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樹海は異世界への入り口

 えー、完全オリジナルです!

 一応、全年齢対象なんですが…時折にR15~R18が混じったりします。

 その時は注意書きを書きますので、対象外の読者様はスルーでお願いしますねー。


 では、どぞー。


 何で今だと思ったのか、理由は自分でも判らない。ただ、気付いたら僕は皆から離れていき、遊歩道から外れ、樹海の中へと歩を進めていた。


「はぁ…はあ……っ」


 まともな道なんて…ううん、道自体が無い中を僕は奥へと進んだ。

 本能で彷徨く獣ですら道らしい道を付けられない、木の根や大小の岩でうねった大地を宛てもなく僕はただひたすらに奥へ奥へと…


 死ぬ為に。


 多分、林間学校の内容に奉仕活動の一環で樹海への中の遊歩道を清掃目的で歩くという項目を見た瞬間から僕の中で覚悟が決まってたのかも…ぁ、今する理由あったなぁ。

 動機は…僕への過度のイジメに自分の心が堪えられなくなってきたのと、命の危険を感じたから。

 イジメを受け始めたのが、今年の中学二年に進級した辺りなのは覚えてる…でも、原因は何だったのかはもう思い出せない。

 認識のズレ、濡れ衣と訳も分からずにとばっちりを食らったぐらいみたいな内容しか覚えてない。

 とばっちりからエスカレートしていく行為は何時しか物理的な攻撃に変わり、究めつけは…ついさっき。


 集団行動で樹海へと向かう途中、赤信号で立ち止まった僕を後ろから押された。


 正直、呆れた。

 かなりの交通量がある主要幹線道路の歩道で待っていた僕は急に後ろから押されて案の定、轢かれそうになり、茫然と眼前に止まってくれた車を見つめながら押した張本人であろうイジメてくる人間達の厭な笑みを見させされた。


 嗚呼、僕はもう此処に居れないんだな…と確信した。


 学校に僕の居場所はない。

 学校に居たらイジメられて殺される…もしかしたら"学校"という限られた空間だけに留まらなくなるかもしれない。

 味方は居ない…いや、出来ない。


 人が、怖い。


 だって、それすらも向こうの気分次第で決まる。

 敵かもしれない、味方だとしても結果的には無くならず更にエスカレートしてしまう切欠になる敵かもしれない。


「…」


 もう、そんなの充分だよ。

 ここまで来て、まだ覚悟を決め損ねたら僕は相手を恨みも出来ずに殺されてしまうかもれしない。だから、


 僕はここで死ぬんだ。


 死ぬ覚悟を決め、今までの恨みを辛みを溜め込む…死んだ後に僕をイジメた奴らを呪い殺す為に。


「…ふぅ…っ」


 足を止めて、一息着く。

 軽く立ち眩み、膝に手を着くと腕時計の時刻がぼんやりと見えた。

 抜け出してから時間にして、約40分…運痴で体力も無いはずの僕が休憩も無しにこうも歩けたのには我ながら少し吃驚。

 身体が小さい上にあんまり丈夫じゃなく、家に籠もりがちで内向的な僕でも必死になったらこんな畦地でもこんなに歩けるんだなんて知らなかったよ。


「…」


 それにしても、何か…


「空気がザラついてて気持ち悪い、かな…?」


 今更になって周囲を見渡す余裕が出来た僕は気付けば辺りを見回していた。

 晴れた空だから陽光が出てる筈なのに鬱蒼とした木々や茂みが光を奪ってて、景色は何処か薄暗くて曇っていて、地面からは土を盛り返して剥き出しになった根がその足を曲げくれらせて自然のトラップと化している。そして、


「…っ!」


 喉が


「…っんく」


 鳴る。

 視線の先、木の枝にぶら下げられた"その目的"によって"使用された縄"とかが視界に入った。

 その"妙に草が腐っている地面"などは丁度、大の大人がすっぽりと横たわったぐらいの空間が出来ており、それは、


 人の死がそこにあったと言うこと。


 今、僕の目の前に、目と鼻のさ…きっ!?


