走り屋と付喪神
車が轟音を唸らせ爆走する。決して広くはなく、加えて乗り捨てられた車が障害物のように散見する道路を減速することなく、むしろどんどん加速しながら黒い何かの大群から遠ざかっていく。少女は車の揺れに堪えながらなんとか京人形の言葉通りシートベルトを付け身を強張らせていた。
「あの、花音さんはどうするんですか!」
「安心しい、花音はんならすぐ追いつくさかい。ほれ」
何事もないように京人形が言いながら窓の外を指差す。光の球を無数に撃ち出しながら爆走する車の後を追う花音の姿が見える。縦横無尽に飛び回りながら、花音は走行する車の上に飛び乗った。
「おいおい、俺の愛車にあまり乱暴なことするなよ」
「うっさい! これでも気つかってる方なんだから! っていうか、傷つけられたくないなら黙って運転しろ!」
へいへい、とぶっきらぼうに相槌を打ちながら車を細い中道へと入れる。蜘蛛の巣のように入り組んだ道を難なく突っ切り、再び大きな通りへと出た。
「飴ちゃんいるかいな、お嬢さん?」
「え?」
外の様子を気にする事なく京人形は少女に飴を一つ差し出した。この状況でここまで落ち着いていられるものなのかと疑問に思いながらも少女は恐る恐る飴を受け取る。
「ところでお嬢さん、お名前はなんちゅうんや? ちなみにウチはお松や。よろしくな」
「えっと、アリスです。よろしく……あれ?」
少女は自分が口にした言葉に驚く。まるで”以前から自分がそう名乗っていた”かの様に、自然と口から溢れていた。呆けているアリスの顔を、お松は神妙な面持ちで覗き込む。
「アリスはん。あんた、前にもウチと会うたことあったかいな?」
「えっと……ごめんなさい。私、今までの記憶が無くて。でも、アリスって名前は何でか自然と出てきたんです」
「うーん、ウチの気のせいなんかなぁ」
お松のゆったりとした空気に影響されてか、アリスは少しだけ緊張の糸が解れていた。とはいえいま現在も黒い何かに追われ続けている。車外の花音の様子を伺うと光の球を撃ち続けながら、訝しむ様な表情だった。
「なんでだろ……いつにも増して今日は調子が良い気がする。力が溢れてくるっていうか……」
「お嬢、大橋を過ぎれば奴らのテリトリーから抜けられる。そこまで持ちそうか?」
「ぜんぜん余裕! っていうより、なんかいつもより調子良いからドンと来いって感じ!」
「お嬢もか? 実は俺も今日は気分が良いんだ。どんな道でも走り切れる気がするぜ!」
二人は自身の身体の異変に驚きつつも、気を緩めることなく周囲を警戒する。気がつくと背後の黒い何かの群れは、花音の光の球による攻撃で明らかにその数を減らしていた。あとは目の前に見える大橋を越えるのみ。
しかし、束の間の安堵を打ち砕く様に目の前の建物が先回りしていた黒い何かの群れによって倒壊し、大橋までの道を封鎖した。




