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幕間1

 はい、2話目ですー。


 今回は、主人公を助けた二人が居る側のお話です。

 むっちゃ説明文章満載なので諦めずに読んで下さると嬉しいです(・ω・`)



 …或る一室。

 数人の女性達が木のテーブルを囲み、各々が目の前の果実酒の入ったグラスを傾けている。

 女性達は見目麗しく、若さに溢れ、纏わせた衣は薄手で露出も多く、その瑞々しい肌を外気に晒している。

 覗かせる肢体は傍目には長身痩躯…だが、その体躯は表現に反して女性らしさの減り張りが随分とハッキリしており、皆が皆、その美貌と相俟って抜群の造形美を醸し出していた。


「…で、」


 その内の一人、中でも最も威厳に満ちた女性が口を開き、


「例の人間の仔はまだ目を覚まさぬのか?」


 誰にとなく問うた。

 人間の仔…そう表現するように彼女達は確かに人ではある。が、人間とは明らかに異なっていた。

 特徴として良く挙げられる"長身痩躯"は人よりも高い部類に入り、違和感はあるがそれが決定的な違いではない。


 決定的に違うのはその"長い耳"にある。


 それはエルフと呼ばれる永い時を歩む長命な存在の証…なのだが、彼女達は更に異なる。

 その違いは肌や髪の色。

 彼女達の肌は通常のエルフとは異なる浅黒・小麦色や薄赤褐、浅青色。髪も金や青、緑と明るい色が多いエルフとは対照的に銀や灰色に近い銀、もしくは鈍く光る鉄色や赤銅、黒みがかった色などが色濃く沈んで重い光沢を放っていた。

 彼女達はエルフという種族の中でも亜種となるダークエルフと呼ばれている存在に位置する。

 あと、対外的にもほぼ例外なく温厚温和なエルフとは違い、ダークエルフは味方やエルフを含む同族に対しては基本的に温厚で取っ付きやすいのだが、敵と見做したモノや造形的に醜悪なモノに対しては苛烈極まりなく、容赦ないという側面も持っている。


「今日で丸二日経ちましたがその気配は全く無く…ですが、」


 女性の言葉を受け、隣に座っていた見た目からこの中で比較的にも若く見える、表情に何処か幼さの残るダークエルフの女性…少女? が口を開く。が、


「その間に傷は既に塞がり、顔色も…良くなっていますので、もしかしたらすぐにも目を覚ますかもしれません」


 その声色には何処か、畏怖したモノが混じっていた。


 助けた仔が目を覚ます。


 死から救い出したなら、快方に向かうのなら喜ばしい事のはず…ならば、何故か?


「治癒魔法の一切を受け付けず、自前の自然治癒のみで今尚その身を治していると…一体、何者なのだ?」


 また違うダークエルフの女性がした詰問は、少女が畏怖する理由の疑問を口にし、


「それと、その件の仔…黒髪黒瞳と聞いたが真か?」


 それと共にまた異なる事柄も確認するように少女に訊いた。


「…はい。確かに、黒い髪と黒い瞳でした。間違いありません」


 少女はそう言いつつ、己が目で見たにも関わらず、それでもまだ信じられないという風に首肯する。

 この少女は森の中で仔を発見して怪我の具合を見て、このままでは保たないと判断して連れ帰ってきたという経緯がある。

 実は、魔力の発生源へと向かった二人の内の片割れであり、あの時のやる気の無さそうにしていた方である。

 そんな連れ向かった中で彼女は実際に仔の安否を確かめ、瞳孔確認まで行っていた。ならば何故、直に見たにも関わらず未だに信じられずにいるのか?