「…なっ何、今のっ?」


 突然に視線を感じ、それを感じた辺りを見るが誰も居ない。

 誰も居ない…居ないのに、ただ、"見えない何か"がそこかしこから"僕を見ている"のが分かる。

 ぼくはそんなのしらない、わかるはずがないのになぜか、


「…っ、……っひ」


 わかった…"そこかしこにいるって"。


 怖い。


 本能がそう叫んだ。

 全身が騒つく鳥肌が立つ冷や汗が止まらない頭痛がする喉が渇いて張り付いて唾が飲み込めない"何もないはず"なのに一際に"感じる場所"から視線が外れない足が動かない身体が動かない動いてくれない…向こうは動いてる気はいがあるのにうごいてよぼくのあしっ!


 動いて動いて動いて動いて動いて動いて動いて動いて動いて動いて動いてうごいてうごいてうごいてうごいてうごいてうごいてうごいてうごいて来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるな!!!


「っるなああぁああああああっっ…!!!!!」


 声帯を使って絶叫…それが僕に力を与えてくれた。

 動かなかった身体が金縛りから解放され、僕は踵を返して"気配を感じない"辺りの方へと全速力で駆け出した…そして、気配達もゆっくりと、だけども確実に追ってくる。

 走る…けど、付かず離れず…"あれ"にはこの進み辛い地形も関係なかった。


「っ、っは、っぐぅうう…!」


 どれくらい走ったのかは判らない。

 天然のトラップである木の根っこや大小の岩に躓き、身体のあちこちを強かに打ちつけながら僕は必死に逃げた。

 逃げながら"あれ"が何なのかを考えていた…いや、答えは簡単なんだ。


 要は此処が自殺の名所たる証明でしかない、それだけ"居る"という事。


 僕は霊感なんてないはずなのに今になって存在に気付く事が出来てしまって、結果それに追われるなんてっ!


「はっ、はっふはっ、っぐっ…っはぁ、はあっはぁ…~っく」


 あれからどれだけ走ったのかは判らない。

 只、判るのは奥へ奥へ、奥深い最奥へと逃げたイヤ、追い込まれているのかもしれない…けど、別にそれはいい。

 帰れなくていい。死ぬって覚悟したんだから、覚悟っあ!


「っぐあっ?! っ…たっ、っい…痛っ……っ! …………?」


 剥き出た根に足を取られたせいで僕は走りの勢いそのままに思いっ切りコケて、転がって何かにぶつかり、そのまま仰向けで倒れた所をすぐに立ち上がって周りを見渡した。が、あれだけ僕を追い立てた気配が今はない…一向に、来ない


「ふ…振り、切った…の?」


 思わず口をついたあと、押し寄せてきた感情は


 安堵だった。


 これから死のうという人間が安堵するなんて変に思うかもしれないけど、こんなの冗談じゃない。

 僕は静かに死にたい…だから、存在が何であっても誰かに、何かの手によって死ぬのはお門違いなんだっ。


「…けっ、構っ、お、奥にき、来たっのかなっ?」


 時計を見る余裕が出来て見やってみると、あれから更に30分経ってた。

 30分。その間をぶっ通しで走っていたらしい…人間追い込まれると凄いんだね、初めて知ったよ。


「…これがっ、毎日出来っ…てたらっ、違ったのかな」


 少なくとも何か、現在が一つは変わったかも…?


