ベヨネッタ2
「こりゃ大変だ。早く、システム異常を戻さないと……」
せめてマオちゃんを。
マオちゃんが居ないと、なんだか空気がいつもより淀んでいるように感じられる。
マオちゃんが動き回って居ればカオスが溢れていてもそれすら気にならなくなるような、変な予感がした。
なのに、こんなときに限って何処に行っているんだ。
「はぁ……はぁ……、びっくりした。カオスだかなんだか知らないけど、こんなこけおどしじゃ、大して驚かないぞぉ」
ベヨネッタ(?)はベヨネッタで、一人毒づいて銃剣をポケットに納めている。
「いえ、鯉氏に関しては俺たちじゃないですよ……」
彼が何処までの工作をしていて、他のメンバーが何処まで何をしてるかは知らない為、何処から突っ込むべきかはわからなかったが、とにかく彼によって腹を貫かれた鯉氏。重症のようで、びちびち跳ねながらも力なく横たわっている。
ちなみに、こんな中でもまだ地震は継続しているので、余計に混乱に拍車が掛かる。
この揺れなら、まぁタワーが倒壊することは無さそうだが、それでもちょっと足場が不安定だ。
他の皆はどうしているんだろう。
もしかすると何か、地下や上階でも異変が起きているのかもしれない。
(こんなところに居る場合じゃない。早く確かめに行きたいのに)
「こっちは驚いてますよ。マオちゃんは、何処に行ったんですか? ここのナビは……なぜベヨネッタが?」
コトはギリギリ踏みとどまりながら、話しかけた。
正直、今日は機嫌が悪い。
もはや何が悪いかも誰が悪いかも関係なく、全部濁流に飲み込んで消してやりたいような、謎の衝動が湧いてきて居る。自分はこんなに暴力的な性格だっただろうか?
コトは自分自身がわからなかった。これじゃあ、あの火事のときのみたいだ。
「さぁ? ロック解除に邪魔だから、って、榎谷さんが、ベヨネッタを貼り付けるように言っただけだしさぁ」
ベヨネッタが、薄ら笑いを浮かべた。開いた口元から、やけに突き出た犬歯が覗いて居る。
まるで吸血鬼……ちょっと不気味だ。榎谷さんって、誰だろう。
ぷらん、と突き刺さったまま、銃剣の先で回転している鯉氏。
そう思っているうちに、彼?はやがて手づかみした鯉を咥え、齧り付いた。
「ズズッ――――ズズズッ――――、ごくん。生の鯉の血……ごくごく。」
血を啜っている?
やがてその顔が上がる。次はお前だと言っているように、視線を合わせてくる。
「……はぁ。傷跡を今のうちに、っ、付けておきたいっ。なんでもいいから、お前たちに関わっておいて、うちの証を刻んでおきたい、その為ならなんだってよかった、お前たちに、我々が、認知されていた、とそう……消えない傷跡が残せれば……アビィも、きっと、望んでいるだろう」
何を、言っているかさっぱりわからない。
アビィって誰だ。
一方で、キャノは、カオスを手名付けているようで、背後は余計に混沌としている。
「ふざけるな!!」
ツッコミ不在の中、コトは声を張り上げた。
「認知されていないものを、無理矢理認知させたかったなんて、暴力だ!」
この、カオスのように。
そんなくだらない理由で呼ばれても、どうしようもない生命が苦しむだけなのに。
コトの脇をすり抜けて4本の腕だけで出来たよくわからない存在が、びょん、びょん、と跳ねて、やはり出口に向かう。鯉氏の死もベヨネッタにも眼中に無く、外に出たいようだ。
「そう言っても、出て来たものは仕方ないでしょ? じゃあ、このカオスはどうするのぉ? もともと、異形の民が言葉など持つからいけない、その責任ってのは」
「だからっ――――」
喋りたくない。
気持ちが悪い。何に対してだろう。何もかも、自分自身も、他人も。気持ち悪い。
でも、何か、何か言わなきゃ。
「だから、だからこそ、不用意に生み出すなって……」
触れられたくない事に、わざわざ触れるような言葉を言われてしまう気がして――――
「何でー? 俺らは怖くないのよ。だってあんなのが、街に溢れても、
責められるのはあんたたちだけ!」
「……っ!」
いたい。
突き刺さる言葉。
そのすぐ傍では『それ』や、他の『なんかわからない存在』が、いつの間にか数体集まって、
がた、がた、と、ドアを揺すり、開けようとしている。
不気味だけど、彼らは出て来ただけだ。
その姿はどこか悲しそうだった。
「もしかしたら、外もこうなってるかもしれないよ。俺を置いて、追いかけた方がいいのではー?」
心臓が高鳴る。
どくん、どくん、どくん、どくん。
うるさいくらいに暴れている。
どうしよう、追いかける?
(でも、この人が、誰かと待ち合わせて何かしているのだったら……)
――――そのときだった。
外側からドアが開き光が差し込むと、突如として鋭い衝撃波がフロアの前方1メートル辺りに響いた。
重たい風が吹き荒れ、ドアの傍にいた何かわからない存在が消えていく。
「対話が出来るなら、少しでも共存の道を探れると、
我々の祖先は考えたようだが……しかしまぁ、同じ言葉を使っていても、通じない者だって居るようだ」
そう自嘲気味に言いながら、歩み出て来た声だけで、コトには誰かわかった。
手には何やら重そうな椅子を抱えている。
(椅子?)
「た、太陽……!」
ベヨネッタが急に発狂する。
「あぁあぁ。お助けください……お助けください。榎谷様……」
太陽?
「案ずるな、こいつらは、ほどいただけだ。またカオスになって生まれるだろう」
きょとんとしたまま固まっているコトと、
一応、殺すことも出来るのだが、と苦笑しながら、彼に対峙するナナカマド。
太陽に怯えて観葉植物の影に隠れるベヨネッタ(?)
「待たせて済まなかった。いろいろ立て込んで居てな」
「はぁ……あの。みんなは」
「わからない。タワーに居ると思うが、連絡がつかないんだ。君たちと居ると思ったが」
「……いえ、俺たちも、今来たところで」
「マオちゃんが居なくなっているらしいな。報告は受けた」
「誰から?」
ふと、背後を見ると……そういえば、キャノが居なくなっていた。
「今、マオちゃんを呼び出しに行っているところだが……そのうち戻って来るだろう」
「よ、呼び出し?」
ベヨネッタはその影で怯えながらも着実に出口に向かっている。
「待て」
ナナカマドが低い声で呼び止めた。
「お前、今、榎谷と言ったか。なぜ吸血鬼の者が魔女狩りに加担している」
「だって、ヒロシさんがイタリアの……おっと、、なんでもない。それじゃ、また!」
観葉植物の影が液体のように揺れる。
ベヨネッタそこに溶け込むように身を沈め、床下に消えていった。
「あっ」
コトが追いかけようとするも、その時には既に、ベヨネッタは居なくなっていた。