 それは、


 旅によって培われた先入観に拠るもの。


 世界を回ったが完璧な黒髪を持つものは片手で数えられる程しか目にせず、ましてや黒い瞳などは旅の最中の100年…と言わず、最年長の長ですら誰一人として見たことがなかったのが理由だった。


「…髪に関しては染色で染めているのでは?」


 その言葉に威厳を醸し出していた女性が、ふむ…と一瞬、考え、


「カルナ」


「は、はい」


 少女…カルナを少し見やり、


「下の毛はどうだった?」


「はっ、はい………ぇっ、は、はっ!?」


 真面目に応えようとしたカルナが言葉の意味を理解し、頬を染めるのを意地の悪い笑みを浮かべた。


「治療を試したのは確かおぬしだったろう? その時に血で汚れた着せ物を変えたのもな……のう、我が末娘カルナよ?」


「わっ、わっあ、あああたしはっ! あ、あたしは…えと」


 見事、カルナは一気にしどろもどろにさせ、言葉に詰まってあたふたとするのを眺める、威厳から嗜虐へと換えた、長であり母でもある女性をチラチラと見やっては視線を泳がせた。


「ぇ、えと…えとっ…」


 何故こうも言葉に詰まり、平静を保てない理由。


「う、うーっ…うーっ」


 それは、カルナが成人の旅から帰ってきて間もないのだが、実に100年とあったその道中で於いて一度もそんな場面に遭遇せず、果ては避け続けた結果、一連の経験を全くしなかったのが原因だった。


「まっこと…初心なままよなぁ、カルナ」


「ぁうぅ~…」


 その長い耳の先端までをも真っ赤にして俯くカルナを見やりながら、その母…クィアニス=スケィースは胸中で嘆息する。

 エルフは生まれてから約15年までは人間と同じ早さで成長するのだが、それ以降は安定期に入る。

 発育はゆっくりしたモノになり、そこからは永い年月を経、寿命が尽きるであろう時が近付くにつれ徐々に老いていく…それでも人間の十分の一以下の早さで。

 成人の旅とは、成長期を終えて安定期に入った若者が100年の間、見識を広げる為に外の世界で旅をする儀式の事を指す。

 これは重要な通過儀礼ではあるが、100年もの間を森の中しか知らない若い少年少女が外の世界で旅をするのは確かに過酷なモノであり、困難を窮める旅となる。

 かく言う、カルナ自身も旅の最中はいつも身の危険と隣り合わせであったし、生命の危機や性的な意味での危機も色々と何十回とあった。が、持ち前の勘と感覚の鋭さで難を逃れてきて事なきを得て森に帰ってきたのだ…と言っても、


「えと、」


 伊達に100年間、世界を旅した訳ではない。

 そう言った経験は無いものの知識は十二分にはあるのだ。


 精々、耳年増止まりなのは否めないが。


 とりあえず、そうしてカルナは何とか得ている知識らを総動員して鑑み、結論に結びつけてはいた。

 要は、頭の髪を染めたからといって下まで染めるという徹底してやるバカというのはまず少ない…それに、


「ぅ、うーん…」


 カルナは実際に服は脱がせたが下着類はそのまま、"そこ"の確認などはしてなかったのもあった。

 ただ、気を失っている姿しか見ていないが、気弱げな顔立ちや時折に見せる弛んだ寝顔はそんな暴挙をするような仔ではないと彼女は思っていた。

 とりあえず、


「…そ、染めてはいない…で、しょう」


 何とか声を振り絞ったカルナがそう答えた。すると、


「…っぷ、」


 彼女の隣から吹き出す笑いが起こった。


「ぷっ、ぷ、っくぁ、あはっあはははっ…カルナ、耳まで真っ赤~ほんと初心だよね~」


「っな!? …う、ぅうっ、うるさいなぁっ!」


 必死に考えてそう答えたカルナは批難するも、茶化されて思わず俯いてしまう。

 それを見た、傍らに座っていた女性はこれ幸いにと真っ赤になって俯く彼女の耳をツンツンと突っつき始める…そんな彼女も、実は件の仔を連れ帰ったもう片方だったりするのだが。