「…はっ、ははっ……何が、変わっただ」


 今更、なんだよ…そんなのっ。

 僕は自嘲すると後ろを振り返って樹海の奥であろう先を見つめる。

 とりあえず思ったのは、


 このままでは静かに死ねない…という事。


 さっきのアレがいつ来るかも解らない…なら、動ける内は動いて動けなくなった所で死のう。そこまで来て、もしもまだ"あれ"が追って来たならその時はもう、諦めよう。

 その時には逃げる気力も逃げようなんて考えも起きないだろうから。


「…よし」


 そして、僕は歩いた。時折、小走りになって奥へと進んだ。

 日も暮れて何もかもが闇で見えにくくなり始め、更に注意力は割かれていき、体力的にも精神的にも底を尽き始めた頃に


「?」


 "何か"を


「…え?」


 見つけた。


「ひ、かり? ぇ…何の?」


 視界の隅に捉えたのは、蒼い光。


「ぇ、まさか…人っ?」


 いや、


「…違う?」


 あれは…発光ダイオードみたいな、単調な人工の光じゃない。

 濃淡の波があるのか、光量が全く安定していないソレは光明の大半を生い茂る茂みや木々に阻まれてはいたが、この暗闇で気付くには充分なモノだった…けど、


「…か、関係ないよ」


 そう、関係ない。

 僕は死ぬんだからそんな事に興味なんか…と、その光から離れる方向に足先を向けようとして、


「…………、はあぁ」


 足が動かなかった…あの光に興味を抱いてしまった。

 好奇心は猫を殺す…なんて恐ろしい格言もあるのに、その光は僕の興味を死よりも更に惹かせてしまった。


「正体だけでも見て…この世の見納めにでもすればいいかな、うん」


 なんて、わざわざ声に出してしまうのが何だか情けない。けど、光へと足を向けると根を張ったかのように動かなかった足が嘘のように動くのはちょっとだけ嬉しかったりする。

 僕は内心でその事に苦笑すると、謎の光の元へと向かった。


「……ぅわあ…」


 大体、20分ほどして光の源に着いたんたんだけど…そこにあったのは一種異様な風景だった。

 拓けてもいない、狭々しい平らな地面に立ち聳えている大きな蒼い扉…まるで某有名メーカーのシリーズ物ゲームの中に出てる、扉のオブジェクトを思わせる雰囲気をそれは漂わせている。

 相違点として、あちらは片開きっぽくて背の高さぐらいしか無い感じだけど、僕の目の前にあるコレは両開きで優にそこら辺りにある大木並みにデカかった。


「ホント…扉だけ、だね」


 眺め回ってみると本当に、只単に扉が一枚あるだけ。


 かなりシュールだ。


 見てる内、妙な期待感を抱いた僕は扉の正面に立つと二つのドアノブを見やった。

 これだけのデカい扉のくせにノブの位置は普通の高さにあり、そこには鍵のようなモノは無く、見るからにこの扉は普通に開けれそうだった…これは、


「うん…悔いになりそうだなぁ。よし、開けちゃお!」


 そう誰にとも無く呟き、僕はドアノブを掴み…ん?


「…あれ…? 今、何か…」


 暖かかったような?

 二つのドアノブを握った瞬間、何故か暖かった。しかも、その暖かさが両方の手を通して僕の中へと染み込んでいったような気がした。

 身体が…芯みたいな辺りがぼんやりとあったかいけど何だろう?


「いや、どうでもいっか。早くしないとまたあの気配が来るかもしんないし」


 僕はそう結論付けると両の扉を思い切って引いた。そして見えた扉の景色は、


「まぁ…そうだよ、ね」


 さっき来た方向の景色だった。

 変に期待していた自分が、馬鹿みたいに思えてきた…は、ははっ。


「何、期待してたのっか、なぁ…僕はっ」


 僕は馬鹿馬鹿しく思い、俯きながら扉を潜るとソッと袖で目を拭った。

 潜った所で何も変わらない、樹海の中。


 何処か誰も知らない処へ行けるかもしれない。


 と、そんな事を勝手に夢想してた。

 誰も知らない、そんな土地、世界に通じてるかもしれないと。


「…あは、はっ…バカだ……だからっ、イジメられるんだっ!」


 驚く程、落胆してしまっている自分に辟易した。

 この扉の存在が有り得ないからって変に期待なんかするなっこの世界に非現実的なモノを求めてもそんなもの何処にも在りはしない! 見えるものだけが現実っこの扉はただ存在しているだけ、そういう現実なんだから…あぁ、もういいや。


「疲れちゃった…何かの縁だし、これに凭れて衰弱死もい…………ぇ、何これ?」


 振り向いてそれを見た瞬間、もう扉を閉めてそのまま凭れて死のうと考えていた意識が一気に消し飛んだ。

 あった。目の前に在った、


 違う世界の風景が。


 "押し開けられた"扉の中に今、居る樹海とは異なる景色…それは何処かの森の中の拓けた場所に通じている様に見えた。

 僕は思わず自分の頬を摘み、思いっ切り捻ってみ、ぁアイタタッ!?


