でずっと独りごちている。『【竜】の顔』は、ジークには空間に空いた黒い穴のようにしか見えない。

 【竜】の持つ圧倒的な存在感が、周囲の時空を歪ませているということさえ、人類(ジーク)には分からない。ただ、シンプルに「……【竜】の鱗って真っ黒なんだな」としか思えなかった。

 それが、この時点での人類側の『限界』だった。



 【竜】は相変わらず何も語らない。

 『すべてを語る』んじゃねえのかよ…と内心で思うジーク。

 ……しかし、このまま、ただ刻が過ぎゆくままにしておく訳にもいかない。


「……あんたにもオレにも不幸なことにやりあわなきゃならないんだよ。皇帝(じいさん)の命令なんでね」


 じゃないとオレころされちゃう…と続けながら、ジークは腰の『剣』の柄に手をかけた。

 万の軍勢にも勝る武器と評される『騎士剣』の柄が、こんなにも頼りなく思えた時はない。


(……やんなきゃだよな。オレ『騎士』だし……)


 『騎士たるもの、恐れず敵に立ち向かえ』などという大原則(きまり)を作ったやつ(皇帝(じいさん))を恨みながら、ジークが騎士剣を開放しようとした。


 その時。


『ノ エストイ ビエン』


 そう聴こえる言葉の反響だけを空間に残して、空間の中にかき消えるようにして、【竜】は何処へか去っていった。



「ノエス…なに?」

 

 【竜】が去り、ただ一人残されたジークは、剣の柄に手をかけた姿勢のまま独りごちる。


(……何語なんだろう、【竜】の言葉?……)


 ジークには考えても分からない。

 そもそも、ジークの頭は考察とかには向いていない。ジークという男は、『直感的にひらめいて、もし必要なら後からそう思った理由を考える』タイプだ。

 だから、今回もジークは悩むことなく、自分なりの落とし所を見つけた。


「……『オレが剣の柄に手をかけた途端に、【竜】は何処へか去っていった』。そういうことだよな、コレ……」


 多分、違う。

 ということは、ジークにだって分かっている。

 

 ジークにとって大事なのは、二度と師匠兼皇帝(じいさん)に『【竜】の討伐』などという無茶ブリをされない為には、どうすればいいか?ということだ。


 そして、騎士剣の柄に手をかけたままの姿勢でジークはしばらく考え、やがて一つの結論に達した。


「……起こったことをありのままに報告しよう。変に言い訳して、師匠にころされたら困る。エレオノール(エリー)を独りにする訳にはいかないし……」


 十分言い訳がましいことを言いながら、ジークはやっと構えを解いた。


 ジークにとって、残る問題は一つ。

 辺りが真っ暗闇なので、レオ山の頂上から『降りられない』ということだ。


(……今度からココ来る時は、『早朝に来る』ことにしよう……)


 心の中でそう思いつつ、ジークは懐から取り出した干し肉と炒った大豆にかぶりつき水筒の水を少しなめて、マントを身体に巻いて横になり、そのまま眠った。



 ……後日。

 このことが帝都に伝わり、

 『【竜】を退けた英雄』としてジークの名が帝国全土に知れ渡るのだが、勿論この時のジークは知らない。


 ジークは、皇帝に対しても国民に対しても、起こったことをありのままにしか言ってはいない。


 真実がどうであれ、歴史は『そう思いたい』と思う人達の認識が寄り集まって、皆の中で(つく)られるものなのだ。





【たった一人の異世界侵略〜特殊スキル《弾幕》と《無限チュートリアル》でハンパな異世界を分からせに来た〜】

番外編 竜に挑む騎士



本篇へ続く…



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