「カルナちゃん可愛いー」

「う…う~っ、うーっ!」


 カルナは最初こそ突っつかれるのを甘んじていたものの、次第にイライラし始め、遂には、


「っだぁあーっ! そう言うシーア姉様だってっ、あたしと同じでそんな経験なんかないじゃんかーっ!」


 キレた。


「っな?!」


 カルナの反撃に耳を弄って遊んでいた女性…シーアは一気に取り乱し、絶句する。


「い、いいい今っ、今言うことじゃないでしょっ!?」


 実際は藪蛇で因果応報。

 そも、シーア自身それに付いてはかなり気にしていたせいもあって思いの外に狼狽えてしまい、テンパったそのままで食ってかかってしまう。


「あたし悪くない! 先に仕掛けたのはそっちだし!」

「良くないし関係なくないっ、だから許されないわ!」


「横・暴・だっ!」


「当・然・よっ!」


「なんでさっ!」

「何よっ!」


 と言った感じで暫く言い合った後、そのまま戯れ合いに発展していくそんな姉妹二人を見ながら、


『『…』』


 他のダークエルフの女性達はその意味がもたらす事態に改めて溜め息を漏らした。


 成人の旅は、出会いの旅でもある。


 外の世界を回るのは何も自分達だけではなく、同じく世界を回る他の森の同胞もそうなのだ。

 そんな旅の中で同胞の異性と出会って行き、その中で気が合った者と行動を共にすれば、自ずと惹かれ合い、身を寄り添って子を成す事がある。

 実際、意味合い的にはその割合が若干強い…では何故、溜め息を着くのか。


 目の前の二人を含む、群れの歳若い女達が皆、そうなったのか?


 エルフは元々から住み慣れた森を離れるのに抵抗を覚える気質であり、亜種である自分達も尚の事、他の森に点在する同朋達との相互間は完全な不干渉を課している。


 故に、成人の旅は重要な儀式なのである。


 だが、いつからか外に出た妹達、娘達が何もないままに成人の旅を終えて帰ってくる事が増え、いつしか仔を連れて戻って来た者など誰一人居なくなったのだ。


 それもそう成ってからかなり久しく、それが現在にまで至っている。


 その弊害は村の出産率を崩し、今ではもう、とある理由から幼子という年齢の女子は村には居なくなっていた。


「…カルナや」

「っ、え、は、何でしょうか母様ってあっ!?」


 シーアと取っ組み合いに発展したカルナは急に呼ばれて思わずと言った風に返事をし、慌てて口を塞ぐ。


「…ちゃんと"長"と呼ぶようにといつも言っておろう? 未だに親離れ出来ん末っ娘よな、カルナ」


 クィアニスはそんな愛娘の様に微苦笑を浮かべ、見つめた。


「ぇ、えと…」

「ふふっ…さて、そろそろ包帯を替える頃合いではないか? カルナ」


「ぇ、あっ…は、はい!」


「行きなさい」


「は、はい! し、失礼します」


 カルナは慌てて席を立つと周りの者に頭を下げながら部屋から退出する。

 畏怖を感じたもののアレは、正体不明の仔ではあるが大怪我を負っていて目覚めていない。だから、それ以上に気を遣っているらしいのはその慌てぶりから自然と分かった。


「…」


 そんなカルナにシーアは何も言わずに彼女を見送り、相手が居なくなって手持ち無沙汰になっているのをクィアニスは暫し、眺め、


「…あれが生まれてすぐに父親が逝き、それと同時に……村最後の男達が立て続けに亡くなってからもう100年余り、か」


 徐にそう呟くクィアニス。

 その言葉に聞いた者は皆、暗い面持ちになっていく。

 シーアを除いた者は、長であるクィアニスと共に今居る森に移ってきた最古参とその生まれた第一子達で皆が皆、亡くなった父親や最後の男性を想い、耽っていく。


 村から男が居なくなった理由。


 自分達の種族は長命故か子を宿し難く、その上で種の優位性からか女児を生む比率が高いのも原因だった。

 割を食った男児の出生率は極端に低い上に、寿命も女子と比べれば短命で差としては5~6倍の差がある。

 所持魔力が高ければ高いだけ寿命は伸びるが、先の差から外れる程でもない。


「…今思えば、あの方法も正しかったのか分からん」


 他に男子は女子と比べて成長すると身体的に恵まれる。

 その所為か、好戦的で旅の途中での死亡率が高かったのもその一因だったのもあって、ここ最近は過保護に育て、成人の旅も出させずに森の中で一生を終えるという状態を続けていた。