「ゆ、夢じゃない? 夢じゃないっ! う、嘘…でしょ?」


 精神的に極限状態だから来る幻影というわけでもない。

 扉はちゃんとここに存在する。だから、この景色は本物…それが、現れた。でも、さっき"引き"開けた時にはそんな…?


「ぇ…もしかして元々、押し戸だったとか?」


 でも、呟いてみて実際、そうなのかもしれないと思った。

 反対側から開ければ"今、居る部屋"が見えるのは当たり前だ。なら、ちゃんと正しい位置から見れば、"隣の部屋"が見える。


「…でも」


 この扉の先は一体、何処に繋


「っかは!?」


 息が詰まった。

 突如として激痛を伴って現れた首への圧迫感…誰かが僕の後ろから首を、締…め…


「っ、っあ、あ・ぁ・あ・あ・あ・あ・っ!!」


 僕は我武者羅に腕…肘を思いっ切りに後ろへと放ち、足も後ろ…脛に向かって踵を振り下ろしたっ。


「っぐ?! っく、かはっ」


 手応えを感じると共に首の圧迫感が弱まり、一気に首と身体を捻って強引に引き剥がして慌てて離れる。

 あまりの不意打ちだった為、足りなかった酸素を無理矢理に取り込んで軽く噎せ、噎せた拍子に掴まれた箇所からの痛みに嗚咽が漏れる。

 そして、


「っ…な、何…っひ?!」


 明らかな殺意で以て首を絞めてきた相手を見るために振り向いて、僕はその相手の姿を見て思わず悲鳴を上げた。


「…、…、…、…、…、…、…、…、…、…、…、…、…、…、…、…、…、…、…、…、…」


 人…違うっ。

 それは人間なんかじゃない、人型としか形容出来ない姿…それは身体中を無数の他人の手で覆い尽くされ、外に向かって漂わせてる…そんな恐ましい姿だった。

 胴体や四肢、顔、果てには髪の毛まで手に取って代わり夥しいまでに生えている…赤ん坊のような小さい手、子供のような手少年のような手少女のような手。成人、壮年、老人と老若男女の手がその生き物を形作っていた。


「…、…、…、…」


「っひ…」


 手の化け物が一歩、また一歩と僕の方へと詰め寄って来…く、来るな!


「こ、来ないでよ……あっち、行けよぉおっ!!」


 地面を這って後退り、指が何かに触れ、それを…石を思いっ切り投げた。

 投げた石はそのまま顔らしき所にまともに当たる。が、投げた石もかなりデカくて血を吹き出す程の傷が出来たのというのに一瞬だけ動きが止まっただけで一向に怯みもせず、また一歩さらに一歩と化け物が詰め寄ってくる。


「ひっ…っ、いっ、いやっ、いっ、ぅ、うわあぁああああああっっ!!!」


 僕は辺りに散乱していた石を手当たり次第に拾っては化け物に向かって力一杯に投げ放ち、投げに投げて投げまくった。


「っ、っぁあ!」


 投げながら立ち上がった僕は両手でも、普段なら持ち上がりそうにもない程の岩を持ち上げ、化け物に投げた。

 その岩は投げた後になって僕の予想以上に重くデカいと思った瞬間、


「…、…、…っ」


 岩の重さと勢いのお蔭か、食らった化け物が僅かに怯んだ!


「っああぁああああああっ!」


 僕は踵を返すと無我夢中で扉の景色に向かって駆け出した。

 身体と勢いが噛み合わず、何度もコケそうになりながらも僕は扉を潜り抜けた。


「……、っ!」


 全く違う此方側の雰囲気を感じるのも程々に僕は扉の片方に手を掛けると思いっ切り後ろに向かって閉めると鈍い音が響いた! 

 …っはあぁあああっ!


