表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

なろうラジオ大賞4参加作品

天才魔術師の究極魔法

本作は、なろうラジオ大賞4への参加作品です。

 王都のはずれの森の中に、彼は住んでいる。


 彼とは。

 元筆頭魔術師、天才マブロス。


 若くして得た栄誉職を棄て、もう何年も隠棲している。

 そんな彼の小さな住まいに、ある日一人の女性が訪れた。

 肩を震わせながら、女性は彼に依頼をする。


「忘却の魔法を、かけてください」


 マブロスは長く黒い髪をかき上げる。

 髪と同じ色の瞳には、彼女の依頼の目的が、既に見えている。


「断る。あれは身体への負担が大き過ぎる」


「でも……」


 女性は悲痛な声を出す。


「あなた様なら、あなた様にしか、出来ない魔法だと」


 それはそうだが。


「それほど忘れたい、何かがあるのか。マリノ侯爵令嬢」


 女性はびくりとしながら顔を上げる。睫毛が長い。

 王国でも有数の美女である。


「名も名乗らず失礼を」

「依頼は、王太子との婚約破棄と、関係が?」


 マリノは目を伏せ頷いた。


「何でも、ご存知なのですね……」


 噂は森にも届いている。

『真実の愛』に目覚めた王太子が、長年の婚約者を捨てたと。


 ぽたりと、マリノの目から涙が落ちる。


「十年、婚約者として過ごしていながら、わたくしは平民の女性に負けました。そんな自分を全て、忘れたいのです」


 マリノの言葉にマブロスの胸も痛む。色あせた過去の古傷だ。



(あのひと)を愛してしまったの!』


 あれは誰の声。

 その一言で、マブロスは筆頭魔術師を辞した。



「マリノ嬢」

「はい……」


「忘却の魔法には準備が必要だ。しばらく、ここに通ってください」


 マリノは指示に従って、それからしばしば、彼の元にやって来た。

 マブロスは特に何かをするでもなく、一緒にお茶を飲み、時には森の中を二人で散策し、花や小鳥を愛で、夜空の星を数えた。


 季節をいくつか過ごした頃、マリノは俯くことがなくなり、笑えるようになった。


「もう、此処へ来なくて良いです」

 

 マブロスは告げる。


「なぜです!」


「忘却の魔法、必要ないでしょう」


 そう、マリノの悲しみと痛みは、とっくに癒えていた。


「いいえ。また来ます」


 マブロスは首を傾げる。


「わたくしが今笑えるのは、殿下のことを忘れたからではなく、

 新しい幸せを見つけたから」


 マリノは大きな瞳でマブロスを見つめる。

 マブロスの顔が火照る。


「このままずっと、一緒にいたいのです。

 マブロス様と」


「私で良いのか?」

「あなただから、良いのです」


 マブロスの古傷は、その一言で消えていく。

 癒したつもりが、癒されていた。

 触れた指先が温かい。


 二人の結婚が王都で噂になるのは、このあとすぐである。


たくさんの作品の中から、わざわざお読みくださいまして感謝申し上げます!!


お話を少しでも気に入って下さいましたら、一番下の☆たちを★に変えて下さいますと嬉しいです!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 奇跡も、魔法も、あるんだよ( ˘ω˘ )
[一言] 時間とコミュニケーションこそが、古傷を癒やす忘却魔法なのかもしれませんね( ˘ω˘) 素敵なハッピーエンドでした~(*´艸`*)
[良い点] 力とか関係なく、小さな幸せが実るホットする、お話でした。楽しく読めました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