救援?
──それは、普通に、貼ればいいのでは?
「いやー、呼び出し用にラベルとかつけても一々分けたこと自体忘れてしまう気がするっていうか……なんか負けたような気分になるんだよ。カラオケで、キー下げたときみたいに」
──下らないプライドです。次の点検が哀れなので……
「そ、そうだね……」
ちょっと舌打ちしながらも一旦保存し、領域再現テストをする。修復中がやがて完了になり、シャッターが上がった。
「……認証完了、と」
ちょっとドキドキする。
別に他人に何か言ってほしいとかじゃない。けど家族は執拗なまでに彼を下げたがるし、同級生も何人かは執拗なくらいに冷たかったから──
自分が何かを為し遂げることを見届けて、ちゃんと思い出を作ることが随分久しぶりで……何か完成して即座に横から全否定する声が聞こえてこない、静かな思い出があるだけで、尊いものだ。
「こちー」
ぬいぐるみを強く抱き締めると、ちょっと苦しそうにバタバタと揺れた。
「……お前は……、わからないか、」
ちょっと抱き締める手を緩めて
それを見つめる。
「ほんとは、理由はわかってる……俺が異形だからだって」
「こちー」
「普通に勉強だけで身に付けたとかじゃない、浮かんでくるんだ」
「こちー」
「……普段、バカみたいなことやってるくせに……でも言えるわけないだろ!
気味が悪いって言われるの、わかってるんだから」
「…………?」
「俺だって何度かさ、自分でも厨二病って、イタイって思おうとしたんだ……」
俺は夢を見てる、って、おかしいんだって、
「でも、わかって何が悪いんだよ、出来たら、いけないのか、なんで否定するんだよ、俺だって、出来そうな事をするしかないから……」
普通のことをして、普通に否定されないのって、凄いことなんだって、存在するだけで否定されるようなときに思ったりして──
「こちー?」
ふわふわ、白い毛並みを撫でる。
ビーズのつぶらな瞳がコトをじっと見ていた。
聞こえているのか、いないのか。
「ううん、なんでもない──じゃ、上行こうか」
階段を上がる。
途中で、なにやら不思議な空気を感じた。
それに――――
「あれ……なんか、目の前が、霞むな……」
体に急速な変化が起こっていた。
景色を見ている筈なのに、情報が入ってこない。
視力はあるのに、頭に景色が入ってこない。ぼやけて、何もわからない。
さっきまでそんなことは無かったのに、平衡感覚がいつもと違う。目の前が不安定に揺れていて、まるで水の中を漂っているみたいだ。
(なんだ、これ……)
不安で、胸が詰まりそうになる。
「なぁ、俺の足音、聞こえて、るか?」
「こち?」
自分の足音が、『どれ』か、わからない。かろうじて、コチーの声だけ聞こえている。
「――――、ちょっと、先に、歩いてくれるか? 地面が分かったら、立ち位置、考えて、歩くから……」
「こちー」
それ、が腕からふわりと浮き上がる。
やがて、ぽて、ぽて、と重そうな身体を引きずって上に向かって歩き出した。
伸ばした腕、が空を掴む。
感覚が覚束ない。頭の奥がずきずきする。何か、響いて居る。
目の奥が熱い。なんだか五感がマヒしているようだった。
酷い脱力感と、目の前と認識の間で乖離した症状が意識を揺さぶっている。
ぐるぐると、景色が回っている。
「……あー……誰か、来ないかなぁ、階段あり過ぎ……」
コトも壁に寄りかかったまま、肩を引きずるように、上を目指した。
「こち?」
「あ。つるんだ覚えも無いのに、勝手に背中に乗って、逃亡したりしないやつな」
「?」
「あれも、大変だったなぁ、あいつ勝手に俺が良いって言うまで繋いでろーとかって、さ、いつ道具になったんだって。勝手にやっててなんで今更文句言ってるんだろうな、そもそもいつから……」
ケタケタと笑いながら、目が回るのを感じながら、ええと、何しに来たんだったっけな。
「おーい!」
階下から、誰かの声がした。
キャノのようだ。
「無事?」
2023年4月6日16時59‐2023年4月8日21時16分