「閉っ、まっ、れぇえっっ!!!」


 振り向き様に閉め損ねたその扉に向かって蹴りを放つと予想通りに化け物の半身が見え、同時に片方はこの蹴りで完全に閉まるっ…あと一枚


「っ、あっ!?」


 残りの一枚に手を掛け、いざ閉めようとした所で割り込む様に化け物が僕の足首を掴んできた。


「っ痛、痛いっ離してっ! 離しっ離せよっ、離せっ!!」


 15年生きてきて初めて、相手に命令し、語気を強く捲くし立てた。

 残りの一枚の扉を力任せに何度も何度も足首を掴む腕に叩き込む。そして、あまり隙間を開けすぎると身体を割り込ましてくると判ったので、ひたすらに肩と身体で扉を押し込んだ。

 その攻防の間も化け物は物凄い握力で以て足首を圧し、そこから激痛が走る。

 ミシミシと骨が軋む音が聞こえてきて


「っ、っ、っあ、あっ、あ・あ・あ、あぁああああっ!!」


 痛みで意識が朦朧とする中、僕は生まれて初めてキレた。


「っ離せ、離せ化け物野郎がっ!」


 足首を掴む手…とは別にその化け物の腕に纏わりついていた人間の手の指二本を掴むと思いっ切り、関節とは逆に折り畳んだ。そして、直接握る手に思いっ切り爪を立てて皮膚という肉を破りまくった。

 その時の僕はもう死ぬことなんか考えられなくなって、ただ目の前の存在から生き延びる事だけを考えた。


「っ、っこの…何でっ」


 相手の皮膚を突き破り、肉を千切り取って中から無数の指の骨で作られたモノが筋肉から見えているのに握力は未だに衰えず、尚も僕の足首を軋ませる…このままじゃ、折れるっ。な、何かっ何か無いのっ?!


「あっ、く………んあぁっ!」


 すぐ手の届く範囲に見つけた拳大の岩を見つけ、扉が開かないように四苦八苦しながら何とか手に取ると、


「っい! っ、く…う、痛、わぁあああっ!」


 それを力一杯に掴む手に向かって振り下ろした。

 力一杯に、何度も、何度も振り下ろす。力み過ぎて上手く手だけに当てられず、自分の足にも当たって激痛が走る。だけど、背に腹は変えられない!

 僕は頭や肩、その身で扉を押しつつ、痛みを堪える為に岩を持たない自分の手に噛み付き、ただひたすらに足首を掴む相手の手に岩を振り下ろし続けた。

 何度も何度も力一杯に岩を振り下ろす。

 白っぽかった岩が赤く染まっていく中、掴む手から吹き出す鮮血とそれの巻き添えにどんどんボロボロに、傷だらけになっていく僕の足…もう、殆ど痛みも感じなくなっていた。


「っ! っ、っ!!」


 痛みを堪える為、悲鳴を上げない為に噛み付いている自分の手からはもう皮膚を食い破り、肉に食い込んだのか、血の味がし始めている。

 両の手と足の片割れがどんどんボロボロに成っていく…相手の手も手首も骨がぐちゃぐちゃなのにまだ離さない。

 もう骨だけで掴んでいるようなものなのに何で放さないのっ!?


「…っ、うっーっぐ、っぃい!!!」


 叩くのを止めた僕は発想を変えた。

 叩き過ぎて欠けて割れた岩、その中で尖っている所を探しだすとぐちゃぐちゃになっている辺りに突き刺し、押し当てて擦り漕そぎ、肉を押し斬る事にした。


 伝わってくる肉を斬る感触、骨を削る振動。


 僕は瞼を閉じ、早く斬れるのを願った。 この恐怖から解放される様に何度も願った…願い続け、これがいつ終わるのか終わらないのかもと心が折れかけた時、


「…、…っ、? っうゎ」


 扉は唐突にして閉まった。

 バランスを崩した僕はそのまま、"前のめりに地面に倒れる"。


「は、はっ? は、っ…はあっ……っ」


 首を巡らして辺りを見回すけど何もない。

 あんなに大きかった扉はあの、閉まりきった瞬間に立ち消えていた…今までの攻防が嘘みたいに静まりかえっていた。


「っく、い、痛…い……痛い…いたい、よぉ…」


 僕の片足は、化け物の手から解放された代償に足の甲や足首・脛は岩の打撃でズタズタになり、ズボンの破れ目から見える打撲の鬱血で変色、裂傷で大量の血が流れている。

 痛みを堪えるのに噛んだ手や腕も袖の布地ごと歯が食い破って其処からも出血している。そして、岩を握っていた手も何度も打ち付けていた反動か、爪が割れ、指も折れているのか、動かしただけでそこからも激痛が走った。