 その結果、自ずと近親者との交わりも増え、それが原因か、その悉くが女児しか産まれず、一応には最も遠縁となる長クィアニス自身も交わって何度か孕んだが、結局は女児しか授かれなかった。


「…こんな時、他の森との相互間が無いのが歯痒いな」


 永年をそう過ごしてきた手前、他の森に対して今更、何かしらの遣いを出すのは二の足を踏んでしまう。

 長としては遣いを出したい…だが、それよりも先にエルフとしての気質が邪魔をしてしまう。

 そうは言ってられない現実があるというのに、そんな難儀な気質に彼女は顔を瞼を閉じてその柳眉を寄せていった。


「…長、もしかすると他もこの状況なのでは?」


 クィアニスは瞼を開き、疑問を口にした一人を見やった。


「…その根拠は?」


「シーア」

「ぇ、はっはい!」


 話を振られ、シーアはカルナと戯れ合った時とは打って変わって神妙な表情で旅を振り返ってみた。

 シーアは妹のカルナより早く7~8年も前に帰って来ており、この場に妹が居なくとも現状を推測するにはその程度の年数差は誤差の範囲内。


「…確かにわたしが旅をしていた頃にはもう、同族の異性は全く見た覚えはありません。根拠としては、恐らく高いかと」


 結果は芳しくない…いや、もしかしたら最悪かもしれない。

 カルナに限らず歳若い者、皆に訊いたとて変わらないだろう事実に、やはり…と溜め息を漏らし合っていく。


「我らと同じく近親者との契りによって子を成している…とは考えたくはない。考えたくはない、のだがな」


 クィアニスはそう呟いてから、それを否定するように頭を振る。

 経験則から言ってそれはもう群れとしては末期状態…こちらみたく遣いを出すか出すまいかまでには至っていない前段階というだけの話かもしれない、とは思いたくなかった。

 だが、


「余所もいずれはこうなるかもしれん、か…」


 ただでさえ、暗かった部屋の雰囲気が一気に重たくなる。

 そして、


「何度、口に出したかはもう分からんが…」


 クィアニスはテーブルを囲む皆を見回し、


「異種族との契り、そろそろ考えねばならんかもしれん。皆も覚悟はしておいたほうがいい」


 口にした"異種間との契り"だが、それを口にするのは本当に、今に始まった事ではない。


「それは…出来ませんっ」


「…そうは言うがな」

「皆が納得しませんっ」


 この言葉は必ず、皆が口々に反論し始めてしまい場が混乱する。


「…ふぅ…」


 自身もこうなるであろう事は初めから分かっていたし、割り切れない事も判っていた。


 男が居なくなってからの100年で幾度と無く言葉を交わしてきたのだから。


 とは言え、やはり種としての誇りが高いエルフには異種間など屈辱でしかない。

 他にも理由は多々あるが、ダークエルフである自分達に於いては亜種だからこその"個"としての誇りは高く、エルフの比ではないのだ。


「皆の言いたい事は重々承知の上だ」


「ですが…っ」

「だから…だから、もう止そう。この件はまた今度だ」


 元に戻る、部屋の空気。

 結局、その都度にその意識が先に立ち、その案を口にする事は有れども忽ちに有耶無耶に消えていく。


 それが、この集まりの締めの常であった。




 ダークエルフ…そう、


 私はディードリットよりもピロテース派だ!!(`・ω・´)

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