 もう、満身創痍だった。


 傷からは温かい血がどんどん流れていて、僕の身体からどんどん温かさを失わせていく。


「死、ぬ…死ぬ…ん、だ? ぼ、く…僕は…こ、こで」


 死。

 この何処かも判らない森の中で僕は死ぬ。それを改めて実感し、僕は…


「死…に…たく、ないっ」


 死にたくないと願い、生きる事を望んだ。さっきまで死ぬ事を望んでいたのに怖くなかったのに、怖くなった。

 何も出来ず、甘んじて受け入れるだけだった自分がこうも必死になって、抗って、そして、勝った。それが、


 心残り、悔いになった。


 これが普段から、私生活で出来てたなら絶対に何かが変わっていた…変われたんだ、と。


「…っ…く、ひっく…っぐ、ぐすっ…うっ」


 僕はそれを知って、涙を流した。

 そして、


「っ…うっ…、あ…」


 心の底から生を望みながら、


「っ…、っ」


 僕は、


「っ…、…っ………」


 意識を失った。







 暗闇に沈む森の中にただ一点、宙に浮く小さな焔に照らされた部分が現れる。

 焔はゆったりと一方向に進み、それについて行くようにして歩く二人の長身の女性が行く先を照らしている。


「なぁ、」


 しばらく無言で歩いていた二人だが、その内の片割れがやる気のなさそうな声で口を開いた。


「本当に、"膨大な魔力"を感じたのはこの先なのか?」


 その言葉じりには胡散臭いと言いたげな含みが存分に加わっている。


「長が魔力を感知したのよ? 疑う気?」


「別に疑ってるわけじゃないけどさー…あたし達ですら遠すぎて及ばない程なのに、その口から"膨大な魔力"って言われてもピンと来ないんだよねー」


 それ相応以上の実力を身に付けていると自負があるのか、そのやる気の無さそうな女性からはそんな気配が窺い知れる。

 それを歯牙にも掛けて貰えず、自分達にも感じられなかったパッと出の存在を感じ取ってはいきなり指示を出されたのが面白くないようだった。


「"成人の旅"から無事に帰ってきて少しは大人になったかと思ったのに…相変わらず、親離れ出来ないのね。貴女って妹はどうして、そう…」


「う、うるさいなぁ」


 やる気の無さそうな女性を妹と言う、もう一人の女性。

 確かに見た目から年齢差を少し感じる程度だが、仕草から見るに確かに妹という女性と比べれば落ち着いているようにも見えた。


「母様……長にもう一度、旅に出させるもらうよう進言しようかしら」


「わっ、ね…姉様そ………ん?」


 姉と呼んだその女性の言葉に何か言い募ろうとした所でやる気の無さそうだった女性が何かを感じとったのか、一気に表情が引き締める。


「…? どうしたの?」


「血の臭いがする…しかも、人間のだ」


 それを聞いた瞬間、その女性の表情が強張る。


「人間…? まさか、"入口"でもない処から結界を破って入ってきたのっ?」


「判んないよ。とりあえず他に人間の臭いはしないから一人…そいつから他人の血の臭いはあんまり……何? 変な臭いがする?」


「…急ぐわよ? 案内して」


「あーい」


 剣呑な雰囲気を纏わせた姉は焔を消して歩を早めるが、それとは正反対に妹は先ほどとは打って変わった呑気な風で歩を早めると姉の横に並び、そのまま小走りすると少し先導し、森の闇へと消えた。

神楽(かぐら) (こう)

 14歳/150cm/38kg


 この物語の主人公。

 柔らかくクセの無い黒髪とくるくると良く動く黒い瞳を持っており、丸みのある顔と相俟って初見の人には女の子と間違われる事もしばしば。

 年齢の割に頭が良い。が、代わりにあまり身体の方は丈夫ではなく、しかも運動音痴。

 性格は以前は明るかったのだが、過度のイジメにより内気になり、少し自虐癖を持ってしまっている。その為、自分に対しての好評価には懐疑的で何人かに本当にそうなのかを何度か訊かないと全くと言って良いほど、本気にはしない。

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